システムエンジニアがとんでもない開発をはじめました。

大田ネクロマンサー

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裸族の常識と生態調査について

裸族に操縦されるときの感覚

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俺はマンションの最後の階段を駆け上がり、家の戸を乱暴に開けた。

そのままいつも長谷さんが座っているパソコンデスクまで、音も気にせず走る。

「おかえり。ど……どうしたの、すごい汗だけど……」

振り返って俺を訝しげに見る長谷さんの言葉を遮った。

「長谷さん! 会社辞めるって本当ですか!?」

長谷さんは困惑していた。俺は長谷さんが次に何を言うのか分かる。それを矢継ぎ早に捲し立てる。

「今日の会議には俺も参加していたし、役職者会議で発表されるってことは、決定事項だってこともわかってます!」

俺はここで、全力疾走で荒ぶった息を整え始めた。部屋には俺の荒い呼吸音だけが響いていた。

「次期GMに周防を推薦しておいたよ」

そういうことが聞きたいんじゃねーんだよ! なんでそんな大事なこと俺に相談してくれないんですか! そう言いかけた。
でも俺の呼び方に違和感を覚え、言葉を飲む。違和感の原因はすぐ分かった。長谷さんは仕事モードの口調なのに、素っ裸だった。長谷さんの肩を掴む。

「冷たっ! 長谷さん風呂いつ入ったんですか!?」

「え……わからないよ」

わからねーわけねぇだろうが!!
俺は急いでベッド下の収納スペースからガウンを取り出す。買ってあげたのに、なかなか着てくれない不憫なガウンだ。

それを長谷さんに羽織らせながら言う。

「もう寒いんだからいい加減、風呂の後には何か着てくださいよ。風邪ひきますよ、本当に……」

長谷さんは俺の手を掴んで上目遣いをする。

「すおー」

長谷さんがかわいい。この顔をされると、俺は無条件降伏してしまう。
しかし、ここでとてつもない悪寒が俺の背中を駆け抜けた。俺は長谷さんに操縦されていると察知する時、悪寒が走る。でも今日のそれは違った。

これ本気で風邪っぽい。

いろいろ問い詰めたいことがあったが、長谷さんに風邪をひくからなんか着ろや、としたり顔で言った手前、次の言葉が出てこなくなってしまった。

長谷さんもこの話を切り上げたそうに甘ったれた声を出しているし、とりあえず寒いから風呂に入りたい、汗が冷たい。

さっきまで長谷さんのことで頭がいっぱいだったのに、人間とは薄情なもので生存危機が迫ると一気にそれらの思考が停止する。風呂であったまりたい、それ以外考えられなくなって、俺は無言で風呂に向かった。


風呂に入っているのにガクブルして、地獄のような入浴をする。はやく横たわりたい、そう思って長谷さんのいる部屋に戻ってきた。

部屋に入ろうとした時、長谷さんが既にベッドに入っているのと、ガウンが床に投げ捨てられている光景が目に飛び込んでくる。俺は部屋の壁にもたれかかり、それらの光景をぼんやり眺めた。

長谷さんは狸寝入りが下手だ。でも、人を寄せ付けたくないオーラの放出は上手い。

思えば、最近長谷さんは家でも仕事モードの時が多かった。口調ですぐ分かる。
そしてここ最近、こうやって近寄るなオーラを全開にして狸寝入りすることが多かった。

こういう時、俺はどうしたらいいかわからなくなってしまい、自分の部屋の、一人暮らしの時から愛用しているソファベッドで寝る。

長谷さん、俺と別れたい時ってどうなっちゃうんだろうな……。

そう考えたら急に涙がこみ上げてきた。熱っぽいので涙腺がガバガバだ。涙がこぼれないように歩き出し、ガウンを拾う。

初めてのプレゼントは長谷さんがさっき座ってたパソコンデスクセットだった。生活に無頓着すぎる長谷さんのせいでこの家には家具が少ない。床に直接座りとんでもない姿勢でラップトップを触る姿を見兼ねて、オシャレな机と椅子を買ってあげた。
すごい喜んでくれたし、鳥が止まり木を得たように毎日使ってくれている。

でも次のプレゼントであるこのガウンはお気に召さなかったらしい。裸族には拷問なのだろうか。さっき我慢した涙が鼻水となって下りてくる。いや、これは本格的にヤバイかもしれない。俺は鼻をすすりながら自分の部屋に戻った。

節々も痛くなってきたし、何よりも悪寒がやばい。トレーナーやら靴下やら、暖まれるものを全部装備して布団に入った。
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