【完】リストバンド

翠月 歩夢

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一話

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 机の上で携帯が小刻みに甲高い音を鳴らしている。無造作に放り出された携帯の画面は音が鳴る度に明るくなり、空白を埋めるように文字が並ぶ。


「はぁ……」


 俺はソファの上に寝転がったまま、ちらりとそちらを一瞥する。そして、枕にしていた腕を伸ばして絶え間なくなり続けているそれを手に取った。

 重さなんて大してないはずなのに、携帯を持つ手は重かった。短く溜息をつき、指をスライドさせる。切り替わった画面には俺と関わりのある人から、いくつかメッセージが届いていた。

 俺は上から順に返信をしていくことにして、トーク画面に並んでいるアイコンをそっと押す。彼女からは5分おきにメッセージが送られていた。


『急に別れたいなんて言われても納得出来ないよ』
『ねえ、もう一度会いたい』
『どうして返事してくれないの?』
『私の事が嫌いになった?』
『ちゃんと話したいよ。お願い』


 デートの帰りに別れを伝えた数日前からずっとこんな調子で連絡が来ている。返事を返すのも面倒だと思ってしまう俺はもう、彼女に対して冷め切ってしまっているのだろう。いや、もしかすると初めから情なんて持っていなかったのだろうか。


『ごめん』
『君とはもう会いたくないんだ』
『身勝手で、本当にごめん』


 メッセージを送って、また、違う人に連絡を取った。今話していた相手とは違って大人で落ち着いた女性だ。彼女はバイト先で知り合った。


『ねえ海斗くん、また今度二人きりで一緒にでかけましょう?』
『はい。是非』


 昨日の夜に届いていたらしいメッセージに肯定的な文を返す。送った直後、既読マークが着いたかと思うとさらに続けてメッセージが送られてきた。


『嬉しいわ。それじゃ楽しみにしてる』


 俺はその文を見て、また指を滑らせる。そして、画面を切り替え、先程連絡をしてきた友人へ返事を返す。


『おーい、今日遊ばねー?』
『いいよ』
『おし、それならいつもの所に集合な』
『了解』


 気晴らしに友人と出掛けることに決めた。今は何でもいいから気を逸らしてくれるものが欲しかった。

 友人との待ち合わせ場所に行くと、彼はもう来ていた。俺を見つけ、手を振ってくる彼に片手を上げ返す。


「遅いじゃねぇか、海斗ー」
「悪いな。さっきまで寝てたんだ」
「いいなー、俺なんて昨日二時間しか寝てないんだぜ?」


 愚痴を零している彼の話を、適当な相槌を打ちながら聞く。彼は話すのが好きで、俺は聞いているだけでいいから楽なもんだ。


「そういやさー、そのリストバンドいつも付けてるけどなんか意味あんの?」
「え、いや……別に。特にないよ」
「ふーん、そっかー」


 リストバンド……これは一年前に付き合っていた彼女、芹香〈せりか〉に貰ったものだ。もう彼女とは会わないのに付けている。その事に今まで疑問を感じなかった。意味なんてなくてなんとなく外せなかったから……ただそれだけだ。

 ――どうして俺はまだ、こんなものをつけているのだろう。

 その日はぼんやりとしたまま過ごし、友人との会話や行動を全く覚えていなかった。
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