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番外編
第五章-番外編:君の隣にいることを後編-
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――泣いていたきみが、少しでも元気になればいいと思ったのだけど……。
女性に花を贈るとき、何を選べば当たり障りないのだろうか。気取らずに、さりげなく渡せるものがいいと思うのだが無難なものは何だろう。
「えっと……」
美華が入院している病院を訪れる前に近くの花屋に立ち寄った侑李は、色とりどりの花を前に立ち往生していた。
普段から花を買う習慣がないため、名前や種類もよく分からない。
幼い頃から猫を飼っていたこともあって、実家でも花を飾る習慣がなかった。父親のことや自身のコンプレックスもあり他人と接するときも棘のある言い方をついやってしまうため、交友関係もさほど広くない。それ故、贈り物で誰かに渡す機会もなければ貰うこともなかったので、花屋は全くの未開の地だった。
(確か根っこがあるものは根付くって言われてて、入院が長くなるから縁起が悪いって聞いたことがあるぞ。鉢植えは避けた方がいいな。あとは百合とか香りの強いものも良くないんだっけ)
それら以外で何が正解なのだろう。
「…………」
眉根を下げて困った様子になったかと思えば、今度は真顔に変化する。それからヒクヒクと頬を引きつらせ、上を向いたり下を向いたり視線を泳がせたりと忙しない。
「あの……困っているようなので、お声掛けした方が良いでしょうか?」
「面白いんで、もう少しだけあのままでいさせましょう」
コロコロと表情を変化させる侑李を心配した花屋の店員に対し、政宗は完全に楽しんでいる。
「うーん……」
「そろそろ声を掛けるか」
神妙な面持ちで、ガーベラを見つめている侑李の隣にやってきた政宗が軽い調子で話しかけた。
「迷ってるならバラがいいんじゃないか? 本数にも意味があるし、恋人に贈るには最適だ」
「恋人じゃないですし、重すぎます!」
侑李はすかさずツッコミを入れる。
「僕はただ……今回の件で落ち込んでいるだろうから、少しでも気が紛れればと思って。本当にそれだけですから!」
「ふーん」
何か言いたそうな視線を送る政宗を横目で睨んでから、侑李は改めて店内を見回す。早く決めないと、バラの花束を買わされそうだ。
「あ……」
ふと目にとまった花は、バラほど華やかではないがフリルのついたスカートのようにヒラヒラとした花弁が愛らしかった。色も白やピンク、黄色に紫、そして緑色と豊富だ。これなら花束にしてもまとまりがあって、病室に彩りを加えてくれるだろう。
「これにします。あとは色か……」
全色を選んでもいいが、美華をイメージしたものにしたい。
「よし、三色くらいにしよう」
「ところで、侑李」
「なんですか? 手短にお願いします」
「病院の見舞いに生花は禁止だぞ」
「えっ!?」
ぎょっとして勢いよく振り返ると、笑みを絶やさず政宗は言葉を続ける。
「入院患者は免疫力が落ちているからな。感染リスクを避けるために生花は禁止されている」
「早く言ってくださいよ! はあああ~……選んでも意味ないじゃないですか」
深いため息を吐き、侑李はがっくりと肩を落とす。
「生花は禁止だが、花を贈る方法はあるぞ。たとえば、ほら……」
政宗はレジの傍に置かれたものを指さした。
「“コレ”とか贈り物に最適じゃないか?」
「っ!」
暗い表情から、みるみる明るくなっていく。その目は希望に満ちていた。
「隊長……よく気づきましたね」
「フッ、恋人へのプレゼントリサーチに抜かりはない」
「つまり、贈ったことがあるんですね」
政宗の提案に従うのも複雑だが、他に花を贈る方法もなさそうだ。
「……まあいいでしょう。アドバイスありがとうございます。すみません、これをください」
お礼を言ってから、侑李は店員を呼んだ。
「いい物が見つかって良かったな」
「はい」
侑李は頷いてから視線を手元に移す。
(後は美華が喜んでくれるといいんだけど……)
綺麗にラッピングされた包みには黄色のリボンもあしらわれていた。
× × ×
