【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる

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第1章

狼煙を上げる

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 騎士団が村の近くまで来ている――その情報は、アッシュ村の穏やかな空気に、目に見えない緊張の糸を張り巡らせた。俺はそれまで以上に警戒を強め、日中の活動は極力控えるようにした。リンドを連れて村を歩くのはもってのほか、プルですら、人目につかないよう外套の下に隠すことが多くなった。

 宿屋の部屋にいる時間は、もっぱらスキルの確認と訓練に費やした。【収納∞】に追加された『時間停止空間』は、思った以上に便利だった。試しにポーションを入れてみたが、効果時間は停止しているようで、いつでも最高の状態で使用できる。戦闘中に咄嗟に必要なアイテムを取り出す練習も繰り返した。アクセス速度が向上したおかげで、思考とほぼ同時にアイテムを出し入れできる。これは大きな武器になるはずだ。

 プルとリンドとの連携訓練も、村はずれの森で人目を忍んで行った。プルは水の刃を飛ばす《ウォーターカッター》を完全に習得し、リンドは短時間なら低空飛行が可能になっていた。ブレスの威力も増し、並のオーク程度なら一撃で黒焦げにするだろう。俺自身のレベルも上がり、騎士団の兵士一人や二人が相手なら、遅れを取ることはないという自信がつき始めていた。

 村長や宿の女将さんには、「何か変わったことや、見慣れない人を見かけたら教えてほしい」とだけ伝えておいた。彼らは俺の実力を買ってくれているのか、あるいは何かを察しているのか、深くは聞かずに頷いてくれた。

 そんなある日の昼下がり。俺が森の中で訓練を終え、村に戻ろうとした時だった。肩の上のプルが、鋭く「ぷるっ!」と警告を発した。同時に、風に乗って微かに、複数の人間の気配と金属の擦れる音が運ばれてくる。

(来たか……!)

 俺は咄嗟に身を伏せ、近くの茂みに隠れる。プルもリンドも、俺の意図を理解して息を殺した。リンドはその巨体を巧みに隠し、気配すら消しているように見える。

 やがて、森の小道に銀色の鎧を纏った一団が現れた。五人組だ。先頭を歩く男の鎧には、見覚えのある騎士団の紋章が輝いている。彼らは間違いなく、王国騎士団の斥候部隊だろう。

 彼らは周囲を警戒しながら、慎重に、しかし迷いなくアッシュ村の方向へと進んでいく。俺は息を殺し、彼らが通り過ぎるのを待った。心臓が早鐘のように鳴っている。

 斥候たちが村の中へ入っていくのを見届けた後、俺はしばらくその場で待機した。そして、村の方角から聞こえてくる彼らの声に、神経を集中させた。

「……この村で、赤い大きなトカゲのような魔物を連れた男を見なかったか?」
「最近、腕の立つ冒険者がいると聞いたが……」
「『試練の洞窟』の方向から戻ってきたという話もあるぞ」

 やはり、俺とリンドの情報は掴まれていた。どこから漏れたのかは分からないが、奴らは俺たちを追ってこの村まで来たのだ。

「……洞窟で見つかるはずだった『アレ』が見つからん以上、あの男が何か知っている可能性が高い」
「あるいは、男が先に『アレ』を持ち去ったか……」
「どちらにせよ、身柄を確保する必要があるな。隊長にも報告し、本隊を呼ぶぞ」

『アレ』――やはり、俺が見つけたあの結晶石のことだろう。奴らは結晶石を回収し、そして俺を捕らえるつもりなのだ。

(本隊……? まだ近くにいるのか)

 このまま隠れていても、いずれは見つかるだろう。村の中で戦闘になれば、村人たちを巻き込むことになる。それは避けたい。

 ならば――。

 俺は覚悟を決めた。奴らの注意を俺たちに向けさせ、村から引き離す。そして、この辺境の地理と、俺たちの力を利用して、奴らを翻弄してやるのだ。

「……プル、リンド。作戦変更だ」

 俺は静かに、しかし強い意志を込めて二匹に語りかけた。二匹は俺の覚悟を理解したように、静かに頷き返す。

 俺は隠れていた茂みからゆっくりと立ち上がった。そして、わざと小枝を踏みしめ、物音を立てる。

「行くぞ、二人とも。鬼ごっこの始まりだ」

 村の方角へ向けて、俺はあえて目立つように駆け出した。騎士団の斥候たちが、この動きに気づくように。
 彼らをおびき出し、俺たちのフィールドへと誘い込むための、危険なゲームの火蓋が、今、切られようとしていた。
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