魔法使いの大曲線

大田ネクロマンサー

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第25話 魔法使い総火力演習(2)

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久遠さんと円華ちゃんの連携攻撃は一分の隙もなかった。今まで一緒に演習をしたことがないと言っていたが、幻術で場を支配するうちに久遠さんの攻撃パターンを大枠で捉えているのだろう。

円華ちゃんの無限とも思える手数の魔法と、久遠さんの物理攻撃で、相手が劣勢に追い込まれている。久遠さんがそれを感じたのか、円華ちゃんの魔法に任せて人影から距離を開けたときに、相手が苦し紛れに叫んだ。

「私が両親を殺したとでも思っているのか!?」

その言葉に、土砂降りのような円華ちゃんの魔法がピタッと止んだ。その隙をついて人影が動いた次の瞬間、そいつは玲音の前に居た。正確には玲音が相手の攻撃を腕で受け止めていた。

玲音は腰を掴んでいた俺の腕を払って俺を後ろに押した。相手は玲音の能力を見誤っていたのだろう、舌打ちをしながら玲音に拳を下ろしている。俺が魔法を履行しようとした瞬間、陽炎のように揺らめきながら近づく影を見た。

円華ちゃん……そう言おうとした瞬間、風景がねじれたかのような錯覚を起こした。

円華ちゃんの青白い拳が、相手の制止を振り切って顔面に到達していた。相手の顔は不自然に歪み、俺はそれを直視していられなかった。

相手は円華ちゃんの拳に体ごと吹き飛ばされ草むらに突っ込んでいった。俺は玲音に駆け寄る。

「玲音……大丈夫か?」

その言葉に円華ちゃんはこちらを一瞥したが、何も言わず、草むらに歩き出す。その魂の宿っていない円華ちゃんの目に、俺も玲音も動けなくなった。

走ってきた久遠さんが円華ちゃんの肩を掴む。久遠さんの手を折れんばかりに円華ちゃんが掴み、静かに言う。

「お父さんとお母さんは殺されたの?」

誰に質問しているかわからなかった。草むらに突っ込んだ相手はピクリとも動かず、意識があるのかどうかもわからない。

「違う」

久遠さんの顔から汗が滴り落ちている。円華ちゃんは何の前触れもなく、炎の魔法を草むらに履行した。慌てて俺が不履行にするが魔法の質量が大きすぎて防ぐことができない。魔法の強さは炎の色で明かだった。

「久遠さん!」

俺は耐えきれずに叫んだ。しかし動いたのは玲音だった。円華ちゃんの前に玲音飛び出して、一瞬玲音が炎に包まれたが、玲音は自分でそれを不履行にした。

「円華!」

そう叫んで玲音は円華ちゃんの前に膝から崩れ落ちた。

「玲音!?  玲音! なんでそんな無茶なことするのよ!」

円華ちゃんは我に返り取り乱して、玲音に駆け寄って抱きしめる。

「円華の方が無茶苦茶だよ」

玲音の笑った声を聞いて、俺も円華ちゃんも安堵した、その時に左から黒いものが視界に入り俺の首に太い腕が押しつけられた。そして首の右に針で刺されたようない痛みを感じる。

「茶番は終わりだ」

俺の後ろから声が聞こえる。

「魔法が使えたって、昔ながらの人質にはなんの対処もできないもんだ」

粘着質な声が背中から伝わり、俺は生理的な嫌悪感に包まれる。横をチラッと見たら、サバイバルナイフが俺の首に突きつけられていた。

「お前が潔白ならばなにもそんな姑息な手を使わねぇはずだ」

久遠さんが聞いたこともない低い声で唸る。円華ちゃんは怒りに満ちた顔で見つめ、玲音は円華ちゃんの腕の中でぐったりしてた。玲音に魔力を与えないと……そう思った時に、俺の耳のすぐ横で声が聞こえる。

「お待たせ、冬馬くん。君にしか聞こえてないからそのまま聞いて。3、2、1で後ろのやつ燃やして」

久遠さんたちはさっきの表情のまま俺の後ろの相手と睨み合ってる。多分みんなに気がつかれていない、大丈夫だ。

「3、2、1」

真下さんの合図に合わせて俺は渾身の炎を履行した。至近距離だし俺も背中焼けるのかな?と心配したが、バラ園のことを思い出して躊躇無く履行する。

「ぎゃあああああ!」

後ろから断末魔が聞こえて慌てて振り返るが、上から真下さんの声が聞こえてきた。

「お待たせ、演習再開だよ! 外の武装集団は片付けたし、そいつの魂だけラップした。みんながじりじり魔力削ってくれたおかげだよ」

「真下! 外は安全か?」

「安全だ」

「3人を出してお前が来い!」

円華ちゃんが玲音をそっと寝かせて久遠さんに駆け寄る。

「円華が外で2人を守りなさい」

「でも!」

「後で全部説明する。真下の仇なんだ」

円華ちゃんは驚いて上を見る。

「悪いな、円華。巻き込んでしまって。この借りは今度身体で返す」

「キスは16歳からだ!」

久遠さんがなんかイカれたことを言い出したが、それはそれとして、俺は玲音に駆け寄った。

「玲音? 俺から武具抜いて?」

法縄がないから、立てなくなってしまうほど魔力が枯渇した玲音に魔力を与える方法はこれしかなかった。
玲音は嫌だと首を振る。俺は他の人に聞こえないように玲音の耳元で言う。

「魔力あげたいけど、久遠さんに殺されるぞ、キスは16歳からだって。あっちで怒り散らしてるの聞いただろ」

玲音は学年は一緒だが早生まれで15歳だった。玲音は渋々俺の腹から武具を出す。久しぶりにして2回目の感覚だが、やっぱり内臓出るみたいな感覚だった。

玲音が立ち上がったのを見計らって、真下さんは俺たち3人を外に出してくれた。

幻術を出た先に、真下さんがいた。その後ろにさっきまで戦っていた相手がロープで巻かれて木に吊るされている。幻術の魂がどうのというのはなんとなくわかった。しかしどうしても突っ込まずにいられなかった。

「あの……真下さん……その縛り方って……」

「お、冬馬はわかるのか? 残念ながら私は女王様ではないんだが、最近凝り始めてな」

どう考えてもSMの縛り方だった。どんだけエロいんだよ真下さん……!

「残りの武装集団は下の小屋にまとめて格納している。魂は抜いて警察も呼んである。円華、車に戻って、2人を頼むよ。」

そう言いながら真下さんは倒れ込んだ。慌てて俺が真下さんを受け止める。

「冬馬さん、真下さんをそこに寝かせてください。幻術に入ったんです。術者は魂しか入れません」

円華ちゃんは冷静に言う。そっと真下さんを寝かせるが、地べたに寝かせるのを躊躇っていたら、円華ちゃんが自分の上着を脱いで地面に敷いてくれた。

「円華寒くない?」

そう言って玲音が円華ちゃんに抱きつく。

「玲音……さっきはごめんね……」

玲音は首を横に振って円華ちゃんを見つめる。

「でも円華怒った時すげー怖かった」

玲音がそう笑うと、円華ちゃんは恥ずかしがって、何個か単語を発するが全体的になにを言ってるのか分からなくなってしまった。
俺は狂犬2人の肩を抱いて、3人で車への道を戻った。
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