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第五章
第五章-07-
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外国人墓地にやって来た輝斗たちは、周囲に漂う異様な気配に眉を寄せた。
「妙だな。空気が冷たすぎる」
白い息を吐きながら輝斗は呟いた。
秋も深まってきたとはいえ、この一帯だけ肌を刺すような寒さなのは不自然だ。
「あっ、人が倒れてる!」
威が指さす方を見ると、墓地の前でたくさんの人が横たわっていた。
周辺を警戒しがら輝斗は倒れているひとりに近づき、そっと首筋に手を当てる。脈は触れておらず、氷のように冷たくなっていた。
「魂を抜き取られている」
「ここにいる全員そうだね。それに……何らかの方法で集められ、魂を抜き取られたみたいだ」
「催眠術ですか?」
「おそらくね。全員が夢遊病のように、ふらふらと歩いている光景が見えた」
千景の瞳が仄かに光を帯びている。千里眼を使って死者の記憶を読み取ったのだ。
「魂を抜き取ったのは――奴らだ」
そう言って天を仰ぐ。墓地の上空には、大量の悪霊が飛び回っている。骸骨の姿をした者、朽ちた肉体の者――姿は様々だが、共通しているのは鎖の枷や火炎を纏っていた。
悪霊は地獄に落ちた死者の霊で、何らかの目的でこの世界に舞い戻ってきたものたちである。
「あいつらの手を見て!」
嵐が指さす悪霊たちの手には青白い球体が握られている。
「この人たちの魂だ。まだ抜き取られて間もない。今なら間に合う」
「急いで回収しよう!」
千景の言葉を耳にした嵐は銃を構えた。
「奴らが逃げないように、墓地全体に結界を張る。幸弘、手伝って!」
「分かりました!」
諜報のふたりが結界を張っている間、輝斗たちは悪霊を倒すために動き出す。
「――縛!」
千景が印を組んだ瞬間、大地が震動する。七色の薄い光の膜が、オーロラのカーテンのように広がって墓地全体を覆った。
「結界完了。後は任せたよ」
「了解。魂を回収したら、すぐに渡します!」
輝斗は手短に言うと、悪霊に向けて引き金を引いた。
「美華は何処に……?」
侑李は辺りを見回した。倒れている人々の中に彼女の姿はない。
夜の墓地は昼間よりも一層不気味に映る。墓地の敷地外にしか外灯がないため、奥に行くほど視界は暗く、漆黒の闇が深くなった。
肉眼で捜すのは困難と判断し、侑李は透視能力で美華を捜す。
「……見つけた!」
墓地の奥深くに美華の姿を捉えた。他の人たちのように魂は抜かれていないようだが、うつろな表情で佇んでいる。何者かに操られている状態だ。
――助けないと!
狙撃銃を肩に提げ、侑李は跳躍する。
「侑李!?」
「美華を発見しました。助けに向かいます!」
「待て、単独行動は――」
輝斗の言葉を待たずに侑李は走り出した。
「俺が追いかけるから、輝斗は悪霊をお願い!」
羽鳥が消えた侑李の後を追う。
「頼みます」
残された輝斗は、ざっと周囲を見回してから控えている仲間たちに声をかける。
「俺と忍はこの辺りの悪霊を片付ける。威と嵐は奥の奴らを頼む」
「了解!」
「任せて!」
ふたりは意気揚々と飛び出した。
「増田たちに奥を任せたのは、小猿を追いかけた羽鳥さんの援護か?」
「そうだ」
忍の問いに輝斗は首肯する。大抵の悪霊は悪魔に使役されている。そのため、悪霊以外にも敵が潜んでいる可能性が高い。
「ふーん。いつもなら、てめぇが真っ先に突っ走るのにな」
嫌味を言うと、忍は素早く抜刀した。
「っと!」
襲いかかってきた悪霊を一刀両断する。
――オオオオオオオオオッ。
細く長い悲鳴を上げ、真っ二つになった悪霊が四散した。
「さっさと片付けて、俺たちも続くぞ」
「ああ」
輝斗は右側を、忍は左側に向かって駆け出した。
魂を奪おうと、次々と向かって来る悪霊を撃ち抜く。
「忍、魂を持っている奴を優先的に仕留めるぞ」
「あいよ!」
一体でも多くの悪霊を倒し、早く魂を取り戻そう――。
× × ×
一時間ほど経っただろうか。さすがにふたりとも息が上がっている。
「はあ……まだいるのかよ」
忍は頭上を漂う悪霊を睨み付け、忌々しそうに呟いた。
「それでも魂を持っている奴は大分減ったはずだ」
千景と幸弘が倒れている人々に魂を戻そうと駆け回っている。その様子を横目で見ながら、輝斗は息を整えていた。このペースなら間もなく全員を蘇生できるだろう。
「素晴らしい。短時間で、ここまで悪霊を片付けたのですね」
場違いな明るい声がして警戒を露わにする。
「誰だ!?」
闇の中から姿を現したのは、真っ白なスーツに身を包んだ外国人だ。被っていた帽子を取り、優雅な動作で一礼する。
「こんばんは」
「お前は……?」
輝斗は奇妙な感覚を覚えた。この男と初めて会った気がしない。何処かで見た気がする。そんな昔ではなかったはずだ、と記憶をたぐり寄せる。
(敵として会っていたら忘れるはずがない。戦闘以外で会っているはずだ)
プライベートで買い物に出かけた時だろうか。
(違う……)
もっと身近な場所だ――。
「あ……」
脳裏に天々来のカウンター席が思い浮かぶ。
「ヤマトと一緒に天々来で……」
男は目を瞬かせた後、満面の笑顔を見せた。
「天々来? ……ああ、あの素晴らしいラーメンスープの店ですね。とても美味しかったです!」
「やっぱり、そうか」
小鉄の作るラーメンを美味しいと絶賛していた珍しい客だったので、輝斗も印象深くて記憶に残っていた。
「まさか、あの時に会っていたなんてな」
敵同士なのに奇妙な縁だ。
楽しそうに微笑んだ男はステッキを器用に回した。
「今宵は悪霊のパーティーにようこそ。どうぞ、キミたちも楽しんでください」
「何がパーティーだ。ふざけんじゃねぇ!」
忍が刀を振り下ろした。
――キィンッ。
白刃から放たれた閃光が、男に直撃する寸前で弾かれてしまう。
「無礼な人ですね。まだ自己紹介がまだですよ?」
いつの間に現れたのだろうか。男を守るようにメイドが佇んでいる。
ロングドレスをなびかせる姿は凜として美しい。しかし、その手には巨大な鎌が握られている。自分の身長くらいありそうなそれを彼女は軽々と操っていた。
「忍の攻撃を受けて無傷だと?」
「あの女、何者だ?」
輝斗と忍が瞠目しているのを余所に、メイドは背後にいる男を顧みた。
「ご主人様、ご無事ですか?」
「ええ。キミのおかげで、この通り」
メイドは主の無事を確認すると、すぐに後ろに下がった。
男は口角を上げ、ステッキを持ち返すと一礼する。
「それでは改めまして。私の名前はアレクセイと申します。既にお気づきかと思いますが『破壊者』のひとりです。悪魔名は、七つの大罪『暴食』を司るベルゼブブ。以後、お見知りおきを」
「お前が蠅の王だと?」
悪魔の頂点はルシファーだが、その次に権力を持つ悪魔がこのベルゼブブだ。彼はルシファーの副官で、悪霊の頭とされる。
「彼女はローザ。私の忠実なるメイドです」
紹介されたローザは左手でスカートの裾を摘まみ、軽くお辞儀をした。
「この悪霊騒ぎは、お前の仕業なのか?」
銃の照準をアレクセイの頭に合わせ、輝斗は尋ねる。
「はい。あとキミたちの仲間であるメイファを誘拐したのも私です」
「なっ!?」
あっさり白状するので、輝斗は面食らう。
「どうやら、彼女は悪魔に憑依されたことがあるようですね。おかげで悪霊が融合しやすかった」
「なんだと……?」
目を瞠る輝斗に、アレクセイは口の端をつり上げた。
「人間の魂を狩るために、都合良く動いてくれる人形を探していたのです。良い品を手に入れました――」
――ダンッ。
その先を言わせない、と弾丸を撃ち込んだ。しかし、ローザの大鎌によって弾は叩き切られてしまう。
「…………」
真っ二つになったそれを彼女を無表情で見下ろしている。
「クールに見えて、実は熱い性格のようですね」
アレクセイはくすりと笑い、つい、と目を細めた。
「キミは、サタンが気に掛けている人間なのでしょう?」
「サタン?」
何を言っているのだろう、と訝る輝斗だったが脳裏にひとりの男の顔が浮かんだ。
「まさか……聖のことか?」
アレクセイは大仰に頷いた。
「はい。キミの友人、白瀬聖は『憤怒』を司るサタンと契約しています」
「今、聖は何処にいるんだ?」
「おい、それ以上喋るな」
上層部の忠告を忘れたのか、と忍が口を挟む。
「彼に会いたいですか?」
「会いたいに決まってるだろ。聖は……」
「神条!」
忍に呼ばれ、我に返る。
「あ……」
僅かに首を動かし、忍を見ると厳しい表情で睨んでいた。
「黙ってろ」
「……っ」
そうだった――輝斗は聖と接触することを禁止されている。
苦しそうに顔を歪めた輝斗を見つめ、アレクセイは口を開く。
「サタンは、キミに会いたくないそうです」
ズキリと心臓に棘が刺さったように痛んだ。
「どうして……?」
「さあ? 彼にも事情があるのでしょう」
もったいつけるアレクセイに、忍が苛立たしげに言い放つ。
「てめぇも黙れ。こっちは仲良くお喋りしてる暇はねーんだ。戦う気がないなら去れ!」
「うーん、せっかちな人ですね」
アレクセイは肩をすくめ、嘆息する。
「……いいでしょう。少しばかり遊んであげましょうか」
言うや否や、アレクセイはステッキで地面を軽く突いた。
「ローザ」
正面を向いたまま、ローザの名を呼ぶ。
「はい、ご主人様」
アレクセイはステッキを持ち上げ、忍に狙いを定めると微笑を浮かべた。
「彼の相手をしてあげなさい」
「かしこまりました」
数歩、前に進み出たローザは、忍に向かって丁寧にお辞儀をした。
「なにっ!?」
上体を起こした刹那、忍ぶの間合いに飛び込んできた。
大鎌が、忍の首を狙って襲いかかる。
「忍!」
「キミの相手は、私がしましょう」
いつの間に移動したのだろう。至近距離にアレクセイの顔があった。
「速い――!」
輝斗は反射的に引き金を引いた。
「妙だな。空気が冷たすぎる」
白い息を吐きながら輝斗は呟いた。
秋も深まってきたとはいえ、この一帯だけ肌を刺すような寒さなのは不自然だ。
「あっ、人が倒れてる!」
威が指さす方を見ると、墓地の前でたくさんの人が横たわっていた。
周辺を警戒しがら輝斗は倒れているひとりに近づき、そっと首筋に手を当てる。脈は触れておらず、氷のように冷たくなっていた。
「魂を抜き取られている」
「ここにいる全員そうだね。それに……何らかの方法で集められ、魂を抜き取られたみたいだ」
「催眠術ですか?」
「おそらくね。全員が夢遊病のように、ふらふらと歩いている光景が見えた」
千景の瞳が仄かに光を帯びている。千里眼を使って死者の記憶を読み取ったのだ。
「魂を抜き取ったのは――奴らだ」
そう言って天を仰ぐ。墓地の上空には、大量の悪霊が飛び回っている。骸骨の姿をした者、朽ちた肉体の者――姿は様々だが、共通しているのは鎖の枷や火炎を纏っていた。
悪霊は地獄に落ちた死者の霊で、何らかの目的でこの世界に舞い戻ってきたものたちである。
「あいつらの手を見て!」
嵐が指さす悪霊たちの手には青白い球体が握られている。
「この人たちの魂だ。まだ抜き取られて間もない。今なら間に合う」
「急いで回収しよう!」
千景の言葉を耳にした嵐は銃を構えた。
「奴らが逃げないように、墓地全体に結界を張る。幸弘、手伝って!」
「分かりました!」
諜報のふたりが結界を張っている間、輝斗たちは悪霊を倒すために動き出す。
「――縛!」
千景が印を組んだ瞬間、大地が震動する。七色の薄い光の膜が、オーロラのカーテンのように広がって墓地全体を覆った。
「結界完了。後は任せたよ」
「了解。魂を回収したら、すぐに渡します!」
輝斗は手短に言うと、悪霊に向けて引き金を引いた。
「美華は何処に……?」
侑李は辺りを見回した。倒れている人々の中に彼女の姿はない。
夜の墓地は昼間よりも一層不気味に映る。墓地の敷地外にしか外灯がないため、奥に行くほど視界は暗く、漆黒の闇が深くなった。
肉眼で捜すのは困難と判断し、侑李は透視能力で美華を捜す。
「……見つけた!」
墓地の奥深くに美華の姿を捉えた。他の人たちのように魂は抜かれていないようだが、うつろな表情で佇んでいる。何者かに操られている状態だ。
――助けないと!