病院に到着し、美華がいる病室を訪れると小鉄の姿があった。
「マサムネ、ユウリ来てくれたのか」
「美華、大分顔色が良くなったな」
「隊長……」
不安そうに瞳が揺れている美華に政宗は笑いかける。
「退院の日取りは決まったのか?」
「明後日には退院できるそうです。戦闘は……やっぱり無理だって、お医者さんに言われました」
「そうか……」
分かっていたことだが、本人が一番堪えているだろう。
「ユーリ、左目は大丈夫?」
「ああ、うん。まぶたを切っただけだから。傷痕も残らないよ」
「良かった」
安堵のため息を零し、美華は目元を綻ばせた。傷を負わせたことを、ずっと気に病んでいたようだ。
「美華こそ、まだ本調子じゃないだろうし退院するまではゆっくり休んで」
「うん、そうする」
小さく頷き、美華は改めて政宗の方を見た。
「アタシの処分は決まりましたか?」
どんな処分も受け入れるという覚悟を決めた眼差しだ。
「正式発表はまだだが概ねな」
「教えてください」
美華は落ち着いた声で先を促すと、政宗は表情を引き締める。
「美華、お前は引き続き我が部隊の後方支援として任務に就くこと。以上だ」
「……え?」
予想外の命令に、美華はきょとんとした表情で固まってしまう。
「マサムネ、それは本当ね!?」
隣で聞いていた小鉄の方がリアクションが大きい。普段から糸目で目が開いているのか分からないのに、今回ばかりはカッと見開いて政宗に詰め寄っていた。
「本当だ。高千穂審議官が約束してくれた」
「だから美華。安心していいよ」
侑李も言葉を続けると、美華の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アタシ……ここにいられるんだ……」
「当たり前だよ。美華は僕たちの大切な仲間なんだから」
「谢谢……」
肩をふるわせ、嗚咽を漏らす美華に侑李はハンカチを差し出す。それを受け取ると、美華は声を上げて泣き出した。
「ひっく……うっ……良かったよぉぉぉ」
子供のように泣きじゃくる美華に、侑李は微笑みかけるが……。
ツンツン、と政宗の肘が脇腹を小突く。
「何ですか?」
小声で尋ねると、耳元でそっと囁かれた。
「ここは抱きしめる所だろう? 気が利かない奴だな」
「はあ!?」
カッと頬が熱くなり、思わず大声を上げてしまう。
「?」
「急に何ね?」
「いえ、何でもないです」
不思議そうに見ている美華と小鉄に慌てて取り繕う。それから政宗のコートの袖を引っ張ってベッドから距離を取る。
「僕は別にそういうんじゃないですから」
「恋愛はタイミングが大事だぞ?」
「だーかーらー違いますってば!」
ムッとして侑李は反論した。
「何が違うよ? さっきからふたりしてコソコソ怪しいね」
「もしかして、上層部がアタシのことで他に言ってた?」
「そんなことないから大丈夫!」
「ああ、そこは安心していい。というか侑李が美華に大事な話があるらしいんで、俺と小鉄さんは席を外そう」
「えっ!? あ、ちょっと……」
急に何を言い出すんだ、と侑李は政宗を引き留めようと手を伸ばすがヒラリと躱されてしまう。
「何でワタシも出ていかなきゃならないね?」
「まあまあ、ちょっとだけですって」
不満を露わにする小鉄の背中を押して政宗は病室を後にした。去り際に片目を瞑っていたが、気を利かせたつもりだろうか。
「あの人はぁぁぁぁぁぁ……」
後で文句を言ってやろう、と心の中で呟き、侑李は閉められた扉を凝視していた。
「ユーリ、話って何?」
「えっと……」
政宗の勘違いだったと答えても良かったのだが、まだお見舞いの品を渡せていない。せっかくなので、今渡そうと侑李は手に提げて紙袋から黄色のリボンがあしらわれた包みを取り出した。
「これ、良かったら……」
「なんだろ? 開けてもいい?」
「うん」
包みを受け取った美華が中身を確認すると、透明なケースがかぶさったトルコキキョウの花が現れた。白と緑の二色の花が鮮やかで、美華も口元を緩める。
「綺麗なお花」
「病院に生花はダメだって聞いたから、ブリザーブドフラワーにしたんだ。これならケースに入ってるし、病室でも飾れるんじゃないかなって」
「嬉しい、谢谢你给我的礼物。大切にするね!」
