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第1章
竜の兆候
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中央神殿での衝撃的な出来事から、数日が過ぎた。俺たちは拠点としている塔に戻り、新たな日常を始めていた。それは、休息と回復の時間であると同時に、来るべき戦いに備えるための、濃密な訓練と探索の日々だった。
日曜の早朝。東の空が白み始め、古代遺跡群が朝靄の中に静かに浮かび上がる。俺は塔の屋上、崩れた壁の縁に立ち、眼下に広がる壮大な景色を眺めながら、新しい剣『星穿』を振るっていた。ボルガン親方が打ってくれたこの剣は、俺の魔力によく馴染み、振るうたびに確かな手応えと成長を実感させてくれる。経験値を自己強化にも回し始めたことで、剣筋は以前より鋭く、速くなっていた。
隣では、プルが小さな体で器用に浮遊しながら、水の球を様々な形に変化させる魔法の訓練に励んでいる。遺跡の濃密な魔力の影響か、プルの魔法制御能力も向上しているようだ。そして、少し離れた場所では、リンドが朝日に深紅の鱗を輝かせながら、静かに瞑想するように佇んでいる。彼の体からは、以前にも増して強大な、しかし制御された魔力の波動が感じられた。竜魂との接触は、彼を目覚ましい次元へと引き上げつつあるようだった。
日中は、守人の警告を守り、中央神殿周辺を避けながら、遺跡の探索を続けた。複雑な構造の遺跡を歩き回り、時には新たな魔物と遭遇し、戦闘訓練も兼ねてこれを撃破する。経験値は着実に貯まり、俺たちは少しずつだが確実に力をつけていった。
探索中、時折、あの遺跡の守人と遭遇することがあった。彼は相変わらずフードを目深にかぶり、多くを語ろうとはしない。だが、以前のような敵対的な雰囲気は消え、俺たちの行動を静かに観察しているようだった。俺は機会を見て、彼に遺跡のことや古代文字について尋ねてみた。守人は直接的な答えは避けながらも、「その石版は、竜の試練について記されているのかもしれん」「この遺跡は、かつて竜と人が共存した時代の名残だ」など、いくつかの意味深なヒントを与えてくれた。彼との間には、奇妙な師弟関係のような、あるいは共闘前の腹の探り合いのような、微妙な空気が流れ始めていた。
リンドの成長は目覚ましいものがあった。飛行能力は完全に安定し、今では俺とプルを乗せてかなりの長距離を高速で飛行できる。ブレスも完全な炎となり、その威力は岩をも溶解させるほどだ。だが、同時に、何かが足りないような、力を完全に解放しきれていないような、もどかしさも感じられた。守人の言葉や、遺跡で見つかる竜に関する記録の断片は、リンドの真の覚醒には、何か特別な「鍵」――特定の場所、アイテム、あるいは試練――が必要であることを示唆していた。
(リンドの覚醒……それが、騎士団やアルヴィンに対抗するための、そして世界の危機に関わる鍵になるのかもしれない)
そんなある日、俺たちの束の間の平穏は、再び破られることになった。
「ぷるるっ! レント、大変!」
索敵に出ていたプルが、慌てた様子で俺の元へ飛んできた。
「どうした、プル!?」
「遺跡の外周、東側の森に、複数の人の気配! それも、この前の騎士団の人たちと同じような、冷たくて硬い感じ……!」
騎士団の斥候だ! やはり、諦めずにこの遺跡を探っていたのか! しかも、今回は東側から……ドワーダルとは逆方向から回り込んできたということか?
