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第五章
第五章-06-
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現場を警察に任せ、天々来に戻った侑李はミーティングルームに集まっていた仲間たちに美華がいなくなったことを伝えた。
「メイファがいなくなったって……ユウリ、どういうことか説明するよ!」
知らせを聞いた小鉄は真っ先に詰め寄り、厳しく問い詰める。
「目を離した隙にいなくなってて……」
侑李自身、何が起きたのか分からない。電話をしていた僅かな時間で、彼女は行方をくらませたのだ。
「……っ」
自身を責めているのか、侑李は強く唇を噛みしめていた。彼の手には美華が巻いていたマフラーが握られている。
「オマエが傍にいたのに、どうしていなくなるね? メイファにもしものことがあったら、絶対に許さないよ!」
「小鉄さん、落ち着いて」
ユウリに掴みかかり、今にも殴りそうな勢いの小鉄を羽鳥が間に入る。
「ごめんなさい……」
「謝って済む問題か!」
「諜報に美華の行方を捜させている。今は情報を待とう」
政宗の言葉で、ようやく小鉄は大人しくなった。
「ああ、メイファ……」
力なくソファーに腰を下ろすと、両手で頭を抱えている。
(狼男が逃走した後、周囲に悪魔反応はなかったと言っていた。侑李の透視能力が外れるわけがない。一体どこに潜んでいたんだ?)
顎に手を当て、輝斗は思案する。侑李の能力を持ってしても察知できない高位の悪魔である可能性が高い。
「メイファは……ワタシにとって娘のようなものね」
力なく呟いた小鉄は、ゆっくりと顔を上げた。昔のことを思い出しているのか、遠くを眺めている。
「二年前、前線に立てなくなったあの子を後方支援として引き取れないか、マサムネに推薦したのはワタシよ」
「そうなんですか?」
初耳だったので、羽鳥は目を丸くしている。
「メイファは幼い頃、両親を悪魔に殺されてから独りぼっちね。誰も、あの子を助けてくれなかった。あの子はスラムで育ったよ……」
天井を仰ぎ、小鉄は嘆息した。
「あの子のクラフトは遠方感知と治癒能力で、ずっと周りから奇妙な目で見られてたそうよ。力を持たない者からすれば、ワタシたちの力は怖いものに映る」
それは輝斗たちにも覚えがあった。特殊能力を持っているだけで、人々は畏怖の目を向けてくる。そもそも、この世界で特殊能力者は少ない。そのためTJ部隊や軍隊など特殊な職に就いている者、または神官職などでない限り、能力を操ることを許可されていないのだ。
このカテゴリーから外れた者は人々から迫害を受け、やがて犯罪者になる者も少なくなかった。
「メイファにとって、人々に蔑まれずに生きていける道はTJ部隊に入隊することだったよ。あの子は、いっぱい勉強して学校に入学した。奨学金の援助を受けながら、ちゃんと卒業したんだから偉いよ」
「美華は頑張り屋さんだね」
「…………」
羽鳥は頷き、輝斗は目を伏せた。
美華の境遇は聖とよく似ている。彼も幼い頃に家族を交通事故で失い、天涯孤独だった。奨学金の援助を受けていたのも同じだ。
「卒業後、メイファは諜報に配属されたよ。でも……二年前、あの子の人生が狂ってしまった」
「彼女は、悪魔に憑依されたんですよね?」
二年前の事故のことを、輝斗たちも政宗から聞いていた。
