システムエンジニアがとんでもない開発をはじめました。

大田ネクロマンサー

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裸族の常識と生態調査について

裸族の生態と常識

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歩けば10分程度の最寄り駅から家までの道のりを俺は全力疾走している。どうしてこんな日に限って残業なんだ!

汗だくだが、コートを脱ぐ時間も惜しい。

俺と長谷さんが一緒に暮らしはじめて1年弱。

俺は会社での立場が少し変わった。真面目系クズの総本山、沼田Mマネージャーが半年前に会社を去った。
人が会社を辞める理由というのは簡単にまとめられるものではないだろうが、俺にはなんとなく退職理由がわかっていた。声がでかいだけのロビー活動家に、会社は評論以外の実績を求めはじめたのだ。居場所のなくなった沼田さんは保身に暗躍したが、自分の周りを固めていた同種の人間たちの保身によって見殺しにされた。

結果、俺が真面目系クズの巣窟チームのマネージャーに抜擢されたのだ。紆余曲折あったものの、現在はプレイングマネジャーとして毎日奮闘し、慣れない二足わらじで残業も多くなっていた。

でも俺には長谷さんという尊敬できるお手本がいるおかげで、どんなハードワークもこなしていけた。むしろ疑いなく仕事に熱中できることに幸福すら感じている。更にそんな大好きな長谷さんと毎日暮らしているのだ。どれだけの充足感か言葉が尽きない。

家での長谷さんは仕事の時とは少し雰囲気が違う。いや、暮らし始めの頃は驚きの連続だった……。

初めて家に招かれた時も、ちょっと自由すぎる節があったが、そういったちょっとした感覚のズレというものが随所に散見された。

まず長谷さんはスーパー面倒くさがり屋だ。それ故に仕事では効率厨なのだと一緒に暮らして初めてわかった。そして生活能力が著しく低い。そのくせなんでも人月工数で考える。

長谷さんは俺と暮らすまで100%外食だった。それは稼ぎが良いとかそういう域を超えて、健康が心配になるレベルだった。なので俺は常備菜を週末にまとめて作って1週間分の食事を提供するようになった。

そして家事は外注だった。暮らし始めて少し経ったときに、家事代行サービスのおばちゃんが部屋に乱入してきて、心臓が止まるかと思った。おばちゃんが帰った後、サービスをそっと解約した。勝手に解約した手前ほとんどの家事を俺がやることになった。

これらのことで長谷さんと揉めなかったわけではない。家事に費やす時間を工数計算すると外注の方が安くて有意義だ、とエクセルの表を見せられたときには、正直ドン引きした。
っていうか俺の行動をデータベース化して蓄積していることも、口論になったとき説得材料になる条件でSQLを叩き出したことも、俺の常識というボーダーラインをベリーロールで超えていた。

俺がちょっと込み入ったことを話そうとすると、長谷さんはすぐに甘ったれた声で俺を呼び、俺が我慢ができなくなって長谷さんを押し倒す、というところまでがテンプレになっていた。そういったいくつかのテンプレで長谷さんは俺を操縦し、俺は長谷さんに踏み込んだことをずっと聞けずにいたのだ。


長谷さんは俺に好きと言わない。この1年弱、ただの1度も言われたことがないのだ。

付き合いはじめはこのことで少し悩んだ。長谷さんは本当に俺のことが好きなんだろうか? っていうか付き合っているって思ってるのは俺だけなんじゃないか? と不安に苛まれたものだ。

しかし、長谷さんの常識は斜め上なのである。前提条件から理解ができないのだから、不安も解消ができないと悟りの境地に至った。

大好きな長谷さんと一緒に居られる、これ以上を望むのは贅沢というものだ。愛している、という言葉が日本人には馴染みがないように、長谷さんにはそういう言葉に馴染みがないのだろう、と勝手に納得していた。

今日は隔週木曜開催の役員を含むマネージャー以上全員参加の役職者会議だった。

今日のこの会議まで、俺は自分に言い聞かせてきたのだ。俺と長谷さんの常識が違うだけで、きっと長谷さんは俺のことが好きなんだろう、と。
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