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第4話 悪夢からの目覚め
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自分が叫んだのかどうかわからなかった。激しい動悸の中で突然目覚め、自分が誰なのか、今日はいつなのか、ここはどこなのかわからなかった。人影が動く気配で右を見ると髪の長い女性が寝ている。
「うわああああ!」
飛び起きてベッドを出ようとした瞬間、人影が僕の腕を引き寄せた。そのままベッドに倒れ込み、僕は抱き寄せられる。
「ノブ、大丈夫だ」
その声でようやく現実に戻される。真下さんは僕の胸に顔を突っ込み、また魔法を使った。
「あ……ああっ……」
僕は恥ずかしげもなく声も涙も漏らしてしまう。
「ノブはいい声で鳴くなぁ……大好きだ……」
真下さんは眠そうな声で呟く。
「今日は女装趣味の変態と一緒に寝たから、混乱したんだ……」
違う。僕はあの日だと思った。あの日、警察に連行された日、僕が罪を犯して彼女を傷つけた日。
僕はこんな温かいベッドで寝る資格もない人間なのに、飢えや寒さに耐えきれず、人の好意に甘え幸福を感じてしまった。彼女はまだ悲しみの中で苦しんでいるのに。そんな罪の意識で眠りから呼び起こされたのだ。
「違うよ、おいで」
真下さんは僕の腕の中で丸まった。恐る恐る真下さんの肩を撫でる。彼女は僕に近づいてしばらくしたら動かなくなった。肩が規則正しく上下したのを見て、眠ったんだ、と思う。また1人になった、そう思ったら、涙が止まらなくなって、真下さんを起こさないように息を殺して泣いた。
「覚えてない……どうすれば……」
覚えていないのだ。初めて好きになった人を傷つけた夜を。どうすれば償えるのかわからなかった。身に覚えがないことを償う方法がわからなかった。どんなに飢えても、どんなに凍えても、それがわからないから耐えることしかできなかった。
突然真下さんが手を伸ばして僕の背中を撫でた。
「まだ欲しいか?」
そう言って真下さんは僕の胸に顔を埋めて魔法を使う。そうしたい衝動を抑えきれずに僕は真下さんの頭を抱え、抱きしめる。人を抱きしめたのは人生で初めてだった。人はこんなにも温かいのかと、流している涙にさえ温度を感じる。そうしたら急に温いまどろみに意識が沈み込んで、こんな幸福を感じてはいけないともがきながら、僕は眠りに落ちた。
次の日、起きたら隣に真下さんはおらず、昨日着ていた着物のような薄手のガウンが抜け殻みたいに置かれていた。昨日、一緒に寝ることに抵抗を感じ、床で寝ると言ったら真下さんは証明のためにガウンを脱ごうとした。慌てて止めた時に触れたそれの肌触りがよく、その時にこれがシルクなのだと知った。
時計を見たら6時。始業時間もわからなかったので僕はベッドから出て彼女を探した。
どこにいるかはすぐにわかった。真下さんの部屋のドアが開いていたからだ。開いているのであれば問題ないだろうとドアの前まで歩く。部屋を覗くと真下さんはすでに化粧やヘアセットを終えて鏡台の前に座っていた。挨拶をしようと口を開いたが言葉が出てこなかった。正確にいうと話しかけられなかった。
真下さんは女性ではない。しかしその容姿の雰囲気からかけ離れた質素な部屋。そこに置かれた唯一女性を感じる鏡台の前で、何をするわけでもなく、ただじっと自分を見つめるその姿に、僕は恐怖に似た感情を抱く。ただならぬ雰囲気に圧倒され、咄嗟にやめさせなければならないと感じ、声をかける。
「真下さん、おはようございます」
真下さんは鏡台の鏡越しに、安心したように笑う。
「ノブは早いな」
伏し目で前に屈み、立ち上がった真下さんは美しい顔で僕に向き直る。
「朝ごはんはなんだ?」
さっきの雰囲気が嘘のような素っ頓狂な声とセリフに僕も安心して息を吐き出す。
「今日からよろしくお願いいたします。食事の時間は決めた方がいいですか?」
「そうだな、魔女は時間を守る。7時、12時、19時でどうだ?」