狙撃銃を肩に提げ、侑李は跳躍する。
「侑李!?」
「美華を発見しました。助けに向かいます!」
「待て、単独行動は――」
輝斗の言葉を待たずに侑李は走り出した。
「俺が追いかけるから、輝斗は悪霊をお願い!」
羽鳥が消えた侑李の後を追う。
「頼みます」
残された輝斗は、ざっと周囲を見回してから控えている仲間たちに声をかける。
「俺と忍はこの辺りの悪霊を片付ける。威と嵐は奥の奴らを頼む」
「了解!」
「任せて!」
ふたりは意気揚々と飛び出した。
「増田たちに奥を任せたのは、小猿を追いかけた羽鳥さんの援護か?」
「そうだ」
忍の問いに輝斗は首肯する。大抵の悪霊は悪魔に使役されている。そのため、悪霊以外にも敵が潜んでいる可能性が高い。
「ふーん。いつもなら、てめぇが真っ先に突っ走るのにな」
嫌味を言うと、忍は素早く抜刀した。
「っと!」
襲いかかってきた悪霊を一刀両断する。
――オオオオオオオオオッ。
細く長い悲鳴を上げ、真っ二つになった悪霊が四散した。
「さっさと片付けて、俺たちも続くぞ」
「ああ」
輝斗は右側を、忍は左側に向かって駆け出した。
魂を奪おうと、次々と向かって来る悪霊を撃ち抜く。
「忍、魂を持っている奴を優先的に仕留めるぞ」
「あいよ!」
一体でも多くの悪霊を倒し、早く魂を取り戻そう――。
× × ×
一時間ほど経っただろうか。さすがにふたりとも息が上がっている。
「はあ……まだいるのかよ」
忍は頭上を漂う悪霊を睨み付け、忌々しそうに呟いた。
「それでも魂を持っている奴は大分減ったはずだ」
千景と幸弘が倒れている人々に魂を戻そうと駆け回っている。その様子を横目で見ながら、輝斗は息を整えていた。このペースなら間もなく全員を蘇生できるだろう。
「素晴らしい。短時間で、ここまで悪霊を片付けたのですね」
場違いな明るい声がして警戒を露わにする。
「誰だ!?」
闇の中から姿を現したのは、真っ白なスーツに身を包んだ外国人だ。被っていた帽子を取り、優雅な動作で一礼する。
「こんばんは」
「お前は……?」
輝斗は奇妙な感覚を覚えた。この男と初めて会った気がしない。何処かで見た気がする。そんな昔ではなかったはずだ、と記憶をたぐり寄せる。
(敵として会っていたら忘れるはずがない。戦闘以外で会っているはずだ)
プライベートで買い物に出かけた時だろうか。
(違う……)
もっと身近な場所だ――。
「あ……」
脳裏に天々来のカウンター席が思い浮かぶ。
「ヤマトと一緒に天々来で……」
男は目を瞬かせた後、満面の笑顔を見せた。
「天々来? ……ああ、あの素晴らしいラーメンスープの店ですね。とても美味しかったです!」
「やっぱり、そうか」
小鉄の作るラーメンを美味しいと絶賛していた珍しい客だったので、輝斗も印象深くて記憶に残っていた。
「まさか、あの時に会っていたなんてな」
敵同士なのに奇妙な縁だ。
楽しそうに微笑んだ男はステッキを器用に回した。
「今宵は悪霊のパーティーにようこそ。どうぞ、キミたちも楽しんでください」
「何がパーティーだ。ふざけんじゃねぇ!」
忍が刀を振り下ろした。
――キィンッ。
白刃から放たれた閃光が、男に直撃する寸前で弾かれてしまう。
「無礼な人ですね。まだ自己紹介がまだですよ?」
いつの間に現れたのだろうか。男を守るようにメイドが佇んでいる。
ロングドレスをなびかせる姿は凜として美しい。しかし、その手には巨大な鎌が握られている。自分の身長くらいありそうなそれを彼女は軽々と操っていた。
「忍の攻撃を受けて無傷だと?」
「あの女、何者だ?」
輝斗と忍が瞠目しているのを余所に、メイドは背後にいる男を顧みた。
