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第1章
魔力増幅器
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夜の闇が鉱山都市ドワーダルを深く包み込む頃、俺とプルは例の寂れた倉庫街に再び身を潜めていた。目標は、運び屋が『荷物』を運び込んだ、ひときわ大きな古い倉庫。王国諜報機関のアジト、あるいは重要な中継拠点である可能性が高い。
「プル、頼む。見張りの位置と動き、侵入できそうな場所を探ってくれ」
「ぷるっ!(任せて!)」
プルは音もなく俺の外套から滑り出すと、闇に溶け込むように倉庫の周囲を偵察し始めた。しばらくして、プルから念話が届く。
(見張りは入り口に二人、屋根の上に一人、倉庫の裏手に二人。五分おきに巡回してるみたい。屋根の北側の換気口、少し緩んでる! そこからなら入れそう!)
的確な情報だ。俺はプルの案内に従い、建物の影を縫うように移動し、倉庫の側面へ回り込む。壁を慎重に登り、屋根の上へ。月明かりを頼りに、プルが示した北側の換気口を見つけた。古い金属製の格子は、力を込めるとわずかに歪み、人が一人通れるくらいの隙間を作ることができた。
「よし……行くぞ」
俺はプルを先に内部へ送り込み、自分も音を立てないように隙間から倉庫の中へと滑り込んだ。中は埃っぽく、ひんやりとしている。積み上げられた木箱や麻袋が迷路のように入り組んでいたが、その奥からは、ランプの明かりと、複数の人間の気配、そして微かな機械音のようなものが聞こえてきた。
俺たちは物陰に身を隠しながら、慎重に奥へと進む。武装した見張りが、一定の間隔で通路を巡回していた。その数は、外の見張りを含めると十数名はいるだろうか。厳重な警戒態勢だ。
倉庫の奥は、がらんとした広い空間になっており、そこには明らかに異質な光景が広がっていた。床には複雑な魔法陣のようなものが描かれ、壁際には用途不明の機械や薬品棚が並び、まるで実験室のようだ。そして、その中央には――三日月亭で見たものと同じ、黒光りする不気味な魔道具が設置され、低い唸り音と共に紫色の魔力を明滅させていた!
(あれが……『荷物』。ここで何かの実験でもしているのか?)
俺は柱の影に隠れ、さらに内部の様子を窺う。数人の研究者らしき白衣の人物と、黒服の諜報員たちが、魔道具を囲んで何やら話し合っていた。距離はあったが、耳を澄ますと、断片的な会話が聞こえてきた。
「……『魔力増幅器』の調整は最終段階だ。問題ないか?」
「ええ、計算上は。第伍鉱山の崩落で、予想より地脈エネルギーの流入量が減っていますが、それでも『あれ』を起動するには十分でしょう」
「例の竜使いが嗅ぎまわっているという報告もある。手間取っている時間は無いぞ。できるだけ早くエネルギー転送を開始しろ。『上』も結果を待っておられる」
「分かっています。転送座標の最終確認を急がせます。……『氷刃』様も、明日の夜にはこちらへ到着される手筈ですしな」
(魔力増幅器……鉱山のエネルギーを吸い上げて、転送……? 氷刃も来るだと!?)
断片的な情報だが、恐ろしい計画の輪郭が見えてきた。奴らは、あの魔道具を使って、ドワーダル周辺の地脈、おそらくは鉱山に残存する膨大な魔力エネルギーを吸い上げ、どこか(王都か?)へ転送しようとしているのだ。そんなことをすれば、地脈のバランスが崩れ、この地域にどんな影響が出るか分からない。大規模な地盤沈下や、さらなる魔物の異常発生を引き起こしかねない。
(なんとしても止めなければ……!)
俺はさらに情報を得ようと、近くにあった書類の山に目を向けた。計画書か報告書かもしれない。あれを【収納∞】で奪えれば……。俺がそっと物陰から移動しようとした、その瞬間だった。
――カツン。
俺の足元の小石が、静かな倉庫内に響いた。
「! 誰だ!?」
鋭い声と共に、近くにいた見張りがこちらを振り向いた! 目が合ってしまった!
