【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる

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第1章

夜明けを待つ

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 竜魂の祭壇から拠点である塔へと戻った俺たちは、まず何よりも休息を優先した。リンドの覚醒は凄まじい力の向上をもたらしたが、同時に彼(そして試練を見守った俺たち)の心身にも大きな負荷をかけていた。時間停止空間から取り出した温かいスープとパンで腹を満たし、プルはリンドに寄り添って回復魔法をかけ、俺は静かに目を閉じて精神を集中させた。遺跡の夜は静かで、時折吹く春の夜風が、塔の隙間から入り込み、少し肌寒かった。

 短い休息の後、俺たちは覚醒したリンドの力を改めて確認し、制御するための軽い訓練を行った。塔の前の広場で、リンドは指示通りに炎のブレスの威力や範囲を調整し、驚くほど俊敏かつ安定した飛行を見せた。魔力感知能力も格段に向上しており、遠く離れた場所にいる小さな魔物の気配すら正確に捉えることができるようだ。

『主よ、この力…まだ完全ではないかもしれぬが、以前とは比較にならぬ』
 リンドのテレパシーには、自信と、そして自らの力への責任感が滲んでいた。
「ああ、頼もしい限りだ。だが、油断はするな。力は制御できてこそ、真価を発揮する」
「ぷる! リンド、すごいけど、無理しちゃダメだよ!」

 俺たちが訓練と調整に励んでいると、エルミナが静かに姿を現した。彼女は覚醒したリンドの様子を満足げに見つめ、そして俺に向き直った。
「…準備は整いつつあるようだな。だが、『氷刃』率いる本隊も、もう遺跡の深部へと迫っておるぞ。奴らは斥候部隊の轍を踏まぬよう、慎重に、しかし確実に包囲網を狭めてきておる」

「エルミナさん、何か策はありますか? あなたの力を借りられれば……」
「言ったはずだ。私はこの聖域の守り手。直接的な戦闘への加担はできぬ。だが、知識と、この遺跡の『力』を少しだけなら貸すことはできるやもしれん」

 エルミナは、騎士団の魔法使い(特に氷刃の氷魔法)への対抗策として、遺跡内に存在する熱気を帯びた鉱石の場所や、魔力を乱す効果のある古代の結界の残滓がある地点を教えてくれた。さらに、塔周辺の地形を利用した罠の設置についても、効果的なアドバイスを与えてくれた。彼女の知識は、俺たちの作戦をより確実なものにしてくれるだろう。

「氷刃は手強い。特にその剣技は、ただの魔法剣ではない。古き『氷の理(ことわり)』に連なる力の一端…油断すれば、竜の炎ですら凍てつかされよう」
「氷の理……」
「……今はただ、己と仲間、そしてその竜の力を信じることだ。それが、そなたたちの最大の武器となる」
 エルミナはそれだけ言うと、再び静かに姿を消した。

 俺はエルミナからの情報を元に、プル、リンドと共に最終的な作戦を確認した。塔を最終防衛ラインとし、周辺の遺跡や地形を利用した多重の罠で敵の戦力を削ぐ。リンドは空中からの奇襲と主力への攻撃を担当。プルは索敵と回復、そして罠の発動補助。俺は塔内部での防衛と遊撃、そして最終的に『氷刃』を討つ。

 ボルガン親方から託された小型爆弾も、最後の切り札として配置を確認した。【収納∞】の中には、回復ポーション、武器、食料、そして万が一のための脱出用具まで、考えうる限りのものを詰め込んだ。

 全ての準備が整った頃には、空は白み始め、東の地平線がわずかに明るくなっていた。決戦の朝が近づいている。
 俺は塔の窓から、星が消えゆく空と、朝靄に包まれた静かな遺跡を見渡した。追放され、辺境を彷徨い、多くの出会いと別れ、そして戦いを経験してきた。その全てが、この一戦に繋がっているような気がした。恐怖がないと言えば嘘になる。だが、それ以上に、プルとリンドというかけがえのない仲間と共に、理不尽な運命に立ち向かうことへの、強い決意が胸を満たしていた。

『主よ…』
「ぷる…」
 リンドとプルが、俺の隣に静かに寄り添う。言葉はなくても、互いの覚悟は伝わっていた。

 ――ゴ……ゴゴ……
 遠くから、微かな地響きが伝わってきた。そして、研ぎ澄まされた感覚が、多数の敵意と魔力の波動を捉える。

「……来たか」

 俺は静かに呟き、『星穿』を鞘から抜き放った。朝日を浴びて、その白銀の刃がきらりと輝く。

「さあ、最後の戦いだ。行くぞ、リンド、プル!」

 俺たちは塔の屋上へと駆け上がり、朝日が昇る東の空――そこに現れるであろう、王国騎士団の軍勢――を、揺るぎない決意の瞳で見据えた。

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