「あの子は生まれつき感受性が高く、悪魔の波動を感知するのが得意だった。その特性を活かして悪魔の居場所を探っている時、逆に隙を突かれ憑依されてしまった」
能力が優れていたばかりに、悪魔が憑依しやすい体質だったのだ。
「なんとか悪魔を祓えたが、メイファは大怪我を負ってしまった。今も、あの子の胸には大きな痣が残ってる。そして悪魔の穢れを浴びたことで、あの子は長時間の戦闘に耐えられない身体になってしまった」
戦闘要員として使い物にならなくなった、と彼女が所属していた部隊からは煙たがられた。
居場所をなくした美華自身も嘆き悲しんだ。
「そんなメイファの噂を聞いて、ワタシがマサムネの部隊に入れたいと思ったね。マサムネも許可してくれて、すぐに迎えにいったよ」
――あの子に、生きる希望を与えたかった。
小鉄はそう言って目を細めた。
「ここに来てから、あの子は笑顔を取り戻したね。本当に幸せそうで……」
天々来の看板娘として働く美華の笑顔に、輝斗たちだけでなく客も癒やされている。
「うおおおっ、オマエたち!」
「!?」
突如、大声で叫んだ小鉄は立ち上がる。びっくりした輝斗たちは肩をふるわせた。
「頼む、メイファを助けてほしい。この通りよ!」
必死に訴える小鉄は、腰を直角に曲げた。
「美華を助けると約束する。だから、頭を上げてくれ」
輝斗は決然とした面持ちで答える。
「そうだよ、小鉄さん。美華ちゃんは俺たちにとっても大切な仲間なんだから」
「早く美華を見つけないとね」
威と嵐も笑みを深めた。
「看板娘がいないと野郎ばっかで、むさ苦しいったらありゃしねぇ」
「忍の言う通り、美華がいないと寂しいよ。小鉄さん、俺たちが必ず助けるから信じて」
小鉄の肩に手を置き、羽鳥は微笑んだ。
「見つけた!」
その時――美華の捜索に集中していた千景が口を開いた。
「彼女は何処ですか!?」
千景の後ろに回った侑李はパソコン画面を覗き込む。
「監視カメラの映像だけど、外国人墓地で美華らしき姿を見つけたよ」
すぐに壁掛けテレビに画像を表示させる。
「外国人墓地……。現場へ向かいます!」
真っ先に侑李が飛び出した。
「全員、外国人墓地へ急行せよ!」
政宗の号令に、輝斗たちは「了解」と敬礼し、ミーティングルームを後にした。
「メイファがいなくなったって……ユウリ、どういうことか説明するよ!」
知らせを聞いた小鉄は真っ先に詰め寄り、厳しく問い詰める。
「目を離した隙にいなくなってて……」
侑李自身、何が起きたのか分からない。電話をしていた僅かな時間で、彼女は行方をくらませたのだ。
「……っ」
自身を責めているのか、侑李は強く唇を噛みしめていた。彼の手には美華が巻いていたマフラーが握られている。
「オマエが傍にいたのに、どうしていなくなるね? メイファにもしものことがあったら、絶対に許さないよ!」
「小鉄さん、落ち着いて」
ユウリに掴みかかり、今にも殴りそうな勢いの小鉄を羽鳥が間に入る。
「ごめんなさい……」
「謝って済む問題か!」
「諜報に美華の行方を捜させている。今は情報を待とう」
政宗の言葉で、ようやく小鉄は大人しくなった。
「ああ、メイファ……」
力なくソファーに腰を下ろすと、両手で頭を抱えている。
(狼男が逃走した後、周囲に悪魔反応はなかったと言っていた。侑李の透視能力が外れるわけがない。一体どこに潜んでいたんだ?)
