Rewind Seven

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第二章

第二章-04-

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 繁華街の中でも、奥の方にあるホストクラブ『クロウリー』に到着した輝斗たちは、悪魔の痕跡がないか調査を開始した。
「操作には協力しますが、開店前には済ませてくださいね」
 最初は店の中に入ることを拒否していた店長も捜査令状を見せると中に入れてくれた。それでも煙たそうに顔をしかめている。
「すぐに済みますから。それじゃあ、始めますね」
 幸弘は店長に一言断ってから動き出す。
 店内を輝斗と忍、そして幸弘の三人。店外を威と嵐、羽鳥が担当した。全体の指示は、移動用のワゴン車内で待機している隊長の政宗と千景。後方支援として侑李も同席している。
「思ったよりも広いフロアだ」
 店の中は黒を基調とした内装で、ピカピカに磨かれた床は掃除が行き届いている。見上げれば、豪華なシャンデリアがいくつも吊されていた。華やかに彩られた花が飾られ、壁には人気順にホストの顔写真が並んでいる。
 開店前のため従業員もまばらだが、黒服やキッチンのスタッフは集まっているようで、距離を置いて輝斗たちの様子を窺っていた。
 身につけているアミュレットの石の反応を確認しながら、幸弘は周囲を慎重に見回している。彼の様子から店長も含め、この中に怪しい人物はいないようだ。
「何か異常はあったか?」
「悪魔の気配はないよ。でも……」
 石が微かに瞬いている。何かに反応しているのは確かだ。
「悪魔じゃないけど、微かにクラフトの気配がする」
「クラフトだと?」
 輝斗は片眉を上げた。幸弘は頷き、より強い反応がある場所を探そうと歩を進める。
「フロアだけじゃ判別がつかないな。スタッフルームに移動するね」
 奥にあるスタッフルームの扉を開け、同じように石の反応を探る。幸弘がロッカールームの扉を開けた瞬間、輝きは増した。
「反応が強い。今いる従業員以外で特殊能力者がいる」
「つーことは、ホストの中にクラフト使いがいるのか」
 忍が唇を歪め、ゆったりとした動作で腕を組むと壁に寄りかかった。
 悪魔殲滅を目的とするTJ部隊の隊員は、全員特殊能力クラフトを操る。彼らが特別であるように、犯罪者の中にも能力者が稀に存在する。そして、クラフト使いである犯罪者の多くは悪魔憑依者。または悪魔と契約した者の可能性が高い。
 そもそも特殊能力を操る者は多くない。市民の多くは普通の人間だ。TJ部隊のように特殊な職に就いている者や神官。一部の軍人以外むやみに力を使うことを法律で禁止している。
 特殊能力者は、力を持たない者からすると畏怖の対象だ。彼らが迫害を受けないように。そして能力を誇示しないように。国は特殊能力者に対し社会的地位を与えることで秩序を保っていた。
 しかし、稀に枠から外れて犯罪に手を染める者も存在する。TJ部隊は悪魔だけではなく、クラフト使いの犯罪者を捕まえる任務もあった。
「誰か特定できるか?」
「ちょっと待ってね……」
 幸弘はロッカーの前に立ち、ひとりずつ調べていく。すると、一つのロッカー前で石が強く反応した。
「彼だ」
「おい、店長。このロッカーの持ち主は誰だ?」
 忍の隣で、店長が震える声で答える。
「それは……アキラです」
 店長はクラフト使いだと知らなかったようだ。青ざめた顔でロッカーを見つめている。
「アキラについて詳しく話してほしい」
「は、はい……」
 コクコクと何度も頷き、店長は早口で話し始めた。
 源氏名アキラは、つい最近人気ナンバーワンになったホストだ。それまで一度も上位に入ることもないうだつの上がらない男だったが、突如指名が増えた。特に他のホストから客を奪ったわけでもなかったので、店長もスターが誕生するのは大歓迎だと喜んでいたそうだ。
「なるほど……。直接本人に確認したいので、彼の自宅を教えてくれますか?」
「分かりました」
 すぐに店長はアキラの住所を教えてくれた。
「クラフト使いだから犯人というわけでもないが、限りなく黒に近いな」
「人気になりたくて、悪魔と契約したとかじゃねぇの?」
 輝斗の呟きに、忍が適当に答える。
「とにかく、本人に会おう」
 店を後にした輝斗達は、その足でアキラの自宅へ向かうことにした。

