Rewind Seven

tasuku

文字の大きさ
16 / 64
第三章

第三章-序-

しおりを挟む
 スラムにある廃ビル屋上に、何者かが佇んでいる。手足の長いすらりとした体型をしており、もともと長身だが十センチ近いヒールを履いていた。高く盛られた髪型と濃い目の化粧、そして煌びやかなアクセサリーを身につけているところから夜の世界で働いていそうな雰囲気だ。
「風に混じって血と硝煙の臭いがする……。ふふっ、興奮してきちゃう♪」
 女性にしては低めの声だが、逆にミステリアスな雰囲気を一層引き立てている。動くたびに丈の長い細身のドレスが、まるで蝶がヒラヒラと舞うように揺れた。
 おもむろに彼女は肘を曲げた。ストーンがちりばめられた美しいネイルで彩られた長い指を丁寧に折り曲げ、また広げる。一呼吸置いて、野球ボールくらいの大きさの青白い炎が灯った。彼女は冷ややかに一瞥すると、あろうことかそれを握りつぶした。
「快楽に溺れたいという欲求を叶えてあげたのだから、アキラも満足でしょう」
 ゆっくりと広げられた手の平は、熱くなかったのか火傷の痕もない。赤いルージュが引かれた唇をペロリと舐めると、満足そうに熱い吐息を漏らした。
「魂、ごちそうさま」
 極上の笑顔を浮かべ、彼女は腕を下ろした。青白い炎は輝斗たちが捕らえた男、アキラの魂だ。
「さあ、次の魂狩りを始めましょう」
 ドレスを翻し、くるりと身体の向きを反転させる。コツコツとヒールの歩く音を響かせながら進む先には、呆れた眼差しで彼女を見ている小柄な青年とソフト帽を被った長身の青年が佇んでいた。
 小柄な青年は、若葉色の長い髪を部分的に編み込んでいる。透き通るような白い肌に右目は橙色、左目は灰色と左右で異なる特徴的な容姿をしていた。
「たったひとりの魂に、どんだけ時間を掛けるわけ?」
「あたしは愛と欲望に忠実な人間の味方よ。構ってあげてる間は気長に見守る主義なの。時間をかけた分、魂の熟成も増すと思わない?」
「オレは、のんびりしてる暇はないって言いたいの!」
 軽い調子で答えるので、青年は口調を強めた。
「もう、マオはせっかちね。そんなんじゃモテないわよ?」
 マオと呼ばれた青年は、額に手を当てて嘆息した。それから、キッと目を釣り上げて声を荒げる。
「別にモテたくないし! てか、おまけで変な奴らまで引き寄せてんじゃん。はあ……面倒臭い」
「ああ、TJ部隊ね。それなら足がつく前にアキラを始末したんだし、いいじゃない」
「お気楽すぎ。前の都市で、あいつらが散々オレたちの邪魔をしてきたのを忘れたわけじゃないよな?」
「もちろん、覚えてるわよ」
 楽しそうに笑った後、瞳が怪しく光る。
「あたしたちの邪魔をするなら、殺せばいいだけでしょ」
「そうだけど……」
「……ということで快楽を求める人間を、どんどん貶めなさい。闘争と快楽の悪魔侯爵レライエ」
 背後で黒い影が蠢く。やがて人の形になり、緑の衣を纏った老人が姿を現した。手には大きな弓を携えている。
「仰せのままに」
 恭しく頭を下げると、闇の中に溶け込んだ。
「ソロモン七十二柱のひとり、序列二十七番目の悪魔侯爵。弓と矢筒を持つ緑の射手レライエか……」
 これまで無言を貫いていた男が口を開いた。ソフト帽を被った赤紫色の髪は猫っ毛で、切れ長な金色の瞳が印象的だ。白いインバネスコートを纏う姿も様になっている。
「レライエって普段はアスタロスの従者をしてるけど、お願いして特別に連れてきちゃった♪ アキラの後片付けも見事だったでしょう?」
「まあな……」
 さして興味ないのか適当な返事だ。
 彼らがいる場所から少し離れた廃ビルから、黒いマントを羽織ったTJ部隊の隊員らしき男がふたり出てきた。仲間を呼んでいるのか何か話している。
「…………」
 男の視線は、黒髪の青年に注がれている。
「あの黒髪の子が気になるの?」
「別に」
「はぐらかさなくてもいいじゃない」
「……見知った男だと思っただけだ」
 少し間を置いてから男は答えた。
「あら、意味深な発言ね」
 詳しく聞かせてちょうだい、と興味津々の女性を無視して男はきびすを返す。
「長居をすると奴らに気づかれる」
「あっ、待てよ!」
 マオは一度TJ部隊の方を見てから、男の後を追う。
「つれないわね。そんな所も好きだけど♪」
 肩をすくませ、女性はのんびりと歩き出した。
 三人が建物の影に入ると、そのまま闇の中に溶けて消える。

 さあ、災いの種を蒔こう。
 もっともっと、人間の魂を狩ろう。
 怒りと悲しみを……絶望と恐怖を広めよう。
 やがて、この都市全てを飲み込むくらいに――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...