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第15話 朝寝坊
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魔女は時間に厳しい。だから目覚めた時に真下さんが目の前で寝ていたことに驚き、体を仰け反らせてしまう。その振動で真下さんが目覚めてしまった。
「寝坊してしまった……」
恥ずかしそうに目を逸らす魔女がかわいくて思わずキスをする。朝日に照らされたスッピンはとてもあどけなく、化粧をしている時よりも若い印象だった。
「おはようのチューだ……嬉しい……」
下唇を少し噛んで照れ笑いする魔女の魅力に抗うこともできずに、もう一度キスしてしまう。体を震わせて嬉しいと表現する真下さんが愛おしくてしばらく離れられなかった。
「ノブ……ノブはこの会社の収支管理もしていて……そこそこ利益があることも知っているだろう?」
さっきまでの甘い雰囲気には似つかわしくない話題で、魔女の心が全く読めない。
「昨日は賠償金とか言ったけど……別に……お金が欲しいとか……そういうことではないのもわかるだろ……?」
話題の筋が見えないので、とりあえずはい、と返事をする。
「その……ノブがどうしても嫌だっていうならいいんだが……」
何を言い出すのか全く予想ができず、ついつい真下さんの腰に手を回してしまう。
「他に就職するのはやめにしないか……?」
魔女のかわいいお願いに頭の奥が痺れる。
「真下さん……」
そんなお願い今すぐにでも喜んで、と返事をしたかったが、僕は昨日真下さんに声をかける前に決めていたことがあった。
「僕は、昨日決めたんです。真下さんを養えるようになるまでは……」
「養えるようになったからなんだ。私に家事でもさせたいのか?」
魔女は納得がいかないのか起き上がり僕に詰め寄る。仕方なく僕も起き上がり、真下さんに向き合う。これ以上目玉焼きの犠牲を望んでいるわけではない。他の男を抱かないでほしい、その願いは自分本意と感じ、せめて経済的に自立してからお願いしようと思っていた。
「なんで黙ってるんだ」
心を悟られないように目を逸らしたが、それがかえって魔女の勘を鋭くさせた。
「男を抱いて金銭を受け取ってはいない」
そんな風に考えていたわけではない。
「それなら尚更、僕の立ち入る話じゃないです」
真下さんが望んでやっていることなら、僕がそれをやめさせる権利などない。
「もう男は抱かない、ノブが辞めてももう誰も雇わない」
その言葉で初日に剥がした蛍光ピンクの張り紙が頭をよぎる。張り紙で好みの男が釣れると言っていた。
「あの男たちは誰なんですか?」
そう聞きながら僕はもう答えがなんとなくわかっていた。焦燥感から矢継ぎ早に捲し立てる。
「情報をもらっていたんですか?」
「違う……」
「そんなこと魔女じゃなくたってわかる!」
僕は魔女を侮っていた。魔女が傾ける愛の大きさを侮っていたんだ。真下さんは僕の事件に関する情報を買っていた。あの日、久遠さんは警察への苛立ちを真下さんにぶつけていた。
魔女を抱き寄せる。気がどうにかなりそうだった。
「ノブ……もう誰も抱かない……」
その懇願するような声に耐えきれず、魔女の頭を掴んで乱暴に自分の胸に埋めた。真下さんは魔法を使って僕の心を癒していく。
「真下さん……もうあんなことしないで……」
魔女は僕の胸で何度も頷く。体を離し、腕を掴んだら、魔女が呟いた。
「ノブと働きたい……」
魔女は少年のような体を晒し、あどけない顔で見つめている。ベッドに端にかろうじてしがみついていたガウンを掴んで、彼女に羽織らせた。そして前を閉めて抱き寄せる。
「僕の魔女だ」
僕だけの魔女だ。そう思いながら見つめた窓の先で、鳥が何羽か飛び立った。
あの日のスズメかどうかはわからない。
<END>
「寝坊してしまった……」
恥ずかしそうに目を逸らす魔女がかわいくて思わずキスをする。朝日に照らされたスッピンはとてもあどけなく、化粧をしている時よりも若い印象だった。
「おはようのチューだ……嬉しい……」
下唇を少し噛んで照れ笑いする魔女の魅力に抗うこともできずに、もう一度キスしてしまう。体を震わせて嬉しいと表現する真下さんが愛おしくてしばらく離れられなかった。
「ノブ……ノブはこの会社の収支管理もしていて……そこそこ利益があることも知っているだろう?」
さっきまでの甘い雰囲気には似つかわしくない話題で、魔女の心が全く読めない。
「昨日は賠償金とか言ったけど……別に……お金が欲しいとか……そういうことではないのもわかるだろ……?」
話題の筋が見えないので、とりあえずはい、と返事をする。
「その……ノブがどうしても嫌だっていうならいいんだが……」
何を言い出すのか全く予想ができず、ついつい真下さんの腰に手を回してしまう。
「他に就職するのはやめにしないか……?」
魔女のかわいいお願いに頭の奥が痺れる。
「真下さん……」
そんなお願い今すぐにでも喜んで、と返事をしたかったが、僕は昨日真下さんに声をかける前に決めていたことがあった。
「僕は、昨日決めたんです。真下さんを養えるようになるまでは……」
「養えるようになったからなんだ。私に家事でもさせたいのか?」
魔女は納得がいかないのか起き上がり僕に詰め寄る。仕方なく僕も起き上がり、真下さんに向き合う。これ以上目玉焼きの犠牲を望んでいるわけではない。他の男を抱かないでほしい、その願いは自分本意と感じ、せめて経済的に自立してからお願いしようと思っていた。
「なんで黙ってるんだ」
心を悟られないように目を逸らしたが、それがかえって魔女の勘を鋭くさせた。
「男を抱いて金銭を受け取ってはいない」
そんな風に考えていたわけではない。
「それなら尚更、僕の立ち入る話じゃないです」
真下さんが望んでやっていることなら、僕がそれをやめさせる権利などない。
「もう男は抱かない、ノブが辞めてももう誰も雇わない」
その言葉で初日に剥がした蛍光ピンクの張り紙が頭をよぎる。張り紙で好みの男が釣れると言っていた。
「あの男たちは誰なんですか?」
そう聞きながら僕はもう答えがなんとなくわかっていた。焦燥感から矢継ぎ早に捲し立てる。
「情報をもらっていたんですか?」
「違う……」
「そんなこと魔女じゃなくたってわかる!」
僕は魔女を侮っていた。魔女が傾ける愛の大きさを侮っていたんだ。真下さんは僕の事件に関する情報を買っていた。あの日、久遠さんは警察への苛立ちを真下さんにぶつけていた。
魔女を抱き寄せる。気がどうにかなりそうだった。
「ノブ……もう誰も抱かない……」
その懇願するような声に耐えきれず、魔女の頭を掴んで乱暴に自分の胸に埋めた。真下さんは魔法を使って僕の心を癒していく。
「真下さん……もうあんなことしないで……」
魔女は僕の胸で何度も頷く。体を離し、腕を掴んだら、魔女が呟いた。
「ノブと働きたい……」
魔女は少年のような体を晒し、あどけない顔で見つめている。ベッドに端にかろうじてしがみついていたガウンを掴んで、彼女に羽織らせた。そして前を閉めて抱き寄せる。
「僕の魔女だ」
僕だけの魔女だ。そう思いながら見つめた窓の先で、鳥が何羽か飛び立った。
あの日のスズメかどうかはわからない。
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