美華はブリザーブドフラワーのケースを胸元に持っていくと、そっと抱きしめた。
「喜んでもらえて良かった」
笑顔の美華に、侑李は胸をなで下ろす。
「それと、悪霊から助けてくれたこともありがとう。いっぱいユーリを傷つけて酷いこと言ってごめんね」
「あれは悪霊の仕業だって言っただろ。美華が言ったんじゃないって分かってる」
緩く頭を振って答えると、美華は目を細めた。
――この顔が見たかったんだ。
柔らかな木漏れ日のような優しい顔。彼女の笑顔を見ていると、自分も力が湧いてくるような気がするのだ。
「守りたい、その笑顔」
「――っ!?」
背後から、ぼそっと呟かれた言葉にドキリとした。心を読まれたのかと焦った侑李が振り返ると、扉の隙間から政宗が顔を覗かせている。
「隊長!」
「プレゼントは渡せたようだな」
「はい、とっても素敵な礼物です!」
「ユウリ、オマエ……メイファに下心あるか!?」
「ありませんっ!」
小鉄の迫力に鬼気迫るものを感じ、侑李は声を大にして否定した。
「いやぁ、侑李がトルコキキョウを選んだとき、いいセンスしてるなって思ったんだ。なんせ、この花の花言葉は白が『永遠の愛と思いやり』で、緑は『良い語らい』だ。大切なパートナーや家族や友人に贈るのに最適だが、結婚式の花束にもよく使われる色だしな!」
「そ、そうなんですか!?」
全然知らなかった侑李の顔が真っ赤に染まっていく。
「とある国では、デートの時に贈る花としてトルコキキョウは好まれるらしいぞ」
うんうん、と満足そうに頷いている政宗に、侑李はパクパクと口を動かすだけで声にならない。不可抗力だが、これでは愛の告白をしているようなものだ。
「あ……そう、なんだね」
美華も頬を赤くそめ、ブリザーブドフラワーを抱きしめる手に力を込めると俯いてしまう。
「ユウリ、歯を食いしばるよろし」
はあ、と硬く握った拳に息をふきかけ、小鉄がジリジリと近づいてくる。
「なんでですか!?」
「メイファに下心は許さないよ!」
「だから誤解ですってば! 宗像隊長も止めてくださいよ!」
「はっはっは、青春だな」
その後、騒ぎに気づいた看護師が「病院では静かにしてください!」と乗り込んでくるまで、侑李は小鉄に卍固めを決められていた。
女性に花を贈るとき、何を選べば当たり障りないのだろうか。気取らずに、さりげなく渡せるものがいいと思うのだが無難なものは何だろう。
「えっと……」
美華が入院している病院を訪れる前に近くの花屋に立ち寄った侑李は、色とりどりの花を前に立ち往生していた。
普段から花を買う習慣がないため、名前や種類もよく分からない。
幼い頃から猫を飼っていたこともあって、実家でも花を飾る習慣がなかった。父親のことや自身のコンプレックスもあり他人と接するときも棘のある言い方をついやってしまうため、交友関係もさほど広くない。それ故、贈り物で誰かに渡す機会もなければ貰うこともなかったので、花屋は全くの未開の地だった。
(確か根っこがあるものは根付くって言われてて、入院が長くなるから縁起が悪いって聞いたことがあるぞ。鉢植えは避けた方がいいな。あとは百合とか香りの強いものも良くないんだっけ)
それら以外で何が正解なのだろう。
「…………」
眉根を下げて困った様子になったかと思えば、今度は真顔に変化する。それからヒクヒクと頬を引きつらせ、上を向いたり下を向いたり視線を泳がせたりと忙しない。
「あの……困っているようなので、お声掛けした方が良いでしょうか?」
「面白いんで、もう少しだけあのままでいさせましょう」
コロコロと表情を変化させる侑李を心配した花屋の店員に対し、政宗は完全に楽しんでいる。
「うーん……」
「そろそろ声を掛けるか」
神妙な面持ちで、ガーベラを見つめている侑李の隣にやってきた政宗が軽い調子で話しかけた。
「迷ってるならバラがいいんじゃないか? 本数にも意味があるし、恋人に贈るには最適だ」
「恋人じゃないですし、重すぎます!」
侑李はすかさずツッコミを入れる。
「僕はただ……今回の件で落ち込んでいるだろうから、少しでも気が紛れればと思って。本当にそれだけですから!」
「ふーん」
何か言いたそうな視線を送る政宗を横目で睨んでから、侑李は改めて店内を見回す。早く決めないと、バラの花束を買わされそうだ。