     × × ×

 繁華街からほど近くの古めかしいアパートが、アキラの自宅だった。
「てっきり高級マンションに住んでるのかと思ったんだがな。ボロくね?」
「人気ナンバーワンになったばかりだと店長も言ってたし、もともと生活が苦しかったんだろう」
 忍はアパートから視線を移し、通りの先を見やる。
「ここからだとスラムが近い。あそこに逃げられたら面倒だな」
 資本主義の東都市ミナトシティにおいて貧富の格差は社会問題になっていた。やむ得ない事情で貧民街スラムに暮らすしかない人々もいる。ある種の治外法権的な場所で、奥へ進めば進むほど警察の手が届かないため、犯罪者の巣窟でもあった。
 スラムの中は複雑な構造になっている。あそこに逃げ込まれたら容易に見つけられない。
「厄介だな……」
「それにしても、全然出てこないな」
 先ほどから何度もインターホンを押しているのだが、中から反応がない。
「居留守の可能性もある」
「ううん、本人は不在みたいだ」
 透視能力で中の様子を感知した幸弘は緩く首を振った。
「クラフト反応が、ホストクラブで感知したのと一緒だ。アキラは能力者で間違いない」
「そうか」
「で、肝心の本人は何処に……」
 忍が言いかけたその時だった――。
『こちらNr.8ヌマー・アハト。スラム街で、若い女性の遺体が発見された』
 千景からの通信に、三人の表情が険しくなる。
「すぐに現場へ向かいます。地図を転送してください」
『了解。僕もそっちに向かうから、後で合流しよう』
 通信を切り、手帳型タブレットに転送された地図を確認する。
「行こう」
「はいよ」
「うん……」
 三人はアパートからスラム街へと移動した。

     × × ×

 現場に到着した輝斗たちは、先に来ていた千景と合流した。警察が現場検証を行う中、遺体の女性を確認する。
「恍惚とした表情……」
 幸せそうな表情で息絶えているのは、これまでの被害者と共通している。犯人は同一人物で間違いない。
「亡くなって間もないから、情報も拾いやすいと思う。失礼……」
 一言断ってから、千景が遺体の前に片膝をついた。手をかざし、目を閉じて意識を集中する。普段、彼は前線に立たないが能力的には部隊の中で最も優れている。
 輝斗たちは二つのクラフト能力を持っているが、千景は相手に念を送る遠方感知テレパシー索敵能力ダウジング物体移動テレテンポレーション。そして千里眼サイコメトリーの四つを操るエキスパートだ。そのため、全部隊の中でもトップクラスである。しかも彼の父親は神官一族。母親は陰陽師の家系で、彼自身も優秀な陰陽師だ。
「つくづく思うが、あんたが戦えば、どんな事件もあっという間に片付くだろ」
 忍の言葉に、千景は苦笑を漏らす。
「僕は体力がないから実動隊コマンドには向かないよ」
 能力だけ見ると千景は誰よりも優れているが、ハイスペックすぎるために力を多用し続けることが出来なかった。それだけ消耗が激しいのだ。
「それにほら、護身用に銃は携帯してるけど、決して上手いわけじゃないから」
「まあ……確かに」
 射撃訓練の成績を思い出し、忍は渋い顔になる。
 人より多くのクラフトを持つ反動から消耗が激しく実戦向きではないが、別に虚弱体質なわけではない。本人も話しているが、銃の扱いも得意ではなかった。しかも忍のように刀を扱うのも得意ではない。故にサポート役が最も適していた。
「ああ、千里眼サイコメトリーで若い男の顔が見えた。顔写真で見たアキラと酷似してる。彼が犯人で間違いないよ」
「了解。すぐにアキラの行方を追います」
「待って、輝斗」
 身体の向きを反転させた輝斗を、すかさず呼び止める。
「アキラの捜索は羽鳥たちに任せよう。彼らのいる場所からのが近い」
 千景の瞳は、既にアキラの姿を捉えているようだ。銀縁眼鏡の奥で仄かに光る瞳は輝斗ではなく、どこか遠くを見ている。
「こちらNr.8ヌマー・アハト。羽鳥、そういうことだから威と嵐と一緒にアキラを追ってほしい」
 通信をオンにすると、千景は能力で見たアキラのことを簡潔に伝えた。
『了解。この先は通信より、きみの遠方感知テレパシーの方が速いだろうから、何かあったら念を飛ばしてくれる?』
「ああ、そうするよ。健闘を祈る」
『ありがとう。じゃあね』
 羽鳥も千景同様に遠方感知テレパシーを持っている。加えて物体移動テレテンポレーションの千景に対し、物体を任意の座標へ出現させるアポーツという能力を羽鳥は操れた。そのため、このふたりの相性は最高で輸送に適している。
「欲しい情報は得られた。この場は警察に任せるとして、僕は隊長の所に戻るね。輝斗たちは反対側からアキラを追い詰めてほしい。場所は、この辺りだから」
 手帳型のタブレットに地図を転送した千景は、にっこり微笑んだ。
「分かりました」
 場所を確認した後、輝斗は懐にタブレットをしまった。
「幸弘も僕と一緒に戻ろう」
「はい。輝斗、気をつけてね」
「それじゃあ、いってくる」
「かったりぃな」
 走り出した輝斗の後を、だるそうに忍も追いかけた。
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