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第1章
潜入、三日月亭の闇
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暗号メモが示した『三日後の宵闇』。俺はプルと共に、鉱山都市ドワーダルの夜の闇に紛れていた。目的地は、黒鉄通りにあるという寂れた酒場『三日月亭』。王国の諜報員たちが、何らかの『荷物』を受け渡すという場所だ。
黒鉄通りは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、薄暗い路地には怪しげな人影がちらほらと見えるだけだった。治安の悪さを肌で感じながら、俺は建物の影から影へと音もなく移動する。プルが外套の下で周囲の気配を探り、危険がないか常に知らせてくれる。
やがて、目的の『三日月亭』が見えてきた。古びた木造の二階建てで、看板の三日月の飾りは欠け落ち、窓も少なく、中の様子を窺うのは難しい。入り口には、屈強そうな男が二人、腕を組んで立っており、明らかにただの酒場の用心棒ではない雰囲気を醸し出している。
(正面から入るのは得策じゃないな……)
俺は建物の裏手へと回り込んだ。裏口は固く閉ざされている。二階の窓も鎧戸が下りているようだ。
「プル、先行して中の様子を探ってくれるか? 安全な侵入経路も」
「ぷるっ!(任せて!)」
プルは外套から滑り出すと、スライムの特性を活かして壁の僅かな隙間から建物内部へと侵入していった。しばらくして、プルから念話のような形で情報が送られてくる。
(一階は酒場だけど、客は少ない。荒くれ者ばかり。カウンターの奥に階段。地下もあるみたい。二階は個室がいくつか。厨房の小さな窓が開いてる!)
よし。俺はプルの情報をもとに、厨房の小さな窓から音もなく店内へと滑り込んだ。中は薄暗く、酒と油の匂いが混じり合っている。幸い、厨房には誰もいなかった。
俺は息を潜め、壁際を伝って一階のホールを横切る。カウンターの奥、プルが教えてくれた階段へと向かう。階段は二階へ続くものと、地下へ続くものの二つがあった。盗み聞きした会話からすると、重要な話は二階の個室か、あるいは地下で行われている可能性が高い。
(まずは二階を探るか)
軋む階段を音を立てないように慎重に上る。二階の廊下は薄暗く、いくつかの個室の扉が並んでいた。そのうちの一つの扉の前で、プルが微かに震えて合図を送る。この部屋だ。
俺は扉に耳を寄せ、中の会話に神経を集中させた。低い男たちの声が聞こえてくる。
「……で、『荷物』は時間通りに届くんだろうな?」
「ああ、問題ない。『運び屋』は信頼できる。今夜、ここで受け渡しだ」
「『上』からの指示だ、絶対に抜かるなよ。例の『星霜の結晶』の件で、我々の組織も神経質になっている」
「分かっている。それに、最近この街で我々を嗅ぎまわっているネズミがいるらしい。例の『竜使い』かもしれん。警戒を怠るな」
(やはり俺のことも……そして『星霜の結晶』のことも掴んでいるか)
彼らが王国の諜報員であることは間違いない。そして、『荷物』の受け渡しが今夜ここで行われることも。
(『荷物』とは一体……?)
さらに情報を得ようと耳を澄ませていると、別の部屋から、微かに金属音と、何か重いものを運んでいるような物音が聞こえてきた。プルがそちらの方向を指し示す。
(あっちか!)
俺は足音を忍ばせ、その部屋へと近づく。扉はわずかに開いていた。隙間から中を覗き込むと――そこには、数人の黒服の男たちと、部屋の中央に置かれた一つの頑丈そうな木箱があった。男たちが慎重に木箱の蓋を開ける。
俺は息を呑んだ。木箱の中に納められていたのは、複雑な機構を持つ、黒光りする奇妙な形状の『魔道具』だった。一見して武器のようにも見えるが、その用途は全く見当がつかない。だが、その魔道具から放たれる微弱ながらも不気味な魔力は、これがただならぬ品であることを示していた。
(あれが『荷物』……! 一体、何に使うつもりだ?)