「あ……」
ふと目にとまった花は、バラほど華やかではないがフリルのついたスカートのようにヒラヒラとした花弁が愛らしかった。色も白やピンク、黄色に紫、そして緑色と豊富だ。これなら花束にしてもまとまりがあって、病室に彩りを加えてくれるだろう。
「これにします。あとは色か……」
全色を選んでもいいが、美華をイメージしたものにしたい。
「よし、三色くらいにしよう」
「ところで、侑李」
「なんですか? 手短にお願いします」
「病院の見舞いに生花は禁止だぞ」
「えっ!?」
ぎょっとして勢いよく振り返ると、笑みを絶やさず政宗は言葉を続ける。
「入院患者は免疫力が落ちているからな。感染リスクを避けるために生花は禁止されている」
「早く言ってくださいよ! はあああ~……選んでも意味ないじゃないですか」
深いため息を吐き、侑李はがっくりと肩を落とす。
「生花は禁止だが、花を贈る方法はあるぞ。たとえば、ほら……」
政宗はレジの傍に置かれたものを指さした。
「“コレ”とか贈り物に最適じゃないか?」
「っ!」
暗い表情から、みるみる明るくなっていく。その目は希望に満ちていた。
「隊長……よく気づきましたね」
「フッ、恋人へのプレゼントリサーチに抜かりはない」
「つまり、贈ったことがあるんですね」
政宗の提案に従うのも複雑だが、他に花を贈る方法もなさそうだ。
「……まあいいでしょう。アドバイスありがとうございます。すみません、これをください」
お礼を言ってから、侑李は店員を呼んだ。
「いい物が見つかって良かったな」
「はい」
侑李は頷いてから視線を手元に移す。
(後は美華が喜んでくれるといいんだけど……)
綺麗にラッピングされた包みには黄色のリボンもあしらわれていた。
× × ×
病院に到着し、美華がいる病室を訪れると小鉄の姿があった。
「マサムネ、ユウリ来てくれたのか」
「美華、大分顔色が良くなったな」
「隊長……」
不安そうに瞳が揺れている美華に政宗は笑いかける。
「退院の日取りは決まったのか?」
「明後日には退院できるそうです。戦闘は……やっぱり無理だって、お医者さんに言われました」
「そうか……」
分かっていたことだが、本人が一番堪えているだろう。
「ユーリ、左目は大丈夫?」
「ああ、うん。まぶたを切っただけだから。傷痕も残らないよ」
「良かった」
安堵のため息を零し、美華は目元を綻ばせた。傷を負わせたことを、ずっと気に病んでいたようだ。
「美華こそ、まだ本調子じゃないだろうし退院するまではゆっくり休んで」
「うん、そうする」
小さく頷き、美華は改めて政宗の方を見た。
「アタシの処分は決まりましたか?」
どんな処分も受け入れるという覚悟を決めた眼差しだ。
「正式発表はまだだが概ねな」
「教えてください」
美華は落ち着いた声で先を促すと、政宗は表情を引き締める。
「美華、お前は引き続き我が部隊の後方支援として任務に就くこと。以上だ」
「……え?」
予想外の命令に、美華はきょとんとした表情で固まってしまう。
「マサムネ、それは本当ね!?」
隣で聞いていた小鉄の方がリアクションが大きい。普段から糸目で目が開いているのか分からないのに、今回ばかりはカッと見開いて政宗に詰め寄っていた。
「本当だ。高千穂審議官が約束してくれた」
「だから美華。安心していいよ」
侑李も言葉を続けると、美華の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アタシ……ここにいられるんだ……」
「当たり前だよ。美華は僕たちの大切な仲間なんだから」
「谢谢……」
肩をふるわせ、嗚咽を漏らす美華に侑李はハンカチを差し出す。それを受け取ると、美華は声を上げて泣き出した。
「ひっく……うっ……良かったよぉぉぉ」
子供のように泣きじゃくる美華に、侑李は微笑みかけるが……。
ツンツン、と政宗の肘が脇腹を小突く。
「何ですか?」
小声で尋ねると、耳元でそっと囁かれた。
「ここは抱きしめる所だろう? 気が利かない奴だな」
「はあ!?」
カッと頬が熱くなり、思わず大声を上げてしまう。
「?」
「急に何ね?」
