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第三章
第三章-03-
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昼食後、新たな任務だとミーティングが開かれた。
「端的に言うと、今回は痴情のもつれだ」
うんざりした様子の政宗に、どういうことだろう、と全員が目を瞬かせる。
「某有名企業の社長からの依頼だ。息子を守ってほしいという内容なんだが……はっきり言って面倒臭い」
きっぱりと言い切る政宗に、すぐ近くで話を聞いていた忍が質問する。
「つーか、うちは警察でもないんだし、そーいうゴタゴタは関係ないんじゃ?」
「本来はな。残念ながら、我々の管轄になる」
肩をすくませ、政宗は千景に視線を移した。無言で頷いた千景は席を立ち、壁掛けテレビの画面に今回の任務内容を表示する。
「隊長の言う通り、今回の任務は僕らの管轄になる。社長には一人息子がいて、婚約者と間もなく結婚を控えている。けれども、その女性を見初めたライバル企業の男……こっちも社長の息子で、あろうことか女性に手を出してしまったらしい」
「うわぁ、聞いてるだけで嫌な予感しかしないんだけど」
ドロドロの昼ドラ展開を想像した嵐は思いっきり顔をしかめた。
「怒った息子……ややこしいから依頼人の息子をAとしよう。手をだした相手をBとするね。怒った息子Aは、男を殴る蹴るの暴行で怪我をさせた――ここまでは、ただの傷害事件だ」
画面には、息子Aと息子Bのアイコンが表示される。
「数日後、入院していた息子Bが心臓発作で亡くなった。怪我をするまで、どこにも疾患がない健康な成人男性が、ある日突然、何の前触れもなく心臓発作を起こすなんて変な話だろう」
「突然死するように裏で糸を引いていた者がいる、ということですか?」
輝斗の質問に、千景はスッと目を細める。
「ご明察。調査の結果、息子Aは最近入った秘書の女性にそそのかされ、ある契約書にサインをしたことが分かった」
画面が切り替わり、契約書の文面が表示される。
「これは……!」
輝斗は画面を凝視する。それは奇妙な文字と記号の羅列だ。最後の署名欄に息子Aのサインと血判が押されている。
「復讐のために、彼は悪魔と契約したんだ」
「秘書の女性が悪魔だったんですね」
「人間に化けた悪魔で間違いない。契約を交わした後、秘書は行方不明だ」
「この契約書を破棄することは出来ないんですか?」
契約書が残っているということは、悪魔との契約が継続していることになる。早急に破棄せねば、依頼人の魂が食われてしまう。
「残念ながら、契約書は一枚じゃないんだ」
首を横に振り、千景は契約書の文面を拡大する。
「解読すると、別紙の契約書と共にサインすること――とある。この契約書は、息子Bの魂を狩ることを約束したもので、二枚目の契約書は行方不明の秘書……つまり、悪魔が所持している」
契約書の原本と共に悪魔そのものを叩く以外、救う道はないということだ。
「契約した息子本人も、よく内容を知らなかったようだけど。おそらく二枚目の契約書には、婚約者の女性と契約者本人の魂を捧げると記されているはず」
悪魔の文字を普通の人間が読めるわけがない。仕方ないとはいえ、軽率にサインをしすぎる。
復讐したいという願いにつけ込み息子Aに契約を持ちかけ、最終的に三人分の魂を狩ろうとしている悪魔も狡猾だ。そもそも、息子Bが女性に手を出したことさえ、悪魔が仕組んだことかもしれない。
「事情はどうあれ、うちの管轄だな」
ゆったりとした動作で腕を組み、忍は納得した。
「息子と婚約者の命を、是が非でも守り抜けというのが父親の願いだ。そういうことで、しばらくの間は警護任務になるが、よろしく頼む」
締めくくった政宗に全員が了解、と返事をしたものの複雑な心境である。悪魔と戦うのは構わないが、警護が面倒そうだ。
× × ×
高級住宅街にやって来た輝斗たちは、悪魔の襲撃に備えて泊まりがけで警護につくことになった。TJ部隊が警護についたから、もう安心だと気が緩んだ依頼人の社長は、あろうことか息子の婚約者の誕生日パーティーを開くと言い出した。
休憩室として用意された部屋に集まった輝斗たちは、今夜開かれるパーティーでの配置について話し合う。
「あのオッサン、どういう状況か分かってんの?」
「分かってないから、パーティーを開いちゃうんだよね」
不機嫌を露わにしている嵐に、威も苦笑を漏らしている。
「警護する身にもなってほしいよね。はあ~、やだやだ」
「文句を言ってるところ悪いが、更にややこしくなったぞ」
今夜の件について社長と話していた政宗が戻ってきた。
「当本人の女性が、パーティーに出たくないと騒いでいるそうだ」
「じゃあ、中止でいいじゃん」
「そうもいかない。今回の騒ぎで会社の印象が悪いから、ここでクリーンなイメージを持ってもらいたいそうだ」
結婚も控えているだけに息子と婚約者が、あのような事件があっても仲睦まじい様子を見せたいのだ。
「もう手遅れでしょ」
「保釈金をいくら積んだか知らねぇが大怪我させて、おまけに悪魔と契約して殺しておきながら、婚約者の誕生日パーティーだ。金持ちってのは、いいご身分だな」
忍が皮肉を言いたくなるのも無理もない。息子が行ったことを思えば、クリーンなイメージなど微塵もなかった。
「これも仕事だ」
「分かってますよ。つーか、あくまで俺らは悪魔を倒すことが任務だ。ついでに警護してやりますって」
含みのある言い方だが、忍が任務を投げ出す様子がないので政宗は笑みを浮かべて頷いた。
「それで婚約者たっての希望なんだが、TJ部隊の誰かが身代わりをしてくれるなら少しだけ顔を出してもいいそうだ」
「隊長、分かってると思いますが、僕たちは全員男ですよ?」
呆れた眼差しを注ぐ侑李に、政宗は笑いながら答える。
「いやあ、これがびっくりすることに、うちの隊員によく似てたんだな」
ツカツカと革靴を鳴らし、政宗は嵐の前へ移動した。
「嵐、婚約者の身代わりをやってほしい」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を上げ、嵐は政宗を見上げる。
「これが婚約者の写真だ。どことなく雰囲気が似ていると思わないか?」
懐から取り出した写真を確かめようと、輝斗たちも覗き込む。
「確かに似ているな」
「うん、よく似てる」
「そっくりじゃね?」
「あ~、性格がきつそうな感じが似てますね」
「あはは、そっくりじゃん」
口々に“似ている”という言葉に、当方人はムッとした表情になる。
「全然違う! オレの方が断然可愛い!!」
長いまつげに縁取られた大きな目は、気高い猫を連想させる。気が強そうな印象だが、色白の肌に薄紅色の唇と可愛らしい顔立ちの女性だ。そして、政宗の言う通り、どことなく嵐に似ている。
「嵐が女装すれば騙せると思うんだが、どうだ?」
「やだ」
「今夜のパーティーで、確実に隙が生まれる。悪魔も狙ってくるはずだ。早く警護任務を終わらせたいだろう? 嵐、頼む」
「…………」
口をへの字に曲げて政宗を睨んでいた嵐は長い沈黙の後、大げさにため息を吐いた。
「はあ~、特別手当出してくれる?」
「いいだろう」
「……分かった。やるよ」
渋々了承した嵐に、政宗は準備開始だ、と依頼人の元へ報告に向かった。
その後、変装用のドレスとメイク道具、ウィッグや靴など一式が用意された。
こうして婚約者の女性本人は別室で千景の張った結界で保護することになり、身代わりの嵐は、輝斗が傍で警護することが決まった。
「端的に言うと、今回は痴情のもつれだ」
うんざりした様子の政宗に、どういうことだろう、と全員が目を瞬かせる。
「某有名企業の社長からの依頼だ。息子を守ってほしいという内容なんだが……はっきり言って面倒臭い」
きっぱりと言い切る政宗に、すぐ近くで話を聞いていた忍が質問する。
「つーか、うちは警察でもないんだし、そーいうゴタゴタは関係ないんじゃ?」
「本来はな。残念ながら、我々の管轄になる」
肩をすくませ、政宗は千景に視線を移した。無言で頷いた千景は席を立ち、壁掛けテレビの画面に今回の任務内容を表示する。
「隊長の言う通り、今回の任務は僕らの管轄になる。社長には一人息子がいて、婚約者と間もなく結婚を控えている。けれども、その女性を見初めたライバル企業の男……こっちも社長の息子で、あろうことか女性に手を出してしまったらしい」
「うわぁ、聞いてるだけで嫌な予感しかしないんだけど」
ドロドロの昼ドラ展開を想像した嵐は思いっきり顔をしかめた。
「怒った息子……ややこしいから依頼人の息子をAとしよう。手をだした相手をBとするね。怒った息子Aは、男を殴る蹴るの暴行で怪我をさせた――ここまでは、ただの傷害事件だ」
画面には、息子Aと息子Bのアイコンが表示される。
「数日後、入院していた息子Bが心臓発作で亡くなった。怪我をするまで、どこにも疾患がない健康な成人男性が、ある日突然、何の前触れもなく心臓発作を起こすなんて変な話だろう」
「突然死するように裏で糸を引いていた者がいる、ということですか?」
輝斗の質問に、千景はスッと目を細める。
「ご明察。調査の結果、息子Aは最近入った秘書の女性にそそのかされ、ある契約書にサインをしたことが分かった」
画面が切り替わり、契約書の文面が表示される。
「これは……!」
輝斗は画面を凝視する。それは奇妙な文字と記号の羅列だ。最後の署名欄に息子Aのサインと血判が押されている。
「復讐のために、彼は悪魔と契約したんだ」
「秘書の女性が悪魔だったんですね」
「人間に化けた悪魔で間違いない。契約を交わした後、秘書は行方不明だ」
「この契約書を破棄することは出来ないんですか?」
契約書が残っているということは、悪魔との契約が継続していることになる。早急に破棄せねば、依頼人の魂が食われてしまう。
