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恐惶の政治
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しおりを挟む「……行っちゃい、ましたね」
呆然としたイスミの言葉に、キジトは深いため息をついて項垂れた。
なんでこんなことになったんだ。
キジトはざわつく胸の内を押し込めて、しばし前のことを回想した。
キジトが、この箱庭を根城としたのは、組織に入隊して比較的日の浅い頃である。
そもそもキジトはこの組織に属する前は、なんの変哲もない中学生だった。
もとより目付きが悪く態度も悪いキジトは、中学では不良生徒扱いで、同じような連中とばかり連む、問題児だった。
もともとの口の悪さは否めないが、キジトは非行に走ったことはない。
寧ろ心根は優しい少年だった。
しかし。
キジトが手伝いを申し出れば恐れられ、財布を拾えばカツアゲしたと誤解されるような毎日。
常に周囲に怖がられていたキジトは、中学生にして既に半ば対人関係を諦めていた。
このまま中学を卒業して、高校に入っても続くだろう己の行く末を、キジトはなんの感慨もなく思い描いていた。
そんなある日、キジトはひょんなことから厄介な能力を手に入れた。
突如目の前に現れた一冊の本。
そして脳内に語られる神の物語。
最初は訳もわからず、キジトは数日間病院のベッドの上で過ごした。
病院の医師や見舞いに来た友人、そして家族さえも、キジトの前では怯え平伏す。
そして頭に、心に響く、その怯え。
それによりもたらされる頭痛と吐き気、苛立ち。
制御の効かない現実に、キジトは疲れ果て、未だに病院から出ることが叶わない。
さらにそれが苛立ちを加速させ、周囲を恐怖に陥れる。
その現実が、神から物語を《継承》した証だったとキジトが知ったのは、病院にストーリーテラーからのスカウトが来てからだった。
ストーリー名、《恐惶の政治》
その能力は、全てに対して恐怖を与える。
連れて行かれた組織でキジトに知らされたのは、キジトの日常を破壊する情報だった。
ストーリーテラー。
その存在は認知している。
しかし、それが自分のこととなるなど、キジトはその時まで全く予期していなかった。
淡々と告げられる、自分の日常の変化。
ほぼ強制的に加入が決められた、兵士としてのこれから。
クソッタレ。
キジトはその時初めて意図して威嚇を放った。
《悪意》との戦闘において、相手の影響力を下げる効果を持つというキジトの能力は、非戦闘員の士気を下げるどころか、上昇へと導いた。
判定はAレベル。
ストーリーテラーの《継承者》として活躍するには、申し分ない能力だった。
しかし、それは同時に、キジトの日常を奪い去り、普段から遠巻きにされがちなキジトから対人意欲を根こそぎ毟り取っていくこととなる。
能力の対価。
キジトが得たものは、他人からの感情を否応なく全て受けるという業だった。
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