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躾られた悪意
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しおりを挟む「俺たちより先にあの《悪意》に当たっていた見回りチームだね。 影に隠れて見えないけど、《継承者》もいるよ」
「……今日のシフトだと、ハマナさん辺りですかね」
「……さすが、正解だよ。ハマナちゃんがやられた」
サジルの言葉に眉を顰める。
ハマナは若いがベテランの《継承者》である。
第一支部の女性隊員の中では古株で、サジル同様に若者の人望の厚い人格者だ。
その攻撃に特化した能力は、簡単に地に伏すようなものではない。
「先程までの状況を確認しても?」
「うん……《悪意》自体はそんなに強くなくて、簡単に倒せるんだけど、中にカウンターを使ってくる《悪意》がいてね……」
「なるほど、ハマナさんたちはカウンターでやられたんですね」
サジルの頷きに、イスミは合点がいって続いて思案を巡らせた。
ヤタマルが応援では対処できなかった理由はこれである。
イスミの知るヤタマルは、基本的に策を練らない。
それは、練らずとも力押しで大半の「悪意》に対処できてしまうからであるが、それでなくともヤタマルには不向きの応援であった。
イスミは一旦の仮説を脳内でまとめると、サジルとヤタマルに向き直って最初の指示を出した。
「サジルさんは、一般隊員と組みつつ、二組に分かれて軽く攻撃してください。基本的に好きに動いて問題ないですが、攻撃はあくまでも緩めに」
「了解。カウンターもらっても大事にならないように攻撃だね」
頷いたサジルに、イスミも頷きを返す。
飼い主に待てをされた犬のような視線を受けて、イスミはヤタマルへと指示を続けた。
「次に……」
「ちょっと待てよ!」
「はあ?!」
一般隊員からの横槍に反論したのはヤタマルだった。
肩をいからせてイスミの前に出てきた隊員は、恐らくサジルのチームの司令塔である。
突然やってきた格下のイスミに株を奪われて、憤っているようだ。
その眦は赤く吊り上がっていた。
「なんでお前がサジルさんとヤタマルさんを指揮するんだよ!」
「は?」
胸倉を掴む勢いで突っかかってきた相手に向けた視線は、途中で遮られた。
ヤタマルが強引に間に割り入ったからだ。
ヤタマルは如何にも不機嫌な様子で一般隊員を睨み付けると、さも当たり前のように言葉を吐き出した。
「お前が何言ってんだよ。イスミが俺を指揮するのは当たり前だろ。どんだけ待ったと思ってんだ」
「え?」
「第一、俺が指揮して欲しいのはイスミなのに、なんでお前がイスミを怒るんだよ。イスミの方がいいって決まってんのに、お前はカスみたいな指揮を俺らに見せたいわけ?」
「は?」
「イスミはお前よりすげーんだよ。イスミに従うのが当然だろ? 何がしたいの?」
「はいはい、ヤタマルくんそこまでだよ」
怒濤の勢いで繰り出されたヤタマルの口上を止めたのはサジルだった。
やれやれと肩を竦めながら、二人の間に距離を作る。
「だってサジル~」
呆然とする一般隊員たちを置き去りに、ヤタマルはサジルへと向き直った。
ヤタマルには理解できないのだ。
彼らの妬みや、怒りや、矜持も、一切。
「別に僕の指示に従わずとも構いません」
イスミは妥協案として選択肢を提示した。
「気に入らないのであればご自由にどうぞ。ああなっても知りませんけど」
イスミは指先で先に特攻した一団を指さした。
途端、一般隊員の顔色が青に変わる。
反論はないようである。
「では、続きを」
そしてイスミは、指揮官の目で眼下を見下ろした。
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