【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる

文字の大きさ
36 / 99
第1章

魔力増幅器

しおりを挟む
 夜の闇が鉱山都市ドワーダルを深く包み込む頃、俺とプルは例の寂れた倉庫街に再び身を潜めていた。目標は、運び屋が『荷物』を運び込んだ、ひときわ大きな古い倉庫。王国諜報機関のアジト、あるいは重要な中継拠点である可能性が高い。

「プル、頼む。見張りの位置と動き、侵入できそうな場所を探ってくれ」
「ぷるっ!(任せて!)」

 プルは音もなく俺の外套から滑り出すと、闇に溶け込むように倉庫の周囲を偵察し始めた。しばらくして、プルから念話が届く。
(見張りは入り口に二人、屋根の上に一人、倉庫の裏手に二人。五分おきに巡回してるみたい。屋根の北側の換気口、少し緩んでる! そこからなら入れそう!)

 的確な情報だ。俺はプルの案内に従い、建物の影を縫うように移動し、倉庫の側面へ回り込む。壁を慎重に登り、屋根の上へ。月明かりを頼りに、プルが示した北側の換気口を見つけた。古い金属製の格子は、力を込めるとわずかに歪み、人が一人通れるくらいの隙間を作ることができた。

「よし……行くぞ」

 俺はプルを先に内部へ送り込み、自分も音を立てないように隙間から倉庫の中へと滑り込んだ。中は埃っぽく、ひんやりとしている。積み上げられた木箱や麻袋が迷路のように入り組んでいたが、その奥からは、ランプの明かりと、複数の人間の気配、そして微かな機械音のようなものが聞こえてきた。

 俺たちは物陰に身を隠しながら、慎重に奥へと進む。武装した見張りが、一定の間隔で通路を巡回していた。その数は、外の見張りを含めると十数名はいるだろうか。厳重な警戒態勢だ。

 倉庫の奥は、がらんとした広い空間になっており、そこには明らかに異質な光景が広がっていた。床には複雑な魔法陣のようなものが描かれ、壁際には用途不明の機械や薬品棚が並び、まるで実験室のようだ。そして、その中央には――三日月亭で見たものと同じ、黒光りする不気味な魔道具が設置され、低い唸り音と共に紫色の魔力を明滅させていた!

(あれが……『荷物』。ここで何かの実験でもしているのか?)

 俺は柱の影に隠れ、さらに内部の様子を窺う。数人の研究者らしき白衣の人物と、黒服の諜報員たちが、魔道具を囲んで何やら話し合っていた。距離はあったが、耳を澄ますと、断片的な会話が聞こえてきた。

「……『魔力増幅器』の調整は最終段階だ。問題ないか?」
「ええ、計算上は。第伍鉱山の崩落で、予想より地脈エネルギーの流入量が減っていますが、それでも『あれ』を起動するには十分でしょう」
「例の竜使いが嗅ぎまわっているという報告もある。手間取っている時間は無いぞ。できるだけ早くエネルギー転送を開始しろ。『上』も結果を待っておられる」
「分かっています。転送座標の最終確認を急がせます。……『氷刃』様も、明日の夜にはこちらへ到着される手筈ですしな」

(魔力増幅器……鉱山のエネルギーを吸い上げて、転送……? 氷刃も来るだと!?)

 断片的な情報だが、恐ろしい計画の輪郭が見えてきた。奴らは、あの魔道具を使って、ドワーダル周辺の地脈、おそらくは鉱山に残存する膨大な魔力エネルギーを吸い上げ、どこか(王都か?)へ転送しようとしているのだ。そんなことをすれば、地脈のバランスが崩れ、この地域にどんな影響が出るか分からない。大規模な地盤沈下や、さらなる魔物の異常発生を引き起こしかねない。

(なんとしても止めなければ……!)

 俺はさらに情報を得ようと、近くにあった書類の山に目を向けた。計画書か報告書かもしれない。あれを【収納∞】で奪えれば……。俺がそっと物陰から移動しようとした、その瞬間だった。

 ――カツン。
 俺の足元の小石が、静かな倉庫内に響いた。

「! 誰だ!?」

 鋭い声と共に、近くにいた見張りがこちらを振り向いた! 目が合ってしまった!
「侵入者だ! 捕らえろ!」

 倉庫内に警報が鳴り響く! 次々と敵兵がこちらへ向かってくる! 研究者たちも慌てて魔道具から離れ、武装した諜報員たちが俺を取り囲もうとする!

(まずい! 見つかった!)

 ここは敵の本拠地。多勢に無勢だ。戦闘は避け、脱出を最優先する!
「プル、煙幕!」
「ぷるしゅー!」

 俺の合図で、プルが即座に煙幕を複数展開! 白い煙が実験室区画を覆い尽くす!
「くそっ、視界が!」
「逃がすな! 包囲しろ!」

 敵の怒号が飛び交う中、俺は煙に紛れて来た道を引き返す! だが、倉庫の入り口方向からも敵兵が迫ってきていた!

(こっちだ!)

 俺は咄嗟に【収納∞】から、以前回収しておいたオークの巨大な盾を複数、通路を塞ぐように実体化させた!
「うわっ!?」
「なんだこれは!?」

 追手が盾に阻まれて混乱している隙に、俺はプルの案内で、事前に確認しておいた壁際の通気口へと飛び込んだ! 狭く埃っぽい通気口を這うように進み、外壁の格子を蹴破って、夜の闇へと転がり出る!

 背後で倉庫から追手の声が聞こえるが、もう追いつかれはしないだろう。俺は息を切らしながらも、全力でその場を離脱した。

 安全な場所まで戻り、俺はようやく息をついた。プルも無事だ。
 危険な潜入だったが、敵の計画――『魔力増幅器』によるエネルギー転送――の概要と、『氷刃』が明日にも到着するという情報を掴むことができた。収穫は大きい。

「鉱山のエネルギーを吸い上げるだと……? そんなことをすれば、この街は……! しかも氷刃まで来るというのか……!」

 事態は予想以上に深刻で、時間的な猶予もない。敵の計画を阻止し、迫りくる氷刃とその部隊に立ち向かわなければならない。

(ボルガン親方や、あるいはギルドにも相談すべきか……? いや、まずは俺たちでできることを……)

 俺は夜空を見上げ、決意を新たにした。奴らの計画は、必ず俺が阻止してみせる。
 鉱山都市ドワーダルを舞台にした、最終決戦の時が近づいていた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。 しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。 リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。 一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。 これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...