俺がその魔道具に見入っていた、その時だった。
――ギィ……。
俺が寄りかかっていた床板が、わずかに軋む音を立ててしまった!
「! 誰だ!?」
部屋の中の男たちが、即座に反応した! 数人が武器を手に、扉へと向かってくる!
(まずい!)
深追いは危険だ。目的の情報と、『荷物』の確認はできた。今は脱出が最優先!
「プル、逃げるぞ!」
俺は即座に踵を返し、階段を駆け下りる! 追っ手が部屋から飛び出し、廊下に警報のような笛の音が鳴り響いた! 店内が一気に騒がしくなる!
「ネズミだ! 逃がすな!」
一階からも複数の追手が現れる! 俺は【収納∞】から煙幕玉を取り出し、階段下で炸裂させた! 白い煙がホールに充満し、追手の視界を奪う!
「こっちだ!」
俺は煙に紛れて厨房へと駆け込み、侵入した窓とは別の、裏口へと続く通路へ飛び込んだ! 追手の怒号が背後から迫る!
「プル、追手を足止めしろ!」
「ぷるしゅー!」
プルが振り返りざまに《粘着液》を通路に撒き散らす! 追手の数人が足を取られて転倒する声が聞こえた。
俺はその隙に裏口の鍵を破壊し、夜の路地へと転がり出た! すぐさま建物の壁を駆け上がり、屋根の上へ! 眼下では、三日月亭から飛び出してきた追っ手たちが、俺の姿を探して右往左往している。
「ふぅ……危なかった」
なんとか追手を振り切ったようだ。俺は屋根の上を伝い、安全な場所まで移動した。
今回の潜入で、敵が組織的に動き、『荷物』として特殊な魔道具を扱っていることが分かった。大きな収穫だ。
「あの魔道具は一体……? 奴らは何を企んでいるんだ?」
新たな謎が生まれた。だが、敵の具体的な動きを掴んだことで、俺たちの取るべき行動も見えてきた。
俺は夜の闇に覆われたドワーダルの街を見下ろし、次なる一手――あの魔道具の奪取、あるいは追跡――への決意を固めた。反撃は、まだ始まったばかりだ。
黒鉄通りは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、薄暗い路地には怪しげな人影がちらほらと見えるだけだった。治安の悪さを肌で感じながら、俺は建物の影から影へと音もなく移動する。プルが外套の下で周囲の気配を探り、危険がないか常に知らせてくれる。
やがて、目的の『三日月亭』が見えてきた。古びた木造の二階建てで、看板の三日月の飾りは欠け落ち、窓も少なく、中の様子を窺うのは難しい。入り口には、屈強そうな男が二人、腕を組んで立っており、明らかにただの酒場の用心棒ではない雰囲気を醸し出している。
(正面から入るのは得策じゃないな……)
俺は建物の裏手へと回り込んだ。裏口は固く閉ざされている。二階の窓も鎧戸が下りているようだ。
「プル、先行して中の様子を探ってくれるか? 安全な侵入経路も」
「ぷるっ!(任せて!)」
プルは外套から滑り出すと、スライムの特性を活かして壁の僅かな隙間から建物内部へと侵入していった。しばらくして、プルから念話のような形で情報が送られてくる。
(一階は酒場だけど、客は少ない。荒くれ者ばかり。カウンターの奥に階段。地下もあるみたい。二階は個室がいくつか。厨房の小さな窓が開いてる!)
