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第二章
第二章-05-
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一方、千景から送られてきた地図を頼りに羽鳥たちはアキラを追っていた。
貧しい者、何らかの事情で迷い込んだ者など、わけありの人間が多く集うスラム街。入り組んだ迷路のような細い道が、いくつも広がっている。道幅も狭く、むき出しのコンクリートの建物が複数あり、全体的に薄暗い印象だ。環境整備もされていないので、汚水の臭いが充満していて不快感を煽った。
「オレ、スラム街苦手。暗いし狭いし臭いし汚いもん。こんな所にアキラは本当にいるの?」
「そのはずだよ」
嫌悪を露わにしている嵐に、羽鳥は穏やかな口調で答えた。
「千景さんの能力は百発百中じゃん。すぐに見つかるって……」
楽観的に答えた威は角を曲がった所で立ち止まった。
「あっ!」
「どうしたの?」
ぽかんと口を開けている威の横にやって来た羽鳥は、不思議そうに尋ねる。
「いた……」
威が指さす先を見やる。
白いスーツ姿の若い男が、ビルとビルの間の隙間を目指している。顔写真で見たアキラの容姿に酷似していた。
「みーつけた。オレが捕まえるね♪」
「嵐!?」
羽鳥が呼び止める間もなく、嵐は加速で一気に速度を上げようと地を蹴ると、アキラの元へ突っ込んだ。
「なっ!?」
気配を察したアキラは、振り返るなり驚愕の表情を見せた。
「遅い!」
大腿に巻いているベルトから投擲用ナイフを取り出した嵐は、アキラに向けて投げつける。
「くっ……」
手をかざして見えない障壁を築いたアキラは攻撃を防いだ。
「へえ、じゃあこれは?」
着地するなり、嵐はサバイバルナイフを両手で構え、一足飛びで間合いを詰める。素早い身のこなしで切りつけるが、これも難なく防がれてしまう。
「ふーん、少しは能力を使えるみたいだね」
さして興味なさそうに呟くと、嵐は障壁を破ろうと何度も切りつける。
「邪魔するなああああっ!」
アキラの叫び声と共に突風が吹き荒れた。
「うわっと」
ふわりと宙を舞った嵐は、くるんと一回転して地面に降り立つ。
「嵐、前に出すぎだよ」
嘆息し、威が駆け寄る。
「だって、さっさと終わらせたかったんだもん」
「貴様ら、その制服……」
歯をむき出しにして警戒するアキラに、威は両手を振りながら口を開く。
「えっと、怪しい者じゃありません。俺たちはTJ部隊です」
「やっぱり悪魔狩りの連中か。オレを捕まえに来たのか?」
「うーん、そういうことになるのかな」
曖昧に答えると、アキラは吐き捨てるように叫んだ。
「くそっ、捕まってたまるかぁっ!」
かざした手の平から赤い閃光が走った。
「うわわっ」
「わっ!?」
咄嗟に左右に散った威と嵐の背後で爆発が起きる。あまりの破壊力に、さぁっと血の気が引いた威は声を大にする。
「暴力反対。話し合いましょう!」
「ちょっと、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「嵐の意見に賛成だね。無力化させることを優先にした方がいいかな」
フックショットを使ってふたりの傍に降り立った羽鳥はアキラに向けて銃口を向け、引き金を引く。
「くそっ、くそっ!」
アキラは障壁で弾丸を防ぐと、すぐさま地面に手を置いた。
「出てこい!」
叫び声に呼応し、地面に赤い魔方陣が描かれる。中心から姿を現したのは、緑色した一つ目の巨大な赤いクラゲだ。
「うげえ、気持ち悪い」
「なんか変なのが、わらわら出てきたんだけど~!」
一匹、二匹……と魔方陣から次々と赤いクラゲの悪魔が湧き出てくる。
「あれはノミノンだね」
「なにそれ?」
初めて聞いた名前に、目をぱちくりさせながら威が羽鳥に質問する。
「それは……」
「面倒だから、まとめて消しちゃおう!」
羽鳥の言葉を最後まで聞かずに、再び加速で突っ込んだ嵐は、拳銃でノミノンを撃ち抜いていく。水風船が破裂したような音を立てて、あっさりと消滅した。
「なんだ雑魚じゃん。楽勝!」
勝ち誇った笑みを浮かべ、嵐はノミノンを次々と倒していくが……。
「嵐、深追いは禁物だよ!」
「大丈夫だって……うげっ!?」
一匹のノミノンが、嵐に向かって突進してきた。避けきれず、ぶつかってしまう。
パシャンッ――。
水が跳ねるような音がした。嵐の身体にドロドロしたジェル状のものがまとわりつき、動きを封じる。
「なにこれ、動けないんだけど」
「嵐!」
身動きがとれなくなった嵐に、次から次へとノミノンが体当たりしていく。
「うわああああああ!」
全身赤いジェルまみれになって、嵐は悲鳴を上げた。
「今のうちに……!」
「待て!」