「侵入者だ! 捕らえろ!」
倉庫内に警報が鳴り響く! 次々と敵兵がこちらへ向かってくる! 研究者たちも慌てて魔道具から離れ、武装した諜報員たちが俺を取り囲もうとする!
(まずい! 見つかった!)
ここは敵の本拠地。多勢に無勢だ。戦闘は避け、脱出を最優先する!
「プル、煙幕!」
「ぷるしゅー!」
俺の合図で、プルが即座に煙幕を複数展開! 白い煙が実験室区画を覆い尽くす!
「くそっ、視界が!」
「逃がすな! 包囲しろ!」
敵の怒号が飛び交う中、俺は煙に紛れて来た道を引き返す! だが、倉庫の入り口方向からも敵兵が迫ってきていた!
(こっちだ!)
俺は咄嗟に【収納∞】から、以前回収しておいたオークの巨大な盾を複数、通路を塞ぐように実体化させた!
「うわっ!?」
「なんだこれは!?」
追手が盾に阻まれて混乱している隙に、俺はプルの案内で、事前に確認しておいた壁際の通気口へと飛び込んだ! 狭く埃っぽい通気口を這うように進み、外壁の格子を蹴破って、夜の闇へと転がり出る!
背後で倉庫から追手の声が聞こえるが、もう追いつかれはしないだろう。俺は息を切らしながらも、全力でその場を離脱した。
安全な場所まで戻り、俺はようやく息をついた。プルも無事だ。
危険な潜入だったが、敵の計画――『魔力増幅器』によるエネルギー転送――の概要と、『氷刃』が明日にも到着するという情報を掴むことができた。収穫は大きい。
「鉱山のエネルギーを吸い上げるだと……? そんなことをすれば、この街は……! しかも氷刃まで来るというのか……!」
事態は予想以上に深刻で、時間的な猶予もない。敵の計画を阻止し、迫りくる氷刃とその部隊に立ち向かわなければならない。
(ボルガン親方や、あるいはギルドにも相談すべきか……? いや、まずは俺たちでできることを……)
俺は夜空を見上げ、決意を新たにした。奴らの計画は、必ず俺が阻止してみせる。
鉱山都市ドワーダルを舞台にした、最終決戦の時が近づいていた。
「プル、頼む。見張りの位置と動き、侵入できそうな場所を探ってくれ」
「ぷるっ!(任せて!)」
プルは音もなく俺の外套から滑り出すと、闇に溶け込むように倉庫の周囲を偵察し始めた。しばらくして、プルから念話が届く。
(見張りは入り口に二人、屋根の上に一人、倉庫の裏手に二人。五分おきに巡回してるみたい。屋根の北側の換気口、少し緩んでる! そこからなら入れそう!)
的確な情報だ。俺はプルの案内に従い、建物の影を縫うように移動し、倉庫の側面へ回り込む。壁を慎重に登り、屋根の上へ。月明かりを頼りに、プルが示した北側の換気口を見つけた。古い金属製の格子は、力を込めるとわずかに歪み、人が一人通れるくらいの隙間を作ることができた。
「よし……行くぞ」
俺はプルを先に内部へ送り込み、自分も音を立てないように隙間から倉庫の中へと滑り込んだ。中は埃っぽく、ひんやりとしている。積み上げられた木箱や麻袋が迷路のように入り組んでいたが、その奥からは、ランプの明かりと、複数の人間の気配、そして微かな機械音のようなものが聞こえてきた。
俺たちは物陰に身を隠しながら、慎重に奥へと進む。武装した見張りが、一定の間隔で通路を巡回していた。その数は、外の見張りを含めると十数名はいるだろうか。厳重な警戒態勢だ。
倉庫の奥は、がらんとした広い空間になっており、そこには明らかに異質な光景が広がっていた。床には複雑な魔法陣のようなものが描かれ、壁際には用途不明の機械や薬品棚が並び、まるで実験室のようだ。そして、その中央には――三日月亭で見たものと同じ、黒光りする不気味な魔道具が設置され、低い唸り音と共に紫色の魔力を明滅させていた!
