1 / 3
一話
しおりを挟む
机の上で携帯が小刻みに甲高い音を鳴らしている。無造作に放り出された携帯の画面は音が鳴る度に明るくなり、空白を埋めるように文字が並ぶ。
「はぁ……」
俺はソファの上に寝転がったまま、ちらりとそちらを一瞥する。そして、枕にしていた腕を伸ばして絶え間なくなり続けているそれを手に取った。
重さなんて大してないはずなのに、携帯を持つ手は重かった。短く溜息をつき、指をスライドさせる。切り替わった画面には俺と関わりのある人から、いくつかメッセージが届いていた。
俺は上から順に返信をしていくことにして、トーク画面に並んでいるアイコンをそっと押す。彼女からは5分おきにメッセージが送られていた。
『急に別れたいなんて言われても納得出来ないよ』
『ねえ、もう一度会いたい』
『どうして返事してくれないの?』
『私の事が嫌いになった?』
『ちゃんと話したいよ。お願い』
デートの帰りに別れを伝えた数日前からずっとこんな調子で連絡が来ている。返事を返すのも面倒だと思ってしまう俺はもう、彼女に対して冷め切ってしまっているのだろう。いや、もしかすると初めから情なんて持っていなかったのだろうか。
『ごめん』
『君とはもう会いたくないんだ』
『身勝手で、本当にごめん』
メッセージを送って、また、違う人に連絡を取った。今話していた相手とは違って大人で落ち着いた女性だ。彼女はバイト先で知り合った。
『ねえ海斗くん、また今度二人きりで一緒にでかけましょう?』
『はい。是非』
昨日の夜に届いていたらしいメッセージに肯定的な文を返す。送った直後、既読マークが着いたかと思うとさらに続けてメッセージが送られてきた。
『嬉しいわ。それじゃ楽しみにしてる』
俺はその文を見て、また指を滑らせる。そして、画面を切り替え、先程連絡をしてきた友人へ返事を返す。
『おーい、今日遊ばねー?』
『いいよ』
『おし、それならいつもの所に集合な』
『了解』
気晴らしに友人と出掛けることに決めた。今は何でもいいから気を逸らしてくれるものが欲しかった。
友人との待ち合わせ場所に行くと、彼はもう来ていた。俺を見つけ、手を振ってくる彼に片手を上げ返す。
「遅いじゃねぇか、海斗ー」
「悪いな。さっきまで寝てたんだ」
「いいなー、俺なんて昨日二時間しか寝てないんだぜ?」
愚痴を零している彼の話を、適当な相槌を打ちながら聞く。彼は話すのが好きで、俺は聞いているだけでいいから楽なもんだ。
「そういやさー、そのリストバンドいつも付けてるけどなんか意味あんの?」
「え、いや……別に。特にないよ」
「ふーん、そっかー」
リストバンド……これは一年前に付き合っていた彼女、芹香〈せりか〉に貰ったものだ。もう彼女とは会わないのに付けている。その事に今まで疑問を感じなかった。意味なんてなくてなんとなく外せなかったから……ただそれだけだ。
――どうして俺はまだ、こんなものをつけているのだろう。
その日はぼんやりとしたまま過ごし、友人との会話や行動を全く覚えていなかった。
「はぁ……」
俺はソファの上に寝転がったまま、ちらりとそちらを一瞥する。そして、枕にしていた腕を伸ばして絶え間なくなり続けているそれを手に取った。
重さなんて大してないはずなのに、携帯を持つ手は重かった。短く溜息をつき、指をスライドさせる。切り替わった画面には俺と関わりのある人から、いくつかメッセージが届いていた。
俺は上から順に返信をしていくことにして、トーク画面に並んでいるアイコンをそっと押す。彼女からは5分おきにメッセージが送られていた。
『急に別れたいなんて言われても納得出来ないよ』
『ねえ、もう一度会いたい』
『どうして返事してくれないの?』
『私の事が嫌いになった?』
『ちゃんと話したいよ。お願い』
デートの帰りに別れを伝えた数日前からずっとこんな調子で連絡が来ている。返事を返すのも面倒だと思ってしまう俺はもう、彼女に対して冷め切ってしまっているのだろう。いや、もしかすると初めから情なんて持っていなかったのだろうか。
『ごめん』
『君とはもう会いたくないんだ』
『身勝手で、本当にごめん』
メッセージを送って、また、違う人に連絡を取った。今話していた相手とは違って大人で落ち着いた女性だ。彼女はバイト先で知り合った。
『ねえ海斗くん、また今度二人きりで一緒にでかけましょう?』
『はい。是非』
昨日の夜に届いていたらしいメッセージに肯定的な文を返す。送った直後、既読マークが着いたかと思うとさらに続けてメッセージが送られてきた。
『嬉しいわ。それじゃ楽しみにしてる』
俺はその文を見て、また指を滑らせる。そして、画面を切り替え、先程連絡をしてきた友人へ返事を返す。
『おーい、今日遊ばねー?』
『いいよ』
『おし、それならいつもの所に集合な』
『了解』
気晴らしに友人と出掛けることに決めた。今は何でもいいから気を逸らしてくれるものが欲しかった。
友人との待ち合わせ場所に行くと、彼はもう来ていた。俺を見つけ、手を振ってくる彼に片手を上げ返す。
「遅いじゃねぇか、海斗ー」
「悪いな。さっきまで寝てたんだ」
「いいなー、俺なんて昨日二時間しか寝てないんだぜ?」
愚痴を零している彼の話を、適当な相槌を打ちながら聞く。彼は話すのが好きで、俺は聞いているだけでいいから楽なもんだ。
「そういやさー、そのリストバンドいつも付けてるけどなんか意味あんの?」
「え、いや……別に。特にないよ」
「ふーん、そっかー」
リストバンド……これは一年前に付き合っていた彼女、芹香〈せりか〉に貰ったものだ。もう彼女とは会わないのに付けている。その事に今まで疑問を感じなかった。意味なんてなくてなんとなく外せなかったから……ただそれだけだ。
――どうして俺はまだ、こんなものをつけているのだろう。
その日はぼんやりとしたまま過ごし、友人との会話や行動を全く覚えていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
真実の愛の祝福
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。
だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。
それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。
カクヨム、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる