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笑顔になって、ほしいから
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しおりを挟む「俺は……十のときに母親と死に別れた。父親は俺が生まれる前に殺されてしまったから、顔も知らない」
ユイセルが息を呑む気配がした。
視線を向けると、ユイセルは黙ってこちらを見ていた。
瞳に憐憫と悲哀が滲んでいる。
それでも付け焼き刃の慰めは口にしない。
優しい男だ、とミナリアは思った。
「父親を殺したのは真族で、母親を殺したのは人族だ。……そして俺は、牢に閉じ込められた」
「まさか……」
「俺は混血だ、真族と人族の」
遙か昔から争い続けた両種族の、タブー。
人族の父と真族の母がどのように出会い、どのように愛を育んだのかなど、忘れ去られた過去の悲劇にすぎない。
結果として、どちらでもない俺は誕生し、どちらでもある力は脅威となった。
「俺の父は、尊い血筋でな……その一族には妙齢の男児がいなかった。俺は万が一のために子を成すだけのスペアとして生かされ、そして切り捨てられた」
ズキン、と失った足が痛み、思わず顔を歪める。
ユイセルははっとして、義足のある方の布団を捲った。
「……痛む?」
「少し、な……」
ユイセルの手が脛から太腿へと滑る。
継ぎ目を見つけたユイセルは、そっと手の温度を伝えた。
心地よい魔素が流れてくる。
瑜術師ではないユイセルに治療は出来ないが、乱れた魔素の流れを整えようとする優しさが身に染みた。
「その後、俺は……真国へ流れて、真国に身を捧げることに決めた。そして今この地で……人族と真族の友好のために……数奇だな……」
自らの足に添えられたユイセルの手に、そっと手のひらを重ねる。
ユイセルがもう片方の手でミナリアの手を覆った。
「……リアは、人族を、恨んでいる?」
「……兄のように、慕ってくれた子どもに……足を切らせた。自分が生きて逃げることが、その子の願いだったというのに……酷なことをさせた」
ユイセルの問いには答えずに、懺悔のように後悔を口にする。
足は失ったが、そのおかげでミナリアは生き長らえ、数年後にムザルとの再会は叶った。
再会して一番に、大人になったムザルは言ったのだ。
あの時自分に力があれば、兄さんの足を切らずに済んだのに、と。
ミナリアは腕の中で泣き崩れるムザルもまた、守らなければならない命だということを理解した。
人族を恨むということは、優しく誠実なムザルを悲しませることである。
いくら自分が傷付けられても、ミナリアはそれを望むことは出来なかった。
「真族とて、人族とて、生まれる腹は選べぬだろう。同じように、誰かを思う気持ちも止められぬのなら……恨む気持ちなど、抱くだけ無駄だ」
「リアは……強いな」
「強ければこのように熱に魘されることもないだろう」
ミナリアはふっとその顔に笑みを浮かべた。
ユイセルも瞳で微笑んで、穏やかな空気が流れる。
「俺……」
うとうとと微睡に意識を委ねようとした刹那、ユイセルが小さくその唇を開いた。
ユイセルは重なった二人分の手を見つめている。
ミナリアはユイセルの何か言いたげな雰囲気を察して、促すように手のひらに力を込めた。
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