(あれが……『荷物』。ここで何かの実験でもしているのか?)
俺は柱の影に隠れ、さらに内部の様子を窺う。数人の研究者らしき白衣の人物と、黒服の諜報員たちが、魔道具を囲んで何やら話し合っていた。距離はあったが、耳を澄ますと、断片的な会話が聞こえてきた。
「……『魔力増幅器』の調整は最終段階だ。問題ないか?」
「ええ、計算上は。第伍鉱山の崩落で、予想より地脈エネルギーの流入量が減っていますが、それでも『あれ』を起動するには十分でしょう」
「例の竜使いが嗅ぎまわっているという報告もある。手間取っている時間は無いぞ。できるだけ早くエネルギー転送を開始しろ。『上』も結果を待っておられる」
「分かっています。転送座標の最終確認を急がせます。……『氷刃』様も、明日の夜にはこちらへ到着される手筈ですしな」
(魔力増幅器……鉱山のエネルギーを吸い上げて、転送……? 氷刃も来るだと!?)
断片的な情報だが、恐ろしい計画の輪郭が見えてきた。奴らは、あの魔道具を使って、ドワーダル周辺の地脈、おそらくは鉱山に残存する膨大な魔力エネルギーを吸い上げ、どこか(王都か?)へ転送しようとしているのだ。そんなことをすれば、地脈のバランスが崩れ、この地域にどんな影響が出るか分からない。大規模な地盤沈下や、さらなる魔物の異常発生を引き起こしかねない。
(なんとしても止めなければ……!)
俺はさらに情報を得ようと、近くにあった書類の山に目を向けた。計画書か報告書かもしれない。あれを【収納∞】で奪えれば……。俺がそっと物陰から移動しようとした、その瞬間だった。
――カツン。
俺の足元の小石が、静かな倉庫内に響いた。
「! 誰だ!?」
鋭い声と共に、近くにいた見張りがこちらを振り向いた! 目が合ってしまった!
「侵入者だ! 捕らえろ!」
倉庫内に警報が鳴り響く! 次々と敵兵がこちらへ向かってくる! 研究者たちも慌てて魔道具から離れ、武装した諜報員たちが俺を取り囲もうとする!
(まずい! 見つかった!)
ここは敵の本拠地。多勢に無勢だ。戦闘は避け、脱出を最優先する!
「プル、煙幕!」
「ぷるしゅー!」
俺の合図で、プルが即座に煙幕を複数展開! 白い煙が実験室区画を覆い尽くす!
「くそっ、視界が!」
「逃がすな! 包囲しろ!」
敵の怒号が飛び交う中、俺は煙に紛れて来た道を引き返す! だが、倉庫の入り口方向からも敵兵が迫ってきていた!
(こっちだ!)
俺は咄嗟に【収納∞】から、以前回収しておいたオークの巨大な盾を複数、通路を塞ぐように実体化させた!
「うわっ!?」
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追手が盾に阻まれて混乱している隙に、俺はプルの案内で、事前に確認しておいた壁際の通気口へと飛び込んだ! 狭く埃っぽい通気口を這うように進み、外壁の格子を蹴破って、夜の闇へと転がり出る!
背後で倉庫から追手の声が聞こえるが、もう追いつかれはしないだろう。俺は息を切らしながらも、全力でその場を離脱した。
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「鉱山のエネルギーを吸い上げるだと……? そんなことをすれば、この街は……! しかも氷刃まで来るというのか……!」
事態は予想以上に深刻で、時間的な猶予もない。敵の計画を阻止し、迫りくる氷刃とその部隊に立ち向かわなければならない。
(ボルガン親方や、あるいはギルドにも相談すべきか……? いや、まずは俺たちでできることを……)
俺は夜空を見上げ、決意を新たにした。奴らの計画は、必ず俺が阻止してみせる。
鉱山都市ドワーダルを舞台にした、最終決戦の時が近づいていた。
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