「いえ、何でもないです」
不思議そうに見ている美華と小鉄に慌てて取り繕う。それから政宗のコートの袖を引っ張ってベッドから距離を取る。
「僕は別にそういうんじゃないですから」
「恋愛はタイミングが大事だぞ?」
「だーかーらー違いますってば!」
ムッとして侑李は反論した。
「何が違うよ? さっきからふたりしてコソコソ怪しいね」
「もしかして、上層部がアタシのことで他に言ってた?」
「そんなことないから大丈夫!」
「ああ、そこは安心していい。というか侑李が美華に大事な話があるらしいんで、俺と小鉄さんは席を外そう」
「えっ!? あ、ちょっと……」
急に何を言い出すんだ、と侑李は政宗を引き留めようと手を伸ばすがヒラリと躱されてしまう。
「何でワタシも出ていかなきゃならないね?」
「まあまあ、ちょっとだけですって」
不満を露わにする小鉄の背中を押して政宗は病室を後にした。去り際に片目を瞑っていたが、気を利かせたつもりだろうか。
「あの人はぁぁぁぁぁぁ……」
後で文句を言ってやろう、と心の中で呟き、侑李は閉められた扉を凝視していた。
「ユーリ、話って何?」
「えっと……」
政宗の勘違いだったと答えても良かったのだが、まだお見舞いの品を渡せていない。せっかくなので、今渡そうと侑李は手に提げて紙袋から黄色のリボンがあしらわれた包みを取り出した。
「これ、良かったら……」
「なんだろ? 開けてもいい?」
「うん」
包みを受け取った美華が中身を確認すると、透明なケースがかぶさったトルコキキョウの花が現れた。白と緑の二色の花が鮮やかで、美華も口元を緩める。
「綺麗なお花」
「病院に生花はダメだって聞いたから、ブリザーブドフラワーにしたんだ。これならケースに入ってるし、病室でも飾れるんじゃないかなって」
「嬉しい、谢谢你给我的礼物。大切にするね!」
美華はブリザーブドフラワーのケースを胸元に持っていくと、そっと抱きしめた。
「喜んでもらえて良かった」
笑顔の美華に、侑李は胸をなで下ろす。
「それと、悪霊から助けてくれたこともありがとう。いっぱいユーリを傷つけて酷いこと言ってごめんね」
「あれは悪霊の仕業だって言っただろ。美華が言ったんじゃないって分かってる」
緩く頭を振って答えると、美華は目を細めた。
――この顔が見たかったんだ。
柔らかな木漏れ日のような優しい顔。彼女の笑顔を見ていると、自分も力が湧いてくるような気がするのだ。
「守りたい、その笑顔」
「――っ!?」
背後から、ぼそっと呟かれた言葉にドキリとした。心を読まれたのかと焦った侑李が振り返ると、扉の隙間から政宗が顔を覗かせている。
「隊長!」
「プレゼントは渡せたようだな」
「はい、とっても素敵な礼物です!」
「ユウリ、オマエ……メイファに下心あるか!?」
「ありませんっ!」
小鉄の迫力に鬼気迫るものを感じ、侑李は声を大にして否定した。
「いやぁ、侑李がトルコキキョウを選んだとき、いいセンスしてるなって思ったんだ。なんせ、この花の花言葉は白が『永遠の愛と思いやり』で、緑は『良い語らい』だ。大切なパートナーや家族や友人に贈るのに最適だが、結婚式の花束にもよく使われる色だしな!」
「そ、そうなんですか!?」
全然知らなかった侑李の顔が真っ赤に染まっていく。
「とある国では、デートの時に贈る花としてトルコキキョウは好まれるらしいぞ」
うんうん、と満足そうに頷いている政宗に、侑李はパクパクと口を動かすだけで声にならない。不可抗力だが、これでは愛の告白をしているようなものだ。
「あ……そう、なんだね」
美華も頬を赤くそめ、ブリザーブドフラワーを抱きしめる手に力を込めると俯いてしまう。
「ユウリ、歯を食いしばるよろし」
はあ、と硬く握った拳に息をふきかけ、小鉄がジリジリと近づいてくる。
「なんでですか!?」
「メイファに下心は許さないよ!」
「だから誤解ですってば! 宗像隊長も止めてくださいよ!」
「はっはっは、青春だな」
その後、騒ぎに気づいた看護師が「病院では静かにしてください!」と乗り込んでくるまで、侑李は小鉄に卍固めを決められていた。
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