もたついている間に、アキラは逃げ出す。行方を阻むように大量のノミノンが道を塞いだ。
「くっ……この先は進めないな。ノミノンまみれだ」
「どうしよう、羽鳥さん。嵐がドロドロだよ」
威は液体を被らないように距離を取りながら、発砲をし続ける。これ以上、嵐に近づけさせないよう必死に阻止している。それでも数が多すぎて切りがない。
「ノミノンは目標にぶつかって動きを封じるんだ。大して強くないけど、足止めとして充分な働きをする」
「確かに、嵐がドロドロで動けないね」
「感心してないで、何とかしてよ~」
泣きそうな声で訴えている嵐に、羽鳥と威はどうすることもできない。
「うーん、困ったな。……千景、聞こえる?」
念を飛ばし、羽鳥は千景とコンタクトを取る。
『状況は飲み込めたよ。そっちの座標にノミノンを浄化する札を送るから、それを使ってくれる?』
「ありがとう。ごめん、アキラを逃がした」
『その件は、輝斗たちに逃走経路を転送済みだよ。後は彼らに任せよう』
「さすがだね、千景」
既に手を打っていたことに安堵のため息を零す。
『すぐに札を転送するから、君の能力で受け取ってほしい』
「了解」
会話を終え、羽鳥はべったりと液体が張り付いて座り込んでいる嵐に話しかける。
「そういうことだから、安心していいよ」
「うぅ……。早くしてぇ~。シャワー浴びたい~」
「災難だね」
呻いている嵐の前にしゃがんだ威は目線を合わせると苦笑を漏らした。
しばらくして、千景が送った浄化の札を羽鳥の能力で受け取ると、なおも襲いかかってくるノミノンに向けて放った。
刹那、札から白い光を発せられ、周囲を飲み込んだ。水分が蒸発すると、たちまち熱気を帯びた水蒸気が立ち上り、ノミノンは跡形もなく浄化される。
「ふう……」
肩の力を抜いた羽鳥は一息つくと、威と嵐の方へ向き直る。
「雑魚悪魔だけど、数が多いと厄介だよね」
「嵐、もう大丈夫だよ」
まとわりついていたドロドロの液体も消え失せたが、嵐はその場に座り込んだままだ。自身を抱きしめるようにして、両腕をしきりにさすっている。
「まだ気持ち悪い感触が残ってる気がする……。シャワー浴びたいから、天々来に帰る!」
「今は難しいかな。輝斗たちがアキラを追ってるし、俺たちも合流しないと……」
「だったら、威と羽鳥さんだけ行きなよ。オレ、もう無理だから!」
「うーん……」
「始まったね」
「無理無理無理っ! 無理ったら無理なのっ!」
嵐の我が儘が始まった、と羽鳥と威は顔を見合わせ、重いため息を吐いた。
貧しい者、何らかの事情で迷い込んだ者など、わけありの人間が多く集うスラム街。入り組んだ迷路のような細い道が、いくつも広がっている。道幅も狭く、むき出しのコンクリートの建物が複数あり、全体的に薄暗い印象だ。環境整備もされていないので、汚水の臭いが充満していて不快感を煽った。
「オレ、スラム街苦手。暗いし狭いし臭いし汚いもん。こんな所にアキラは本当にいるの?」
「そのはずだよ」
嫌悪を露わにしている嵐に、羽鳥は穏やかな口調で答えた。
「千景さんの能力は百発百中じゃん。すぐに見つかるって……」
楽観的に答えた威は角を曲がった所で立ち止まった。
「あっ!」
「どうしたの?」
ぽかんと口を開けている威の横にやって来た羽鳥は、不思議そうに尋ねる。
「いた……」
威が指さす先を見やる。
白いスーツ姿の若い男が、ビルとビルの間の隙間を目指している。顔写真で見たアキラの容姿に酷似していた。
「みーつけた。オレが捕まえるね♪」
「嵐!?」
羽鳥が呼び止める間もなく、嵐は加速で一気に速度を上げようと地を蹴ると、アキラの元へ突っ込んだ。
「なっ!?」
気配を察したアキラは、振り返るなり驚愕の表情を見せた。
「遅い!」
大腿に巻いているベルトから投擲用ナイフを取り出した嵐は、アキラに向けて投げつける。
「くっ……」
手をかざして見えない障壁を築いたアキラは攻撃を防いだ。
「へえ、じゃあこれは?」
着地するなり、嵐はサバイバルナイフを両手で構え、一足飛びで間合いを詰める。素早い身のこなしで切りつけるが、これも難なく防がれてしまう。
「ふーん、少しは能力を使えるみたいだね」
さして興味なさそうに呟くと、嵐は障壁を破ろうと何度も切りつける。
「邪魔するなああああっ!」
アキラの叫び声と共に突風が吹き荒れた。
「うわっと」
ふわりと宙を舞った嵐は、くるんと一回転して地面に降り立つ。
「嵐、前に出すぎだよ」
嘆息し、威が駆け寄る。
「だって、さっさと終わらせたかったんだもん」
「貴様ら、その制服……」
歯をむき出しにして警戒するアキラに、威は両手を振りながら口を開く。
「えっと、怪しい者じゃありません。俺たちはTJ部隊です」
「やっぱり悪魔狩りの連中か。オレを捕まえに来たのか?」
「うーん、そういうことになるのかな」
