Rewind Seven

tasuku

文字の大きさ
38 / 64
第五章

第五章-07-

しおりを挟む
 外国人墓地にやって来た輝斗たちは、周囲に漂う異様な気配に眉を寄せた。
「妙だな。空気が冷たすぎる」
 白い息を吐きながら輝斗は呟いた。
 秋も深まってきたとはいえ、この一帯だけ肌を刺すような寒さなのは不自然だ。
「あっ、人が倒れてる!」
 威が指さす方を見ると、墓地の前でたくさんの人が横たわっていた。
 周辺を警戒しがら輝斗は倒れているひとりに近づき、そっと首筋に手を当てる。脈は触れておらず、氷のように冷たくなっていた。
「魂を抜き取られている」
「ここにいる全員そうだね。それに……何らかの方法で集められ、魂を抜き取られたみたいだ」
「催眠術ですか?」
「おそらくね。全員が夢遊病のように、ふらふらと歩いている光景ビジョンが見えた」
 千景の瞳が仄かに光を帯びている。千里眼サイコメトリーを使って死者の記憶を読み取ったのだ。
「魂を抜き取ったのは――だ」
 そう言って天を仰ぐ。墓地の上空には、大量の悪霊ゴーストが飛び回っている。骸骨の姿をした者、朽ちた肉体の者――姿は様々だが、共通しているのは鎖の枷や火炎を纏っていた。
 悪霊ゴーストは地獄に落ちた死者の霊で、何らかの目的でこの世界に舞い戻ってきたものたちである。
「あいつらの手を見て!」
 嵐が指さす悪霊たちの手には青白い球体が握られている。
「この人たちの魂だ。まだ抜き取られて間もない。今なら間に合う」
「急いで回収しよう!」
 千景の言葉を耳にした嵐は銃を構えた。
「奴らが逃げないように、墓地全体に結界を張る。幸弘、手伝って!」
「分かりました!」
 諜報スピオンのふたりが結界を張っている間、輝斗たちは悪霊を倒すために動き出す。
「――縛!」
 千景が印を組んだ瞬間、大地が震動する。七色の薄い光の膜が、オーロラのカーテンのように広がって墓地全体を覆った。
「結界完了。後は任せたよ」
「了解。魂を回収したら、すぐに渡します!」
 輝斗は手短に言うと、悪霊に向けて引き金を引いた。
「美華は何処に……?」
 侑李は辺りを見回した。倒れている人々の中に彼女の姿はない。
 夜の墓地は昼間よりも一層不気味に映る。墓地の敷地外にしか外灯がないため、奥に行くほど視界は暗く、漆黒の闇が深くなった。
 肉眼で捜すのは困難と判断し、侑李は透視能力で美華を捜す。
「……見つけた!」
 墓地の奥深くに美華の姿を捉えた。他の人たちのように魂は抜かれていないようだが、うつろな表情で佇んでいる。何者かに操られている状態だ。

 ――助けないと!

 狙撃銃を肩に提げ、侑李は跳躍する。
「侑李!?」
「美華を発見しました。助けに向かいます!」
「待て、単独行動は――」
 輝斗の言葉を待たずに侑李は走り出した。
「俺が追いかけるから、輝斗は悪霊をお願い!」
 羽鳥が消えた侑李の後を追う。
「頼みます」
 残された輝斗は、ざっと周囲を見回してから控えている仲間たちに声をかける。
「俺と忍はこの辺りの悪霊を片付ける。威と嵐は奥の奴らを頼む」
「了解!」
「任せて!」
 ふたりは意気揚々と飛び出した。
「増田たちに奥を任せたのは、小猿を追いかけた羽鳥さんの援護か?」
「そうだ」
 忍の問いに輝斗は首肯しゅこうする。大抵の悪霊は悪魔に使役されている。そのため、悪霊以外にも敵が潜んでいる可能性が高い。
「ふーん。いつもなら、てめぇが真っ先に突っ走るのにな」
 嫌味を言うと、忍は素早く抜刀した。
「っと!」
 襲いかかってきた悪霊を一刀両断する。

 ――オオオオオオオオオッ。

 細く長い悲鳴を上げ、真っ二つになった悪霊が四散した。
「さっさと片付けて、俺たちも続くぞ」
「ああ」
 輝斗は右側を、忍は左側に向かって駆け出した。
 魂を奪おうと、次々と向かって来る悪霊を撃ち抜く。
「忍、魂を持っている奴を優先的に仕留めるぞ」
「あいよ!」
 一体でも多くの悪霊を倒し、早く魂を取り戻そう――。

     × × ×

 一時間ほど経っただろうか。さすがにふたりとも息が上がっている。
「はあ……まだいるのかよ」
 忍は頭上を漂う悪霊を睨み付け、忌々しそうに呟いた。
「それでも魂を持っている奴は大分減ったはずだ」
 千景と幸弘が倒れている人々に魂を戻そうと駆け回っている。その様子を横目で見ながら、輝斗は息を整えていた。このペースなら間もなく全員を蘇生できるだろう。