「ご主人様、ご無事ですか?」
「ええ。キミのおかげで、この通り」
メイドは主の無事を確認すると、すぐに後ろに下がった。
男は口角を上げ、ステッキを持ち返すと一礼する。
「それでは改めまして。私の名前はアレクセイと申します。既にお気づきかと思いますが『破壊者』のひとりです。悪魔名は、七つの大罪『暴食』を司るベルゼブブ。以後、お見知りおきを」
「お前が蠅の王だと?」
悪魔の頂点はルシファーだが、その次に権力を持つ悪魔がこのベルゼブブだ。彼はルシファーの副官で、悪霊の頭とされる。
「彼女はローザ。私の忠実なるメイドです」
紹介されたローザは左手でスカートの裾を摘まみ、軽くお辞儀をした。
「この悪霊騒ぎは、お前の仕業なのか?」
銃の照準をアレクセイの頭に合わせ、輝斗は尋ねる。
「はい。あとキミたちの仲間であるメイファを誘拐したのも私です」
「なっ!?」
あっさり白状するので、輝斗は面食らう。
「どうやら、彼女は悪魔に憑依されたことがあるようですね。おかげで悪霊が融合しやすかった」
「なんだと……?」
目を瞠る輝斗に、アレクセイは口の端をつり上げた。
「人間の魂を狩るために、都合良く動いてくれる人形を探していたのです。良い品を手に入れました――」
――ダンッ。
その先を言わせない、と弾丸を撃ち込んだ。しかし、ローザの大鎌によって弾は叩き切られてしまう。
「…………」
真っ二つになったそれを彼女を無表情で見下ろしている。
「クールに見えて、実は熱い性格のようですね」
アレクセイはくすりと笑い、つい、と目を細めた。
「キミは、サタンが気に掛けている人間なのでしょう?」
「サタン?」
何を言っているのだろう、と訝る輝斗だったが脳裏にひとりの男の顔が浮かんだ。
「まさか……聖のことか?」
アレクセイは大仰に頷いた。
「はい。キミの友人、白瀬聖は『憤怒』を司るサタンと契約しています」
「今、聖は何処にいるんだ?」
「おい、それ以上喋るな」
上層部の忠告を忘れたのか、と忍が口を挟む。
「彼に会いたいですか?」
「会いたいに決まってるだろ。聖は……」
「神条!」
忍に呼ばれ、我に返る。
「あ……」
僅かに首を動かし、忍を見ると厳しい表情で睨んでいた。
「黙ってろ」
「……っ」
そうだった――輝斗は聖と接触することを禁止されている。
苦しそうに顔を歪めた輝斗を見つめ、アレクセイは口を開く。
「サタンは、キミに会いたくないそうです」
ズキリと心臓に棘が刺さったように痛んだ。
「どうして……?」
「さあ? 彼にも事情があるのでしょう」
もったいつけるアレクセイに、忍が苛立たしげに言い放つ。
「てめぇも黙れ。こっちは仲良くお喋りしてる暇はねーんだ。戦う気がないなら去れ!」
「うーん、せっかちな人ですね」
アレクセイは肩をすくめ、嘆息する。
「……いいでしょう。少しばかり遊んであげましょうか」
言うや否や、アレクセイはステッキで地面を軽く突いた。
「ローザ」
正面を向いたまま、ローザの名を呼ぶ。
「はい、ご主人様」
アレクセイはステッキを持ち上げ、忍に狙いを定めると微笑を浮かべた。
「彼の相手をしてあげなさい」
「かしこまりました」
数歩、前に進み出たローザは、忍に向かって丁寧にお辞儀をした。
「なにっ!?」
上体を起こした刹那、忍ぶの間合いに飛び込んできた。
大鎌が、忍の首を狙って襲いかかる。
「忍!」
「キミの相手は、私がしましょう」
いつの間に移動したのだろう。至近距離にアレクセイの顔があった。
「速い――!」
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