曖昧に答えると、アキラは吐き捨てるように叫んだ。
「くそっ、捕まってたまるかぁっ!」
かざした手の平から赤い閃光が走った。
「うわわっ」
「わっ!?」
咄嗟に左右に散った威と嵐の背後で爆発が起きる。あまりの破壊力に、さぁっと血の気が引いた威は声を大にする。
「暴力反対。話し合いましょう!」
「ちょっと、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「嵐の意見に賛成だね。無力化させることを優先にした方がいいかな」
フックショットを使ってふたりの傍に降り立った羽鳥はアキラに向けて銃口を向け、引き金を引く。
「くそっ、くそっ!」
アキラは障壁で弾丸を防ぐと、すぐさま地面に手を置いた。
「出てこい!」
叫び声に呼応し、地面に赤い魔方陣が描かれる。中心から姿を現したのは、緑色した一つ目の巨大な赤いクラゲだ。
「うげえ、気持ち悪い」
「なんか変なのが、わらわら出てきたんだけど~!」
一匹、二匹……と魔方陣から次々と赤いクラゲの悪魔が湧き出てくる。
「あれはノミノンだね」
「なにそれ?」
初めて聞いた名前に、目をぱちくりさせながら威が羽鳥に質問する。
「それは……」
「面倒だから、まとめて消しちゃおう!」
羽鳥の言葉を最後まで聞かずに、再び加速で突っ込んだ嵐は、拳銃でノミノンを撃ち抜いていく。水風船が破裂したような音を立てて、あっさりと消滅した。
「なんだ雑魚じゃん。楽勝!」
勝ち誇った笑みを浮かべ、嵐はノミノンを次々と倒していくが……。
「嵐、深追いは禁物だよ!」
「大丈夫だって……うげっ!?」
一匹のノミノンが、嵐に向かって突進してきた。避けきれず、ぶつかってしまう。
パシャンッ――。
水が跳ねるような音がした。嵐の身体にドロドロしたジェル状のものがまとわりつき、動きを封じる。
「なにこれ、動けないんだけど」
「嵐!」
身動きがとれなくなった嵐に、次から次へとノミノンが体当たりしていく。
「うわああああああ!」
全身赤いジェルまみれになって、嵐は悲鳴を上げた。
「今のうちに……!」
「待て!」
もたついている間に、アキラは逃げ出す。行方を阻むように大量のノミノンが道を塞いだ。
「くっ……この先は進めないな。ノミノンまみれだ」
「どうしよう、羽鳥さん。嵐がドロドロだよ」
威は液体を被らないように距離を取りながら、発砲をし続ける。これ以上、嵐に近づけさせないよう必死に阻止している。それでも数が多すぎて切りがない。
「ノミノンは目標にぶつかって動きを封じるんだ。大して強くないけど、足止めとして充分な働きをする」
「確かに、嵐がドロドロで動けないね」
「感心してないで、何とかしてよ~」
泣きそうな声で訴えている嵐に、羽鳥と威はどうすることもできない。
「うーん、困ったな。……千景、聞こえる?」
念を飛ばし、羽鳥は千景とコンタクトを取る。
『状況は飲み込めたよ。そっちの座標にノミノンを浄化する札を送るから、それを使ってくれる?』
「ありがとう。ごめん、アキラを逃がした」
『その件は、輝斗たちに逃走経路を転送済みだよ。後は彼らに任せよう』
「さすがだね、千景」
既に手を打っていたことに安堵のため息を零す。
『すぐに札を転送するから、君の能力で受け取ってほしい』
「了解」
会話を終え、羽鳥はべったりと液体が張り付いて座り込んでいる嵐に話しかける。
「そういうことだから、安心していいよ」
「うぅ……。早くしてぇ~。シャワー浴びたい~」
「災難だね」
呻いている嵐の前にしゃがんだ威は目線を合わせると苦笑を漏らした。
しばらくして、千景が送った浄化の札を羽鳥の能力で受け取ると、なおも襲いかかってくるノミノンに向けて放った。
刹那、札から白い光を発せられ、周囲を飲み込んだ。水分が蒸発すると、たちまち熱気を帯びた水蒸気が立ち上り、ノミノンは跡形もなく浄化される。
「ふう……」
肩の力を抜いた羽鳥は一息つくと、威と嵐の方へ向き直る。
「雑魚悪魔だけど、数が多いと厄介だよね」
「嵐、もう大丈夫だよ」
まとわりついていたドロドロの液体も消え失せたが、嵐はその場に座り込んだままだ。自身を抱きしめるようにして、両腕をしきりにさすっている。
「まだ気持ち悪い感触が残ってる気がする……。シャワー浴びたいから、天々来に帰る!」
「今は難しいかな。輝斗たちがアキラを追ってるし、俺たちも合流しないと……」
「だったら、威と羽鳥さんだけ行きなよ。オレ、もう無理だから!」
「うーん……」
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「無理無理無理っ! 無理ったら無理なのっ!」
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