よし。俺はプルの情報をもとに、厨房の小さな窓から音もなく店内へと滑り込んだ。中は薄暗く、酒と油の匂いが混じり合っている。幸い、厨房には誰もいなかった。
俺は息を潜め、壁際を伝って一階のホールを横切る。カウンターの奥、プルが教えてくれた階段へと向かう。階段は二階へ続くものと、地下へ続くものの二つがあった。盗み聞きした会話からすると、重要な話は二階の個室か、あるいは地下で行われている可能性が高い。
(まずは二階を探るか)
軋む階段を音を立てないように慎重に上る。二階の廊下は薄暗く、いくつかの個室の扉が並んでいた。そのうちの一つの扉の前で、プルが微かに震えて合図を送る。この部屋だ。
俺は扉に耳を寄せ、中の会話に神経を集中させた。低い男たちの声が聞こえてくる。
「……で、『荷物』は時間通りに届くんだろうな?」
「ああ、問題ない。『運び屋』は信頼できる。今夜、ここで受け渡しだ」
「『上』からの指示だ、絶対に抜かるなよ。例の『星霜の結晶』の件で、我々の組織も神経質になっている」
「分かっている。それに、最近この街で我々を嗅ぎまわっているネズミがいるらしい。例の『竜使い』かもしれん。警戒を怠るな」
(やはり俺のことも……そして『星霜の結晶』のことも掴んでいるか)
彼らが王国の諜報員であることは間違いない。そして、『荷物』の受け渡しが今夜ここで行われることも。
(『荷物』とは一体……?)
さらに情報を得ようと耳を澄ませていると、別の部屋から、微かに金属音と、何か重いものを運んでいるような物音が聞こえてきた。プルがそちらの方向を指し示す。
(あっちか!)
俺は足音を忍ばせ、その部屋へと近づく。扉はわずかに開いていた。隙間から中を覗き込むと――そこには、数人の黒服の男たちと、部屋の中央に置かれた一つの頑丈そうな木箱があった。男たちが慎重に木箱の蓋を開ける。
俺は息を呑んだ。木箱の中に納められていたのは、複雑な機構を持つ、黒光りする奇妙な形状の『魔道具』だった。一見して武器のようにも見えるが、その用途は全く見当がつかない。だが、その魔道具から放たれる微弱ながらも不気味な魔力は、これがただならぬ品であることを示していた。
(あれが『荷物』……! 一体、何に使うつもりだ?)
俺がその魔道具に見入っていた、その時だった。
――ギィ……。
俺が寄りかかっていた床板が、わずかに軋む音を立ててしまった!
「! 誰だ!?」
部屋の中の男たちが、即座に反応した! 数人が武器を手に、扉へと向かってくる!
(まずい!)
深追いは危険だ。目的の情報と、『荷物』の確認はできた。今は脱出が最優先!
「プル、逃げるぞ!」
俺は即座に踵を返し、階段を駆け下りる! 追っ手が部屋から飛び出し、廊下に警報のような笛の音が鳴り響いた! 店内が一気に騒がしくなる!
「ネズミだ! 逃がすな!」
一階からも複数の追手が現れる! 俺は【収納∞】から煙幕玉を取り出し、階段下で炸裂させた! 白い煙がホールに充満し、追手の視界を奪う!
「こっちだ!」
俺は煙に紛れて厨房へと駆け込み、侵入した窓とは別の、裏口へと続く通路へ飛び込んだ! 追手の怒号が背後から迫る!
「プル、追手を足止めしろ!」
「ぷるしゅー!」
プルが振り返りざまに《粘着液》を通路に撒き散らす! 追手の数人が足を取られて転倒する声が聞こえた。
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今回の潜入で、敵が組織的に動き、『荷物』として特殊な魔道具を扱っていることが分かった。大きな収穫だ。
「あの魔道具は一体……? 奴らは何を企んでいるんだ?」
新たな謎が生まれた。だが、敵の具体的な動きを掴んだことで、俺たちの取るべき行動も見えてきた。
俺は夜の闇に覆われたドワーダルの街を見下ろし、次なる一手――あの魔道具の奪取、あるいは追跡――への決意を固めた。反撃は、まだ始まったばかりだ。
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