「素晴らしい。短時間で、ここまで悪霊を片付けたのですね」

 場違いな明るい声がして警戒を露わにする。
「誰だ!?」
 闇の中から姿を現したのは、真っ白なスーツに身を包んだ外国人だ。被っていた帽子を取り、優雅な動作で一礼する。
「こんばんは」
「お前は……?」
 輝斗は奇妙な感覚を覚えた。この男と初めて会った気がしない。何処かで見た気がする。そんな昔ではなかったはずだ、と記憶をたぐり寄せる。
(敵として会っていたら忘れるはずがない。戦闘以外で会っているはずだ)
 プライベートで買い物に出かけた時だろうか。
(違う……)
 もっと身近な場所だ――。
「あ……」
 脳裏に天々来のカウンター席が思い浮かぶ。
「ヤマトと一緒に天々来で……」
 男は目を瞬かせた後、満面の笑顔を見せた。
「天々来? ……ああ、あの素晴らしいラーメンスープの店ですね。とても美味しかったです!」
「やっぱり、そうか」
 小鉄の作るラーメンを美味しいと絶賛していた珍しい客だったので、輝斗も印象深くて記憶に残っていた。
「まさか、あの時に会っていたなんてな」
 敵同士なのに奇妙な縁だ。
 楽しそうに微笑んだ男はステッキを器用に回した。
「今宵は悪霊のパーティーにようこそ。どうぞ、キミたちも楽しんでください」
「何がパーティーだ。ふざけんじゃねぇ!」
 忍が刀を振り下ろした。

 ――キィンッ。

 白刃から放たれた閃光が、男に直撃する寸前で弾かれてしまう。
「無礼な人ですね。まだ自己紹介がまだですよ?」
 いつの間に現れたのだろうか。男を守るようにメイドが佇んでいる。
 ロングドレスをなびかせる姿は凜として美しい。しかし、その手には巨大な鎌が握られている。自分の身長くらいありそうなそれを彼女は軽々と操っていた。
「忍の攻撃を受けて無傷だと?」
「あの女、何者だ?」
 輝斗と忍が瞠目しているのを余所に、メイドは背後にいる男を顧みた。
「ご主人様、ご無事ですか?」
「ええ。キミのおかげで、この通り」
 メイドは主の無事を確認すると、すぐに後ろに下がった。
 男は口角を上げ、ステッキを持ち返すと一礼する。
「それでは改めまして。私の名前はアレクセイと申します。既にお気づきかと思いますが『破壊者フェアニヒター』のひとりです。悪魔名は、七つの大罪『暴食フェレライ』を司るベルゼブブ。以後、お見知りおきを」
「お前がハエの王だと?」
 悪魔の頂点はルシファーだが、その次に権力を持つ悪魔がこのベルゼブブだ。彼はルシファーの副官で、悪霊の頭とされる。
「彼女はローザ。私の忠実なるメイドです」
 紹介されたローザは左手でスカートの裾を摘まみ、軽くお辞儀をした。
「この悪霊騒ぎは、お前の仕業なのか?」
 銃の照準をアレクセイの頭に合わせ、輝斗は尋ねる。
「はい。あとキミたちの仲間であるメイファを誘拐したのも私です」
「なっ!?」
 あっさり白状するので、輝斗は面食らう。
「どうやら、彼女は悪魔に憑依されたことがあるようですね。おかげで悪霊が融合しやすかった」
「なんだと……?」
 目を瞠る輝斗に、アレクセイは口の端をつり上げた。
「人間の魂を狩るために、都合良く動いてくれる人形を探していたのです。良い品を手に入れました――」

 ――ダンッ。

 その先を言わせない、と弾丸を撃ち込んだ。しかし、ローザの大鎌によって弾は叩き切られてしまう。
「…………」
 真っ二つになったそれを彼女を無表情で見下ろしている。
「クールに見えて、実は熱い性格のようですね」
 アレクセイはくすりと笑い、つい、と目を細めた。
「キミは、サタンが気に掛けている人間なのでしょう?」
「サタン?」
 何を言っているのだろう、と訝る輝斗だったが脳裏にひとりの男の顔が浮かんだ。
「まさか……聖のことか?」
 アレクセイは大仰に頷いた。
「はい。キミの友人、白瀬聖は『憤怒ツォルン』を司るサタンと契約しています」
「今、聖は何処にいるんだ?」
「おい、それ以上喋るな」
 上層部の忠告を忘れたのか、と忍が口を挟む。
「彼に会いたいですか?」
「会いたいに決まってるだろ。聖は……」
「神条!」
 忍に呼ばれ、我に返る。
「あ……」
 僅かに首を動かし、忍を見ると厳しい表情で睨んでいた。
「黙ってろ」
「……っ」
 そうだった――輝斗は聖と接触することを禁止されている。
 苦しそうに顔を歪めた輝斗を見つめ、アレクセイは口を開く。
「サタンは、キミに会いたくないそうです」
 ズキリと心臓に棘が刺さったように痛んだ。
「どうして……?」
「さあ? 彼にも事情があるのでしょう」
 もったいつけるアレクセイに、忍が苛立たしげに言い放つ。
「てめぇも黙れ。こっちは仲良くお喋りしてる暇はねーんだ。戦う気がないなら去れ!」
「うーん、せっかちな人ですね」
 アレクセイは肩をすくめ、嘆息する。
「……いいでしょう。少しばかり遊んであげましょうか」
 言うや否や、アレクセイはステッキで地面を軽く突いた。
「ローザ」
 正面を向いたまま、ローザの名を呼ぶ。
「はい、ご主人様」
 アレクセイはステッキを持ち上げ、忍に狙いを定めると微笑を浮かべた。
「彼の相手をしてあげなさい」
「かしこまりました」
 数歩、前に進み出たローザは、忍に向かって丁寧にお辞儀をした。
「なにっ!?」
 上体を起こした刹那、忍ぶの間合いに飛び込んできた。
 大鎌が、忍の首を狙って襲いかかる。
「忍!」
「キミの相手は、私がしましょう」
 いつの間に移動したのだろう。至近距離にアレクセイの顔があった。
「速い――!」
 輝斗は反射的に引き金を引いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...