神々のストーリーテラー

恐惶の政治

恐惶の政治

　その国で一番恐れられていたのは、災害という悪夢だった。

　数十年に一度やってくるそれは、いつも人々の日常を奪う。
　壊された日常は、元に戻ることはなく、人々はまた仮初の日常を形作っていった。

　幾重にも重ねられた仮初の日常は、いつしか本物を覆い隠し、ゆっくりと人々から笑顔を消していく。

　そして、何度目かも忘れられた悪意が再び牙を剥く時。
　一人の男が、立ち上がった。

　男は生まれながらの体躯を活かし、その日、人々を悪夢から救った。

　人々は口々に男を讃え、崇め、そして男をこの国の王と定めた。

　王となった男は、民のために尽くすために政治を始めた。

　災害で荒れた畑があれば、税を軽くし。
　災害で壊れた家があれば、国庫を費やし修復した。

　波が襲えば、波を払い。
　山が震えれば、地を鎮めた。

　そして、ある日、民の一人がこう言った。

「恐怖を退ける王とは、恐怖にとっての恐怖であったか」

　民は、その事実に、恐怖した。

　賞賛の声は、怯えとなり。
　崇拝の祝詞は、悲鳴に変わった。

　王は、その全てを受け止め、堂々と立ち続けた。

　災害を弑する王には、理解ができなかった。
　民が、災害を恐れるその理由が。

　そして王は、民に宣言した。

「私に恐怖を与えてみせよ」

　民は、その言葉の意味を思案し、そして。


　物語は、継承される。