「残念ながら、契約書は一枚じゃないんだ」
首を横に振り、千景は契約書の文面を拡大する。
「解読すると、別紙の契約書と共にサインすること――とある。この契約書は、息子Bの魂を狩ることを約束したもので、二枚目の契約書は行方不明の秘書……つまり、悪魔が所持している」
契約書の原本と共に悪魔そのものを叩く以外、救う道はないということだ。
「契約した息子本人も、よく内容を知らなかったようだけど。おそらく二枚目の契約書には、婚約者の女性と契約者本人の魂を捧げると記されているはず」
悪魔の文字を普通の人間が読めるわけがない。仕方ないとはいえ、軽率にサインをしすぎる。
復讐したいという願いにつけ込み息子Aに契約を持ちかけ、最終的に三人分の魂を狩ろうとしている悪魔も狡猾だ。そもそも、息子Bが女性に手を出したことさえ、悪魔が仕組んだことかもしれない。
「事情はどうあれ、うちの管轄だな」
ゆったりとした動作で腕を組み、忍は納得した。
「息子と婚約者の命を、是が非でも守り抜けというのが父親の願いだ。そういうことで、しばらくの間は警護任務になるが、よろしく頼む」
締めくくった政宗に全員が了解、と返事をしたものの複雑な心境である。悪魔と戦うのは構わないが、警護が面倒そうだ。
× × ×
高級住宅街にやって来た輝斗たちは、悪魔の襲撃に備えて泊まりがけで警護につくことになった。TJ部隊が警護についたから、もう安心だと気が緩んだ依頼人の社長は、あろうことか息子の婚約者の誕生日パーティーを開くと言い出した。
休憩室として用意された部屋に集まった輝斗たちは、今夜開かれるパーティーでの配置について話し合う。
「あのオッサン、どういう状況か分かってんの?」
「分かってないから、パーティーを開いちゃうんだよね」
不機嫌を露わにしている嵐に、威も苦笑を漏らしている。
「警護する身にもなってほしいよね。はあ~、やだやだ」
「文句を言ってるところ悪いが、更にややこしくなったぞ」
今夜の件について社長と話していた政宗が戻ってきた。
「当本人の女性が、パーティーに出たくないと騒いでいるそうだ」
「じゃあ、中止でいいじゃん」
「そうもいかない。今回の騒ぎで会社の印象が悪いから、ここでクリーンなイメージを持ってもらいたいそうだ」
結婚も控えているだけに息子と婚約者が、あのような事件があっても仲睦まじい様子を見せたいのだ。
「もう手遅れでしょ」
「保釈金をいくら積んだか知らねぇが大怪我させて、おまけに悪魔と契約して殺しておきながら、婚約者の誕生日パーティーだ。金持ちってのは、いいご身分だな」
忍が皮肉を言いたくなるのも無理もない。息子が行ったことを思えば、クリーンなイメージなど微塵もなかった。
「これも仕事だ」
「分かってますよ。つーか、あくまで俺らは悪魔を倒すことが任務だ。ついでに警護してやりますって」
含みのある言い方だが、忍が任務を投げ出す様子がないので政宗は笑みを浮かべて頷いた。
「それで婚約者たっての希望なんだが、TJ部隊の誰かが身代わりをしてくれるなら少しだけ顔を出してもいいそうだ」
「隊長、分かってると思いますが、僕たちは全員男ですよ?」
呆れた眼差しを注ぐ侑李に、政宗は笑いながら答える。
「いやあ、これがびっくりすることに、うちの隊員によく似てたんだな」
ツカツカと革靴を鳴らし、政宗は嵐の前へ移動した。
「嵐、婚約者の身代わりをやってほしい」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を上げ、嵐は政宗を見上げる。
「これが婚約者の写真だ。どことなく雰囲気が似ていると思わないか?」
懐から取り出した写真を確かめようと、輝斗たちも覗き込む。
「確かに似ているな」
「うん、よく似てる」
「そっくりじゃね?」
「あ~、性格がきつそうな感じが似てますね」
「あはは、そっくりじゃん」
口々に“似ている”という言葉に、当方人はムッとした表情になる。
「全然違う! オレの方が断然可愛い!!」
長いまつげに縁取られた大きな目は、気高い猫を連想させる。気が強そうな印象だが、色白の肌に薄紅色の唇と可愛らしい顔立ちの女性だ。そして、政宗の言う通り、どことなく嵐に似ている。
「嵐が女装すれば騙せると思うんだが、どうだ?」
「やだ」
「今夜のパーティーで、確実に隙が生まれる。悪魔も狙ってくるはずだ。早く警護任務を終わらせたいだろう? 嵐、頼む」
「…………」
口をへの字に曲げて政宗を睨んでいた嵐は長い沈黙の後、大げさにため息を吐いた。
「はあ~、特別手当出してくれる?」
「いいだろう」
「……分かった。やるよ」
渋々了承した嵐に、政宗は準備開始だ、と依頼人の元へ報告に向かった。
その後、変装用のドレスとメイク道具、ウィッグや靴など一式が用意された。
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