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第1章
真の覚醒
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氷刃率いる騎士団本隊を退けてから、しばらくの間、古代遺跡群――エルミナが言うところの『竜眠の聖域』には、束の間の平穏が訪れていた。とはいえ、俺たちがのんびりと休息に耽っていたわけではない。来るべき再戦、そしてアルヴィンとの最終決戦に備え、俺たちはエルミナの指導のもと、休む間もなく訓練と探索に明け暮れていた。
穏やかな春の日差しが降り注ぐ、遺跡内の開けた広場。俺は新しい剣『星穿』を手に、エルミナから教わった遺跡のエネルギーの流れを読む訓練に励んでいた。目に見えない魔力の流れを感じ取り、それを自身の剣技やスキルに応用する。簡単なことではないが、『星穿』の魔力伝導性の高さと、俺自身の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じていた。【収納∞】に関しても、時間停止空間の容量拡大や、より精密なアイテムの出し入れなど、さらなる応用を模索していた。
プルは、エルミナから古代の補助魔法を教わっていた。遺跡の魔力を利用して小さな結界を張ったり、俺やリンドの魔力を一時的に増幅させたりする術だ。もともと魔力操作に長けていたプルは、驚くべき速さでそれを吸収していく。索敵能力も聖域の環境に馴染み、以前よりも格段に精度と範囲が増していた。
そしてリンド。彼の成長は目覚ましかった。エルミナによる竜としての力の制御法の指導を受け、覚醒したばかりの荒々しさは影を潜め、その力はより洗練され、強力になっていた。炎のブレスは一点に集中させることも、広範囲を薙ぎ払うことも自在になり、飛行技術も向上し、複雑な空中戦にも対応できるようになっていた。テレパシーによる意思疎通も完全に安定し、その会話からは深い知性と、主である俺への絶対的な信頼が感じられた。
訓練の合間には、エルミナの案内で、これまで立ち入らなかった遺跡の区画も探索した。古代の図書館跡では、風化しつつも解読可能な石版がいくつか見つかり、俺はエルミナから教わった古代文字の知識を総動員して、その内容を読み解こうと試みた。そこには、「星霜の結晶」がかつては世界の調和を保つための巨大な魔力調整装置の一部であったことや、古代において竜と一部の人間が協力してそれを管理していたこと、しかし力の悪用を恐れた人間たちの裏切りによって竜が排斥され、結晶の力が不安定になった歴史などが断片的に記されていた。
「力は、それ自体に善悪はない。使う者の心次第で、聖なる恵みにも、世界を滅ぼす厄災にもなる……」
石版を読み解く俺の隣で、エルミナは静かに呟いた。彼女の言葉は、アルヴィンの野望の危険性を改めて俺に認識させた。
エルミナ自身の過去や、なぜ彼女が一人でこの広大な聖域を守っているのか、その謎はまだ解けない。だが、彼女が俺たちに知識と力を授けてくれるのは、俺たちに…特にリンドに、この世界の未来を託そうとしているからなのかもしれない。
しかし、聖域の中での穏やかな(?)日々は、やはり長くは続かなかった。遺跡の外周部を警戒していたプルが、新たな情報をもたらしたのだ。
「レント! 遺跡の周りに、また騎士団の気配が増えてる! 前みたいに近づいては来ないけど、遠巻きに包囲を固めてるみたい……!」
氷刃たちは諦めていなかった。直接的な攻撃は避けつつも、確実に俺たちをこの遺跡に閉じ込め、消耗させようとしているのか。あるいは、アルヴィン本体、もしくはさらなる増援の到着を待っているのか。
さらに、ドワーダル方面から戻ってきた渡り鳥(エルミナが使役している情報収集用の鳥だ)の情報によれば、王国中で「危険な赤竜を連れた賞金首レント」の触れ書きが出回り、高額な懸賞金がかけられているという。物資の流通も巧妙に制限され、俺たちが外部から補給を得るのを妨害しようとしているらしい。間接的な圧力も強まっていた。
「……時間がないな」
俺は静かに呟いた。このままではジリ貧になる。騎士団が本格的な行動を起こす前に、こちらも動かなければ。
「エルミナさん。リンドの『真の試練』について、詳しく教えてください。俺たちは、それに挑みます」
俺の決意を聞き、エルミナは静かに頷いた。
「よかろう。覚悟はできているようじゃな。最初の試練は、この聖域の北端にある『風哭きの頂(いただき)』で行われる。そこは、古より風の竜が己の力を試した場所。試練の内容は……風そのものとの対峙じゃ」
風との対峙? エルミナは続ける。それは、自然の猛威に耐え、風を読み、風と一体となることで、竜としての飛翔能力と環境適応能力を極限まで高める試練なのだと。
「リンド、プル。準備はいいか?」
『いつでも』
「ぷるっ!」
俺たちはエルミナに教えられた場所へと向かう準備を始めた。騎士団の包囲網を抜け、試練の地へたどり着くこと自体が、最初の試練となるのかもしれない。