顎に手を当て、輝斗は思案する。侑李の能力を持ってしても察知できない高位の悪魔である可能性が高い。
「メイファは……ワタシにとって娘のようなものね」
力なく呟いた小鉄は、ゆっくりと顔を上げた。昔のことを思い出しているのか、遠くを眺めている。
「二年前、前線に立てなくなったあの子を後方支援として引き取れないか、マサムネに推薦したのはワタシよ」
「そうなんですか?」
初耳だったので、羽鳥は目を丸くしている。
「メイファは幼い頃、両親を悪魔に殺されてから独りぼっちね。誰も、あの子を助けてくれなかった。あの子はスラムで育ったよ……」
天井を仰ぎ、小鉄は嘆息した。
「あの子のクラフトは遠方感知と治癒能力で、ずっと周りから奇妙な目で見られてたそうよ。力を持たない者からすれば、ワタシたちの力は怖いものに映る」
それは輝斗たちにも覚えがあった。特殊能力を持っているだけで、人々は畏怖の目を向けてくる。そもそも、この世界で特殊能力者は少ない。そのためTJ部隊や軍隊など特殊な職に就いている者、または神官職などでない限り、能力を操ることを許可されていないのだ。
このカテゴリーから外れた者は人々から迫害を受け、やがて犯罪者になる者も少なくなかった。
「メイファにとって、人々に蔑まれずに生きていける道はTJ部隊に入隊することだったよ。あの子は、いっぱい勉強して学校に入学した。奨学金の援助を受けながら、ちゃんと卒業したんだから偉いよ」
「美華は頑張り屋さんだね」
「…………」
羽鳥は頷き、輝斗は目を伏せた。
美華の境遇は聖とよく似ている。彼も幼い頃に家族を交通事故で失い、天涯孤独だった。奨学金の援助を受けていたのも同じだ。
「卒業後、メイファは諜報に配属されたよ。でも……二年前、あの子の人生が狂ってしまった」
「彼女は、悪魔に憑依されたんですよね?」
二年前の事故のことを、輝斗たちも政宗から聞いていた。
「あの子は生まれつき感受性が高く、悪魔の波動を感知するのが得意だった。その特性を活かして悪魔の居場所を探っている時、逆に隙を突かれ憑依されてしまった」
能力が優れていたばかりに、悪魔が憑依しやすい体質だったのだ。
「なんとか悪魔を祓えたが、メイファは大怪我を負ってしまった。今も、あの子の胸には大きな痣が残ってる。そして悪魔の穢れを浴びたことで、あの子は長時間の戦闘に耐えられない身体になってしまった」
戦闘要員として使い物にならなくなった、と彼女が所属していた部隊からは煙たがられた。
居場所をなくした美華自身も嘆き悲しんだ。
「そんなメイファの噂を聞いて、ワタシがマサムネの部隊に入れたいと思ったね。マサムネも許可してくれて、すぐに迎えにいったよ」
――あの子に、生きる希望を与えたかった。
小鉄はそう言って目を細めた。
「ここに来てから、あの子は笑顔を取り戻したね。本当に幸せそうで……」
天々来の看板娘として働く美華の笑顔に、輝斗たちだけでなく客も癒やされている。
「うおおおっ、オマエたち!」
「!?」
突如、大声で叫んだ小鉄は立ち上がる。びっくりした輝斗たちは肩をふるわせた。
「頼む、メイファを助けてほしい。この通りよ!」
必死に訴える小鉄は、腰を直角に曲げた。
「美華を助けると約束する。だから、頭を上げてくれ」
輝斗は決然とした面持ちで答える。
「そうだよ、小鉄さん。美華ちゃんは俺たちにとっても大切な仲間なんだから」
「早く美華を見つけないとね」
威と嵐も笑みを深めた。
「看板娘がいないと野郎ばっかで、むさ苦しいったらありゃしねぇ」
「忍の言う通り、美華がいないと寂しいよ。小鉄さん、俺たちが必ず助けるから信じて」
小鉄の肩に手を置き、羽鳥は微笑んだ。
「見つけた!」
その時――美華の捜索に集中していた千景が口を開いた。
「彼女は何処ですか!?」
千景の後ろに回った侑李はパソコン画面を覗き込む。
「監視カメラの映像だけど、外国人墓地で美華らしき姿を見つけたよ」
すぐに壁掛けテレビに画像を表示させる。
「外国人墓地……。現場へ向かいます!」
真っ先に侑李が飛び出した。
「全員、外国人墓地へ急行せよ!」
政宗の号令に、輝斗たちは「了解」と敬礼し、ミーティングルームを後にした。
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