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第36話 ショールに隠された真実
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昨日は永遠とも思える時間を歩いた気がするが、今日は案外はやく着いた。鬱蒼とした雑木林の緑の中に不釣り合いな色が散っている。ビリビリになってしまった婦人服の奥にショールが投げ出されていた。
手を離していいか了承を得ようと思って振り返ると、ダグラスはモリーに剣を突きつけた時のような険しい顔をしていて、僕は思わず悲鳴をあげてしまう。
「ショールは……アンネにプレゼントされたショールは……持っていきたい……」
僕はダグラスにそんな顔をしてほしくなくて、言い訳をする。でもダグラスは僕を見なかった。
「リリィ……一体誰がこんなことをしたんだ! 顔を覚えているか!」
急に怒鳴られて僕は肩を窄めて小さくなる。その肩をすごい力で掴まれ、目の前にダグラスの顔が近づく。
「嫌だ……ダグラス……」
「なにが嫌なんだ! ちゃんと言ってくれ!」
「ダグラスがそんな顔するの嫌だ!」
ダグラスは虚を突かれた顔で僕から顔を遠ざける。そして顔を背けながら謝った。
「ダグラス……僕……」
「リリィ、許してくれ。リリィをこんな目に遭わせた奴を殺したいと思っている。俺が昨日時間に遅れたせいでこんなことになったのに」
「そんな……! こんなの! こんなのいつものことで! それでダグラスがそんな怖い顔するの嫌だ!」
「いつもこんな酷い目に遭っていたのか……?」
「いつものことだから、気にしない! でも! でも!」
僕が死んでしまうと思った時、強く抱いた願いが今叶ったことをどうしても伝えたかった。
「ダグラスにもう会えないと思う方が苦しかった! 魔物になってダグラスに会いたいって……」
ダグラスが信じられないような顔で見るから、僕は言ってはいけないことを言ってしまったと、直感的に思った。封印師が魔物になりたいなんて、そんなこと言ってはならない。
ダグラスは動かなくなってしまったから、足早にショールを拾いにいく。そしてビリビリに破けた婦人服を見て、アンネはここを通ったら悲しむのではないかと思った。
僕がしゃがみ込み布の切れ端を拾い集め始めたら、ダグラスもそれに倣って拾ってくれる。そして最後の一切れを拾おうと思った手を掴まれた。僕が顔を上げると、すぐそばでダグラスが俯き、目を硬く瞑っている。
空の高いところで鳥が連れ立って鳴く声が響いた。
金色のまつ毛が少し動いたと思ったら、翠の目を真っ直ぐ僕に向けた。そしてゆっくりと、口布に手を伸ばしたから、僕は癖でめくれないように端を引っ張ってしまう。
どうしたらいいかわからないでいると、ダグラスは顔を傾け、口布の上から僕にキスをしてくれた。
一瞬の熱が通りすぎたと思ったら、ダグラスは目を閉じたまま僕の後頭部に手を回す。僕はなにをされるかわかったから、慌てて手を伸ばしてそれを拒んでしまった。
その時に、ダグラスの悲しげな息が漏れる。それを聞いたら、胸がバラバラになるほど苦しくて、僕はダグラスの手ごと紐を引っ張った。
彼と僕の顔の間でハラリと口布が落ちる。
その隙間を埋めるように、熱く震えるダグラスが僕の唇にそっと触れた。
僕は封印をする時に魂を縛る糸を出す。でもこの時僕はダグラスからそれに似た感覚を感じた。禁忌を破った日、僕が出した糸を解かないようにダグラスは辿ってきてくれたのだ。
僕は全ての意識が吸い込まれて、気が遠くなる。その僕の意識を繋ぎ止めるように、ダグラスは何度も何度も僕の唇に触れてくれた。
「リディア……」
「ダ……」
名を呼び返そうと思ったら、その唇を塞がれ、熱が僕の口の中に入ってくる。あまりの熱さに彼の熱源はこれだったのかと思えるほどだった。それが舌に触れられた瞬間、快感に膝が震え出す。だからだろうか、ダグラスは僕の腰を引き寄せ、抱きしめて、僕のもっと深いところにまで舌を伸ばした。
ずっと憧れていたダグラスの唇は想像以上に熱く、苦しかった。僕がこれ以上は正気を保っていられないと、ダグラスの肩に手をついたら、ダグラスは慌てて顔を離してくれる。そしてまたあの困った顔で笑うのだ。
「ダグラス……ありがとう……」
ダグラスの顔から笑みが消えて本当に困った顔になってしまった。きっと僕が突然お礼を言ったことがよくわからないのだろう。
「ありがとうって言うと、好きになってくれるって、本当だったんだ。ダグラス、ダグラス、僕……」
