幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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1部 ヤギと奇跡の器

第15話 足るを知る

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ルイスは今日アシュレイが来ることを知っていたのか、3人分の食事を用意して待っていてくれた。3人でルイスの兄様たちの話で盛り上がり、本当にルイスに嫌われたのかと思ったと嘆いていたことを知った。

ルイスは午前にアシュレイと僕が話し込んでいたことに気を使ってか、早々に昼食を切り上げ、いつもは手伝うのに洗い物は自分だけでやるといってきかなかった。

「ほらほら、僕の仕事を奪わないで! ノア、これ」

そして、いつもの布に包んだパンをくれる。

「それはなんだ?」

「ノアのお友達の分だよ」

アシュレイが身を屈めて僕の腕の中の小さな包みを覗き込んだ。アシュレイの顔が近くて自分の心臓の音が聞こえやしないかと心配になる。

「パ、パンです」

「お友達とは?」

ルイスにも、ましてやアシュレイにも、腹を空かせた魔人にパンを与えているとは言えなかった。

「小鳥だよ、ノアが心配なのはわかるけど、そんなに束縛しないであげて」

びっくりするようなことを言い出すから、僕は顔が熱くなり俯いてしまう。

「こんなに細く小さいのに……ご自分で召し上がった方がよろしいのでは?」

いつもの固い口調で言うアシュレイにびっくりして顔をあげたら、その顔はアシュリーのように優しい顔だった。

「友達が来なかったら……夕食に僕が食べます」

「パンが固くなってしまいます。それなら今、召し上がればよろしい」

「鳥も、新しいパンの方が美味しいと思うのです……」

アシュレイが僕を見つめたまま黙ってしまった。だから僕はまた失敗したのだと思ったら、その顔がみるみる綻んでいった。

「お友達思いですな。さあ、先程の続きを教えてください」

アシュレイは僕の背を大きな手で包んで歩き出す。僕の心臓は前に飛び出したみたいに脈打つ。ルイスにパンのお礼をしようと振り返ったら、彼は満足げに笑うばかりで、僕のお礼など気に留めていなかった。それがなぜだかソワソワと焦燥感を煽るのだ。


部屋に上がるとアシュレイは僕の手をひいて、椅子までエスコートする。アシュレイの白い手袋が、蝶のように僕の周りを舞う。

その優雅で紳士な振る舞いが、アシュレイを貴族たらしめるものだと感じずにはいられない。やっぱりアシュリーではないのだろうかと残念がりながらも、アシュレイの美しい所作に胸を高鳴らせる自分もいた。


「さあ、さっきの続きだが、軍事以外の侵攻について詳しく教えてくれないか? これは元武官が嫌疑をかけて聞いているのではない。俺が興味深い考察だと思っているのだ」

「は、は、はい……」

「まだ俺の口調は怖いか? 教えてほしいのだ」

アシュレイが優しい声を出すから、僕は胸がいっぱいになって、口からポロポロと言葉が溢れ出した。
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