「承知しました」
「今日は午前中来客があるから一緒に買い出しに行けない。一応客商売なので、スーツは買ってきてくれ。12時に昼飯。魔女は時間に厳しい」
多分食事が楽しみで仕方がないのだろう、12時までには昼飯を用意しろと念を押す言い方がかわいらしかった。そう僕は勘違いした。
「うわああああ!」
飛び起きてベッドを出ようとした瞬間、人影が僕の腕を引き寄せた。そのままベッドに倒れ込み、僕は抱き寄せられる。
「ノブ、大丈夫だ」
その声でようやく現実に戻される。真下さんは僕の胸に顔を突っ込み、また魔法を使った。
「あ……ああっ……」
僕は恥ずかしげもなく声も涙も漏らしてしまう。
「ノブはいい声で鳴くなぁ……大好きだ……」
真下さんは眠そうな声で呟く。
「今日は女装趣味の変態と一緒に寝たから、混乱したんだ……」
違う。僕はあの日だと思った。あの日、警察に連行された日、僕が罪を犯して彼女を傷つけた日。
僕はこんな温かいベッドで寝る資格もない人間なのに、飢えや寒さに耐えきれず、人の好意に甘え幸福を感じてしまった。彼女はまだ悲しみの中で苦しんでいるのに。そんな罪の意識で眠りから呼び起こされたのだ。
「違うよ、おいで」
真下さんは僕の腕の中で丸まった。恐る恐る真下さんの肩を撫でる。彼女は僕に近づいてしばらくしたら動かなくなった。肩が規則正しく上下したのを見て、眠ったんだ、と思う。また1人になった、そう思ったら、涙が止まらなくなって、真下さんを起こさないように息を殺して泣いた。
「覚えてない……どうすれば……」
覚えていないのだ。初めて好きになった人を傷つけた夜を。どうすれば償えるのかわからなかった。身に覚えがないことを償う方法がわからなかった。どんなに飢えても、どんなに凍えても、それがわからないから耐えることしかできなかった。
突然真下さんが手を伸ばして僕の背中を撫でた。
「まだ欲しいか?」
そう言って真下さんは僕の胸に顔を埋めて魔法を使う。そうしたい衝動を抑えきれずに僕は真下さんの頭を抱え、抱きしめる。人を抱きしめたのは人生で初めてだった。人はこんなにも温かいのかと、流している涙にさえ温度を感じる。そうしたら急に温いまどろみに意識が沈み込んで、こんな幸福を感じてはいけないともがきながら、僕は眠りに落ちた。
次の日、起きたら隣に真下さんはおらず、昨日着ていた着物のような薄手のガウンが抜け殻みたいに置かれていた。昨日、一緒に寝ることに抵抗を感じ、床で寝ると言ったら真下さんは証明のためにガウンを脱ごうとした。慌てて止めた時に触れたそれの肌触りがよく、その時にこれがシルクなのだと知った。
時計を見たら6時。始業時間もわからなかったので僕はベッドから出て彼女を探した。
どこにいるかはすぐにわかった。真下さんの部屋のドアが開いていたからだ。開いているのであれば問題ないだろうとドアの前まで歩く。部屋を覗くと真下さんはすでに化粧やヘアセットを終えて鏡台の前に座っていた。挨拶をしようと口を開いたが言葉が出てこなかった。正確にいうと話しかけられなかった。
真下さんは女性ではない。しかしその容姿の雰囲気からかけ離れた質素な部屋。そこに置かれた唯一女性を感じる鏡台の前で、何をするわけでもなく、ただじっと自分を見つめるその姿に、僕は恐怖に似た感情を抱く。ただならぬ雰囲気に圧倒され、咄嗟にやめさせなければならないと感じ、声をかける。
「真下さん、おはようございます」
真下さんは鏡台の鏡越しに、安心したように笑う。
「ノブは早いな」
伏し目で前に屈み、立ち上がった真下さんは美しい顔で僕に向き直る。
「朝ごはんはなんだ?」
さっきの雰囲気が嘘のような素っ頓狂な声とセリフに僕も安心して息を吐き出す。
「今日からよろしくお願いいたします。食事の時間は決めた方がいいですか?」
「そうだな、魔女は時間を守る。7時、12時、19時でどうだ?」
「承知しました」
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