「数は?」
「はっきりとは分からないけど、少なくても10人以上……。すごく慎重に、遺跡の中の様子を窺ってるみたい……」
前回のアッシュ村周辺やドワーダルでの失敗から学び、今回は力押しではなく、時間をかけて情報収集と包囲網の形成を狙っているのかもしれない。『氷刃』自身はまだ姿を見せていないようだが、彼の指示で動いている精鋭部隊である可能性が高い。
(……ついに来たか)
俺は静かに立ち上がり、剣を握りしめた。この遺跡での休息と訓練の時間は終わりだ。
このまま拠点で迎え撃つか? 守人と連携して彼らを罠にかけるか? いや……あるいは、奴らが本格的に侵入してくる前に、俺たちが動くべきなのか? リンドの覚醒の鍵を求めて。
「奴らが来る前に、俺たちはもっと強くならなければならない。リンド、お前の力が必要になる時が来たのかもしれない」
俺は、何かを予感するように空を見上げているリンドに語りかけた。リンドは静かに俺を見つめ返し、力強く頷いた。プルも俺の肩に乗り、小さな体で精一杯の決意を示している。
俺は、守人が以前示唆した方向、そしてリンドが最も強く共鳴する場所――おそらくは遺跡の奥深く、中央神殿にも近い、危険な区域――へと視線を向けた。
騎士団の足音が、すぐそこまで迫っている。決断の時は、再び訪れていた。
日曜の早朝。東の空が白み始め、古代遺跡群が朝靄の中に静かに浮かび上がる。俺は塔の屋上、崩れた壁の縁に立ち、眼下に広がる壮大な景色を眺めながら、新しい剣『星穿』を振るっていた。ボルガン親方が打ってくれたこの剣は、俺の魔力によく馴染み、振るうたびに確かな手応えと成長を実感させてくれる。経験値を自己強化にも回し始めたことで、剣筋は以前より鋭く、速くなっていた。
隣では、プルが小さな体で器用に浮遊しながら、水の球を様々な形に変化させる魔法の訓練に励んでいる。遺跡の濃密な魔力の影響か、プルの魔法制御能力も向上しているようだ。そして、少し離れた場所では、リンドが朝日に深紅の鱗を輝かせながら、静かに瞑想するように佇んでいる。彼の体からは、以前にも増して強大な、しかし制御された魔力の波動が感じられた。竜魂との接触は、彼を目覚ましい次元へと引き上げつつあるようだった。
日中は、守人の警告を守り、中央神殿周辺を避けながら、遺跡の探索を続けた。複雑な構造の遺跡を歩き回り、時には新たな魔物と遭遇し、戦闘訓練も兼ねてこれを撃破する。経験値は着実に貯まり、俺たちは少しずつだが確実に力をつけていった。
探索中、時折、あの遺跡の守人と遭遇することがあった。彼は相変わらずフードを目深にかぶり、多くを語ろうとはしない。だが、以前のような敵対的な雰囲気は消え、俺たちの行動を静かに観察しているようだった。俺は機会を見て、彼に遺跡のことや古代文字について尋ねてみた。守人は直接的な答えは避けながらも、「その石版は、竜の試練について記されているのかもしれん」「この遺跡は、かつて竜と人が共存した時代の名残だ」など、いくつかの意味深なヒントを与えてくれた。彼との間には、奇妙な師弟関係のような、あるいは共闘前の腹の探り合いのような、微妙な空気が流れ始めていた。
リンドの成長は目覚ましいものがあった。飛行能力は完全に安定し、今では俺とプルを乗せてかなりの長距離を高速で飛行できる。ブレスも完全な炎となり、その威力は岩をも溶解させるほどだ。だが、同時に、何かが足りないような、力を完全に解放しきれていないような、もどかしさも感じられた。守人の言葉や、遺跡で見つかる竜に関する記録の断片は、リンドの真の覚醒には、何か特別な「鍵」――特定の場所、アイテム、あるいは試練――が必要であることを示唆していた。
(リンドの覚醒……それが、騎士団やアルヴィンに対抗するための、そして世界の危機に関わる鍵になるのかもしれない)
そんなある日、俺たちの束の間の平穏は、再び破られることになった。
「ぷるるっ! レント、大変!」
索敵に出ていたプルが、慌てた様子で俺の元へ飛んできた。
「どうした、プル!?」
「遺跡の外周、東側の森に、複数の人の気配! それも、この前の騎士団の人たちと同じような、冷たくて硬い感じ……!」
騎士団の斥候だ! やはり、諦めずにこの遺跡を探っていたのか! しかも、今回は東側から……ドワーダルとは逆方向から回り込んできたということか?
「数は?」
「はっきりとは分からないけど、少なくても10人以上……。すごく慎重に、遺跡の中の様子を窺ってるみたい……」
前回のアッシュ村周辺やドワーダルでの失敗から学び、今回は力押しではなく、時間をかけて情報収集と包囲網の形成を狙っているのかもしれない。『氷刃』自身はまだ姿を見せていないようだが、彼の指示で動いている精鋭部隊である可能性が高い。
(……ついに来たか)
俺は静かに立ち上がり、剣を握りしめた。この遺跡での休息と訓練の時間は終わりだ。
このまま拠点で迎え撃つか? 守人と連携して彼らを罠にかけるか? いや……あるいは、奴らが本格的に侵入してくる前に、俺たちが動くべきなのか? リンドの覚醒の鍵を求めて。
「奴らが来る前に、俺たちはもっと強くならなければならない。リンド、お前の力が必要になる時が来たのかもしれない」
俺は、何かを予感するように空を見上げているリンドに語りかけた。リンドは静かに俺を見つめ返し、力強く頷いた。プルも俺の肩に乗り、小さな体で精一杯の決意を示している。
俺は、守人が以前示唆した方向、そしてリンドが最も強く共鳴する場所――おそらくは遺跡の奥深く、中央神殿にも近い、危険な区域――へと視線を向けた。
騎士団の足音が、すぐそこまで迫っている。決断の時は、再び訪れていた。
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