「リンドの真の覚醒への第一歩だ。必ず乗り越えるぞ」
俺は決意を固め、プルとリンドと共に、拠点である塔を後にした。目指すは北の『風哭きの頂』。遺跡に潜む脅威と、外から迫る脅威。その両方に立ち向かいながら、俺たちの新たな挑戦が始まる。
穏やかな春の日差しが降り注ぐ、遺跡内の開けた広場。俺は新しい剣『星穿』を手に、エルミナから教わった遺跡のエネルギーの流れを読む訓練に励んでいた。目に見えない魔力の流れを感じ取り、それを自身の剣技やスキルに応用する。簡単なことではないが、『星穿』の魔力伝導性の高さと、俺自身の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じていた。【収納∞】に関しても、時間停止空間の容量拡大や、より精密なアイテムの出し入れなど、さらなる応用を模索していた。
プルは、エルミナから古代の補助魔法を教わっていた。遺跡の魔力を利用して小さな結界を張ったり、俺やリンドの魔力を一時的に増幅させたりする術だ。もともと魔力操作に長けていたプルは、驚くべき速さでそれを吸収していく。索敵能力も聖域の環境に馴染み、以前よりも格段に精度と範囲が増していた。
そしてリンド。彼の成長は目覚ましかった。エルミナによる竜としての力の制御法の指導を受け、覚醒したばかりの荒々しさは影を潜め、その力はより洗練され、強力になっていた。炎のブレスは一点に集中させることも、広範囲を薙ぎ払うことも自在になり、飛行技術も向上し、複雑な空中戦にも対応できるようになっていた。テレパシーによる意思疎通も完全に安定し、その会話からは深い知性と、主である俺への絶対的な信頼が感じられた。
訓練の合間には、エルミナの案内で、これまで立ち入らなかった遺跡の区画も探索した。古代の図書館跡では、風化しつつも解読可能な石版がいくつか見つかり、俺はエルミナから教わった古代文字の知識を総動員して、その内容を読み解こうと試みた。そこには、「星霜の結晶」がかつては世界の調和を保つための巨大な魔力調整装置の一部であったことや、古代において竜と一部の人間が協力してそれを管理していたこと、しかし力の悪用を恐れた人間たちの裏切りによって竜が排斥され、結晶の力が不安定になった歴史などが断片的に記されていた。
「力は、それ自体に善悪はない。使う者の心次第で、聖なる恵みにも、世界を滅ぼす厄災にもなる……」
石版を読み解く俺の隣で、エルミナは静かに呟いた。彼女の言葉は、アルヴィンの野望の危険性を改めて俺に認識させた。
エルミナ自身の過去や、なぜ彼女が一人でこの広大な聖域を守っているのか、その謎はまだ解けない。だが、彼女が俺たちに知識と力を授けてくれるのは、俺たちに…特にリンドに、この世界の未来を託そうとしているからなのかもしれない。
しかし、聖域の中での穏やかな(?)日々は、やはり長くは続かなかった。遺跡の外周部を警戒していたプルが、新たな情報をもたらしたのだ。
「レント! 遺跡の周りに、また騎士団の気配が増えてる! 前みたいに近づいては来ないけど、遠巻きに包囲を固めてるみたい……!」
氷刃たちは諦めていなかった。直接的な攻撃は避けつつも、確実に俺たちをこの遺跡に閉じ込め、消耗させようとしているのか。あるいは、アルヴィン本体、もしくはさらなる増援の到着を待っているのか。
さらに、ドワーダル方面から戻ってきた渡り鳥(エルミナが使役している情報収集用の鳥だ)の情報によれば、王国中で「危険な赤竜を連れた賞金首レント」の触れ書きが出回り、高額な懸賞金がかけられているという。物資の流通も巧妙に制限され、俺たちが外部から補給を得るのを妨害しようとしているらしい。間接的な圧力も強まっていた。
「……時間がないな」
俺は静かに呟いた。このままではジリ貧になる。騎士団が本格的な行動を起こす前に、こちらも動かなければ。
「エルミナさん。リンドの『真の試練』について、詳しく教えてください。俺たちは、それに挑みます」
俺の決意を聞き、エルミナは静かに頷いた。
「よかろう。覚悟はできているようじゃな。最初の試練は、この聖域の北端にある『風哭きの頂(いただき)』で行われる。そこは、古より風の竜が己の力を試した場所。試練の内容は……風そのものとの対峙じゃ」
風との対峙? エルミナは続ける。それは、自然の猛威に耐え、風を読み、風と一体となることで、竜としての飛翔能力と環境適応能力を極限まで高める試練なのだと。
「リンド、プル。準備はいいか?」
『いつでも』
「ぷるっ!」
俺たちはエルミナに教えられた場所へと向かう準備を始めた。騎士団の包囲網を抜け、試練の地へたどり着くこと自体が、最初の試練となるのかもしれない。
「リンドの真の覚醒への第一歩だ。必ず乗り越えるぞ」
俺は決意を固め、プルとリンドと共に、拠点である塔を後にした。目指すは北の『風哭きの頂』。遺跡に潜む脅威と、外から迫る脅威。その両方に立ち向かいながら、俺たちの新たな挑戦が始まる。
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