Rewind Seven

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第三章

第三章-01-

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 翌日。ノートパソコンを膝の上に乗せ、千景はアキラの背後にいる悪魔の正体を探ろうと情報を整理していた。
「少し休んだ方がいいんじゃない?」
 テーブルの上にコーヒーが入ったマグカップを置いた羽鳥は、心配そうに声を掛けると隣に座った。
 ミーティングルームには千景と羽鳥しかいない。普段座っているパイプ椅子ではなく、千景は羽鳥が腰掛けているL字型のソファーにいた。
「心配してくれて、ありがとう。今回の件は謎が多い。もう少しだけ進めておきたいんだ」
「でも、ネットだけじゃなくて式神も飛ばしてるんだろ? 昨日は調査で力を使っていたし、今日もだと千景が潰れてしまうよ」
 銀縁眼鏡の奥で黒い瞳が仄かに光っている。千里眼サイコメトリーも同時に使用しているのは明かだ。
 千景が全部隊でもトップクラスと言われる所以はクラフトを四つも宿していることだが、中でも千里眼サイコメトリー――あらゆるものを見通す瞳を宿す者は、世界中のクラフト使いを探しても数える程度だ。神官一族である草薙家の中でさえ、その希有な瞳を持つのは当代では彼のみである。稀少すぎる存在故に、本来ならば神官になるべきだが本人たっての希望でTJ部隊に入隊した。
 見えすぎるということは、それだけ入ってくる情報量が多い。現在進行系で千景の脳に多大な負荷が掛かっているのは明白だ。
「大丈夫だから。僕を信じて、ね?」
 柔らかく微笑む千景に、羽鳥はそれ以上何も言えなくなってしまう。
 頷いた羽鳥に感謝し、千景はパソコン画面へ視線を戻す。
「悪魔の介入によってアキラを捕まえることは出来なかったけど、いくつか情報を得られたよ」
 言いながら、フォルダ内にあるファイルを開く。
「経歴を詳しく調べた結果、アキラは元からクラフトを使えたわけじゃなかった。彼が低級悪魔のノミノンを召喚できたのも、僕らの攻撃を障壁で防いだのも全て契約した悪魔の恩恵だ」
 過去の悪魔絡みの事件で、酷似したものがないか本部に保存されているデータを徹底的に検索していく。
「輝斗と忍の報告によると、どこからともなく炎の矢が飛んできたそうだよ」
 羽鳥は自身の部隊手帳を開き、提出されたふたりの報告書を見返していた。
「炎の矢か……」
「気になるの?」
 顎に手を当てて考え込む千景を訝しげに見やる。
「アキラは悪魔と契約する以前から枕営業をしていたらしい。客を取るために手段を選ばなかったというより、複数の女性と寝たいから率先して行っていたとか……。それで他のホストからも相当嫌われていたそうだよ」
「ホストは疑似恋愛を楽しむものだからね。確かに、それはタブーだろうな」
「アキラは快楽を求めていたんだろう。そんな彼の願いを悪魔が叶え、代償に女性たちの魂を要求した。更に輝斗たちも気配を察知することが出来ない距離から炎の矢を放ち、アキラを始末するだけの腕前の悪魔だ」
「快楽を司り、狙撃を得意とする悪魔か……。思い当たるのが多すぎるな」
「そうでもないよ」
 天井を見上げて考え込む羽鳥に、千景は微笑みかける。
「まだ確証はないから、みんなには話さないでほしい。僕はこの悪魔を疑っている」
 ある悪魔の情報を検索し、エンターキーを押した。
「どれどれ……」
 羽鳥は身を乗り出して画面を覗き込んだ。
 古い書物に描かれた挿絵で、全身を長いローブで包んでいる。フードを被っているため顔の細部は不明だが、やけに眼孔だけは鋭く描かれていた。手には背丈くらいある矢を持ち、矢筒を背負っている。
「狩人みたいな悪魔だね」
「そう、まさに狩人だ。この悪魔はソロモン七十二柱のひとり、序列二十七番目の侯爵レライエ」
 悪魔の名前を耳にした羽鳥は、ぎょっとした表情を浮かべた。
「ソロモン七十二柱って、大悪魔じゃないか」
 悪魔にも階級が存在する。頂点に立つ悪魔の王は、世界中で有名な堕天使ルシファーで、彼を含めた『七つの大罪』と呼ばれる七人の大悪魔の下に、七十二人の悪魔が続く。
 ソロモン七十二柱とは、ある王国の王が呼び出した悪魔達で、ひとりひとりが巨大な力を持つ。
「レライエの矢には、傷を腐敗させる毒があるらしい。闘争と勝利。愛と快楽を司り、悪霊三十個軍団を率いる。彼自身、狙撃兵であり暗殺の専門家だ」
「本当にレライエだとしたら、かなり厄介な相手だな」
 前に戦ったマンティコアなど比にならない強敵だ。
「出来れば僕も違ってほしいと願ってる」
 テーブルに置かれたマグカップに手を伸ばし、千景は一口飲む。ふぅっと息を吐き、ここにいない他の仲間たちのことを思い出す。
「そういえば輝斗たちの姿が見えないけど、もう出勤してるんだよね?」
「輝斗と幸弘。あと侑李は地下にいるよ。三人で射撃訓練中」
 ミーティングは昼過ぎなのだが、三人は午前中から出勤していた。時間に余裕があるため、地下にある射撃訓練施設に籠もっている。
「三人とも熱心だね」
「そろそろ切り上げる頃でしょ。もうすぐお昼だし、まだ来てない忍たちも出勤してくるんじゃないかな」
 壁に掛かっている時計を見て、羽鳥はのんびりと呟いた。
「じゃあ、僕も調査を切り上げようかな」
 言い終わると、千景はゆっくりと両目を閉じる。次に目を開けた時には瞳から光が消えていた。印を結び、耳を澄まさないと聞こえないくらい小さな声で唱え、各地に散った式神に調査を切り上げるよう命じる。
「……これでよしっと。さてと、時間まで羽鳥が淹れてくれたコーヒーを味わおう」
「おかわりもあるから、いつでも言ってね」
 ふたりきりの室内も、すぐに賑やかになることだろう。
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