ダグラスにまた会えて嬉しい、そう言いたいのに、ダグラスはまた僕の口を塞いで、言わせてくれなかった。お腹が痛くなってしまうと思うほど僕を満たしたら、ダグラスは「どういたしまして」と言って解放してくれた。
手を離していいか了承を得ようと思って振り返ると、ダグラスはモリーに剣を突きつけた時のような険しい顔をしていて、僕は思わず悲鳴をあげてしまう。
「ショールは……アンネにプレゼントされたショールは……持っていきたい……」
僕はダグラスにそんな顔をしてほしくなくて、言い訳をする。でもダグラスは僕を見なかった。
「リリィ……一体誰がこんなことをしたんだ! 顔を覚えているか!」
急に怒鳴られて僕は肩を窄めて小さくなる。その肩をすごい力で掴まれ、目の前にダグラスの顔が近づく。
「嫌だ……ダグラス……」
「なにが嫌なんだ! ちゃんと言ってくれ!」
「ダグラスがそんな顔するの嫌だ!」
ダグラスは虚を突かれた顔で僕から顔を遠ざける。そして顔を背けながら謝った。
「ダグラス……僕……」
「リリィ、許してくれ。リリィをこんな目に遭わせた奴を殺したいと思っている。俺が昨日時間に遅れたせいでこんなことになったのに」
「そんな……! こんなの! こんなのいつものことで! それでダグラスがそんな怖い顔するの嫌だ!」
「いつもこんな酷い目に遭っていたのか……?」
「いつものことだから、気にしない! でも! でも!」
僕が死んでしまうと思った時、強く抱いた願いが今叶ったことをどうしても伝えたかった。
「ダグラスにもう会えないと思う方が苦しかった! 魔物になってダグラスに会いたいって……」
ダグラスが信じられないような顔で見るから、僕は言ってはいけないことを言ってしまったと、直感的に思った。封印師が魔物になりたいなんて、そんなこと言ってはならない。
ダグラスは動かなくなってしまったから、足早にショールを拾いにいく。そしてビリビリに破けた婦人服を見て、アンネはここを通ったら悲しむのではないかと思った。
僕がしゃがみ込み布の切れ端を拾い集め始めたら、ダグラスもそれに倣って拾ってくれる。そして最後の一切れを拾おうと思った手を掴まれた。僕が顔を上げると、すぐそばでダグラスが俯き、目を硬く瞑っている。
空の高いところで鳥が連れ立って鳴く声が響いた。
金色のまつ毛が少し動いたと思ったら、翠の目を真っ直ぐ僕に向けた。そしてゆっくりと、口布に手を伸ばしたから、僕は癖でめくれないように端を引っ張ってしまう。
どうしたらいいかわからないでいると、ダグラスは顔を傾け、口布の上から僕にキスをしてくれた。
一瞬の熱が通りすぎたと思ったら、ダグラスは目を閉じたまま僕の後頭部に手を回す。僕はなにをされるかわかったから、慌てて手を伸ばしてそれを拒んでしまった。
その時に、ダグラスの悲しげな息が漏れる。それを聞いたら、胸がバラバラになるほど苦しくて、僕はダグラスの手ごと紐を引っ張った。
彼と僕の顔の間でハラリと口布が落ちる。
その隙間を埋めるように、熱く震えるダグラスが僕の唇にそっと触れた。
僕は封印をする時に魂を縛る糸を出す。でもこの時僕はダグラスからそれに似た感覚を感じた。禁忌を破った日、僕が出した糸を解かないようにダグラスは辿ってきてくれたのだ。
僕は全ての意識が吸い込まれて、気が遠くなる。その僕の意識を繋ぎ止めるように、ダグラスは何度も何度も僕の唇に触れてくれた。
「リディア……」
「ダ……」
名を呼び返そうと思ったら、その唇を塞がれ、熱が僕の口の中に入ってくる。あまりの熱さに彼の熱源はこれだったのかと思えるほどだった。それが舌に触れられた瞬間、快感に膝が震え出す。だからだろうか、ダグラスは僕の腰を引き寄せ、抱きしめて、僕のもっと深いところにまで舌を伸ばした。
ずっと憧れていたダグラスの唇は想像以上に熱く、苦しかった。僕がこれ以上は正気を保っていられないと、ダグラスの肩に手をついたら、ダグラスは慌てて顔を離してくれる。そしてまたあの困った顔で笑うのだ。
「ダグラス……ありがとう……」
ダグラスの顔から笑みが消えて本当に困った顔になってしまった。きっと僕が突然お礼を言ったことがよくわからないのだろう。
「ありがとうって言うと、好きになってくれるって、本当だったんだ。ダグラス、ダグラス、僕……」
ダグラスにまた会えて嬉しい、そう言いたいのに、ダグラスはまた僕の口を塞いで、言わせてくれなかった。お腹が痛くなってしまうと思うほど僕を満たしたら、ダグラスは「どういたしまして」と言って解放してくれた。
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