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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第4話 王の密会(アシュレイ視点)
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朝、父が死亡していることを確認してから、使用人たちは粛々と別れの準備に取り掛かった。ブラウアー兄弟も代わる代わる手伝いに来てくれたおかげで、葬儀の手配までつつがなく終えることができた。
俺も、そして使用人も、以前脈が弱くなって大騒ぎした時とは違う穏やかさでこの日を迎えることができた。それは王が与えてくれた奇跡の猶予で、この屋敷全員が、死に別れる覚悟と準備を整えることができたことに他ならない。
葬儀は明日執り行われる。だから夜中のこの時間が父との最後の別れだった。人払いをして父に寄り添う。父は母が病死した時にすぐに後を追いたかったに違いない。俺のために今日この日まで生きてくれたのだ。父の手を握り呟く。
「ちゃんと母さんにもノアのことを報告してください」
母は偉大だった。母が父に託した願いは、とどのつまり自分らしく生きろ、ということだった。その願いが俺を救い、そして父との最後の日をこんな気持ちで迎えることができたのだ。父もきっと幸せだったに違いない。そうした実感を得られるというのはなんと幸福なことか。
その時、扉の方から物音がする。
「なんだ」
オットーかと思い、最後くらい小言を控えてくれと言いかけ振り向いた時。信じられない光景に目を見開いた。国王が立っていたのだ。
「親子の別れに水をさしてすまない。5分でいいから2人の時間をくれないか」
「も、もちろんです。陛下」
「迷惑ついでに、完全なる非公式だ。すまんが扉の前で護衛を頼めるか」
その言葉に度肝を抜かれ、すぐさま返事ができなかった。以前屋敷を訪れた時には、屋敷の外を護衛が囲んでいた。
答える前に王は俺の横を通過して、父の遺体に突っ伏した。浮世離れした佇まいから一転、あまりに生々しい悲しみように、俺は目を逸らして急いで部屋を出る。
扉の前で窓の外の星を眺めながら、王の別れの時間を守る。思えば最後まで父の仕事について理解することができなかった。国王との関係についてもそうだ。旧友というが、父と陛下は10ほど年齢が違う。学友というには歳が離れすぎていて、一体いつの時代の、どういった友人なのか皆目わからなかった。オットーは口を割らないし、陛下に聞くことも憚られる。
その時、扉の内側から名前を呼ばれた。
扉をそっと開け、コソコソと部屋に入ると、陛下はいつもらしく凛と立っていた。
「アシュレイ。お前はちゃんと別れを受け入れられたか」
「はい、陛下のお陰です。陛下に頂いた猶予で、存分に父に孝行することができました。父も幸せだったという実感がございます。お見舞いに来ていただきありがとうございました。葬儀は明日ですが……」
「すまん、葬儀には出れない。色々と面倒ごとがあってな。見舞いの時にも半ば強行で来たんだ。今日のことは他言無用だ」
色々と含みのある言葉の数々に、つい質問がこぼれ出しそうだったが、1番の疑問をぶつけた。
「陛下は、父との別れができましたか?」
非公式という事情からか、5分などという短い時間は、俺に遠慮をしているように感じた。しかし、陛下はこれに答えず2人の間に沈黙だけが横たわった。
「お前は立派な息子だ。ヴェルナーは幸せ者だった」
「陛下……」
俺の呼びかけに陛下の手が伸びてきた。
「今はなにも聞かないでくれ」
俺の肩をそっと掴みながら、陛下が扉を開ける。そのまま部屋を出て扉が閉まった時に、一体ここからどうやって帰るのかと驚き、急いで扉を開けた。陛下はもう廊下にいなかった。さっき眺めていた窓が開け放たれており、夜風が虚しく通り抜けていった。
俺も、そして使用人も、以前脈が弱くなって大騒ぎした時とは違う穏やかさでこの日を迎えることができた。それは王が与えてくれた奇跡の猶予で、この屋敷全員が、死に別れる覚悟と準備を整えることができたことに他ならない。
葬儀は明日執り行われる。だから夜中のこの時間が父との最後の別れだった。人払いをして父に寄り添う。父は母が病死した時にすぐに後を追いたかったに違いない。俺のために今日この日まで生きてくれたのだ。父の手を握り呟く。
「ちゃんと母さんにもノアのことを報告してください」
母は偉大だった。母が父に託した願いは、とどのつまり自分らしく生きろ、ということだった。その願いが俺を救い、そして父との最後の日をこんな気持ちで迎えることができたのだ。父もきっと幸せだったに違いない。そうした実感を得られるというのはなんと幸福なことか。
その時、扉の方から物音がする。
「なんだ」
オットーかと思い、最後くらい小言を控えてくれと言いかけ振り向いた時。信じられない光景に目を見開いた。国王が立っていたのだ。
「親子の別れに水をさしてすまない。5分でいいから2人の時間をくれないか」
「も、もちろんです。陛下」
「迷惑ついでに、完全なる非公式だ。すまんが扉の前で護衛を頼めるか」
その言葉に度肝を抜かれ、すぐさま返事ができなかった。以前屋敷を訪れた時には、屋敷の外を護衛が囲んでいた。
答える前に王は俺の横を通過して、父の遺体に突っ伏した。浮世離れした佇まいから一転、あまりに生々しい悲しみように、俺は目を逸らして急いで部屋を出る。
扉の前で窓の外の星を眺めながら、王の別れの時間を守る。思えば最後まで父の仕事について理解することができなかった。国王との関係についてもそうだ。旧友というが、父と陛下は10ほど年齢が違う。学友というには歳が離れすぎていて、一体いつの時代の、どういった友人なのか皆目わからなかった。オットーは口を割らないし、陛下に聞くことも憚られる。
その時、扉の内側から名前を呼ばれた。
扉をそっと開け、コソコソと部屋に入ると、陛下はいつもらしく凛と立っていた。
「アシュレイ。お前はちゃんと別れを受け入れられたか」
「はい、陛下のお陰です。陛下に頂いた猶予で、存分に父に孝行することができました。父も幸せだったという実感がございます。お見舞いに来ていただきありがとうございました。葬儀は明日ですが……」
「すまん、葬儀には出れない。色々と面倒ごとがあってな。見舞いの時にも半ば強行で来たんだ。今日のことは他言無用だ」
色々と含みのある言葉の数々に、つい質問がこぼれ出しそうだったが、1番の疑問をぶつけた。
「陛下は、父との別れができましたか?」
非公式という事情からか、5分などという短い時間は、俺に遠慮をしているように感じた。しかし、陛下はこれに答えず2人の間に沈黙だけが横たわった。
「お前は立派な息子だ。ヴェルナーは幸せ者だった」
「陛下……」
俺の呼びかけに陛下の手が伸びてきた。
「今はなにも聞かないでくれ」
俺の肩をそっと掴みながら、陛下が扉を開ける。そのまま部屋を出て扉が閉まった時に、一体ここからどうやって帰るのかと驚き、急いで扉を開けた。陛下はもう廊下にいなかった。さっき眺めていた窓が開け放たれており、夜風が虚しく通り抜けていった。
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