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第1章
荒ぶる風
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エルミナに教えられたルートを辿り、俺たちは竜眠の聖域の北端を目指していた。騎士団の包囲網はまだ完全ではないのか、あるいはエルミナが言っていたように、彼女が道中の障害を取り払ってくれたのか、追手の気配を感じることはなかった。だが、油断はできない。俺たちは常に警戒を怠らず、時には遺跡の地下水路跡を通り、時には崩れた建物の内部を抜け、隠密に行動を続けた。
遺跡の北端に近づくにつれて、風景は一変した。緑豊かな森や苔むした石造りの建物は姿を消し、代わりにゴツゴツとした岩肌が露出した、険しい山岳地帯が広がっていた。そして何より、これまで感じなかった強烈な風が、絶えず吹き付けてくるようになった。その風は、まるで意思を持っているかのように、唸り声を上げて岩の間を吹き抜けていく。
「ぷるる……風が強い……!」
プルが俺の外套にしがみつきながら言う。リンドも、強い風に翼を煽られながらも、険しい岩場を力強く登っていく。彼の本能が、この先にある『何か』を感じ取っているようだった。
やがて、俺たちは目的地の『風哭きの頂』へとたどり着いた。そこは、天に突き出すようにそびえる巨大な岩山の頂上、平らに削られた広大な岩の台地だった。遮るものは何一つなく、四方八方から暴風とも呼べるほどの強烈な風が絶え間なく吹き荒れている。ゴオオオッという風の音は、まるで何かが嘆き、哭いているかのようで、その不気味な響きが頂の名を表していた。
台地の中央には、長年の風によって奇妙な曲線を描くように削られた、巨大な石柱が数本、墓標のように突き立っている。その周囲には、古代の祭壇か儀式場の跡と思われる円形の石組みが残されていた。この場所全体が、尋常ではない風の魔力を帯びているのを肌で感じる。穏やかな春の日差しが降り注いでいるのが、場違いに思えるほどだった。
『ここが……風の試練の場か……』
リンドが、風に耐えながらテレパシーを送ってくる。彼の体は、この場所に満ちる力強い風の魔力に反応し、わずかに共鳴するように震えていた。
俺たちが台座の中央、石柱の間に立つと、まるでスイッチが入ったかのように、周囲の風がさらに勢いを増した! 渦を巻き、唸りを上げ、見えない刃のように鋭さを増していく!
「うわっ!」
「ぷるっ!」
俺とプルは思わず身を伏せる! だが、リンドは巨大な体で風に立ち向かうように、四肢を踏ん張り、翼を広げてバランスを取ろうとする!
ゴオオオオッ! ビュオオオッ!
風は容赦なくリンドを襲う! 竜巻のような突風が彼を吹き飛ばそうとし、真空の刃のような鋭い風が彼の鱗を切り裂こうとする!
「キュアアアッ!」
リンドは炎ブレスを放って突風を相殺しようとするが、風はすぐに勢いを取り戻し、彼の体を翻弄する。覚醒したばかりとはいえ、その力はまだ荒削りで、自然そのものの猛威の前には、力押しだけでは通用しないようだった。翼は風に煽られてバランスを崩し、巨体はよろめき、何度も地面に叩きつけられそうになる。
「リンド! 頑張れ!」
俺は声を張り上げる。この試練はリンド自身のものだ。俺たちが直接手助けすることはできない。できるのは、信じて、励ますことだけ。
「ぷるる! リンド、負けないで!」
プルも必死に声援を送る。
(力だけじゃない……エルミナは言っていた。風そのものとの対峙だと……。風の流れを読むんだ、リンド!)
俺はテレパシーで強く呼びかける。
「風は敵じゃない! 流れだ! 巨大なエネルギーの流れなんだ! それに逆らうな! 感じて、読んで、そして乗るんだ!」
『……流れを、読む……?』
風に翻弄されながらも、リンドは俺の言葉に耳を傾けていた。彼は必死に、荒れ狂う風の中に、法則性や流れの道筋を見出そうと集中し始めた。
その時、プルの索敵能力が何かを捉えた。
「ぷる! リンド、あそこ! 風が一瞬、弱まる場所がある! それと、こっちの流れは、上に向かってる!」
プルは、人間や竜には感知できないような、微細な風の流れの”隙間”や”道”を感じ取っているようだった!
『……! ……そうか……!』
プルの助言と、俺の言葉。それがヒントになったのだろう。リンドの瞳に、新たな気づきの光が宿った。彼は、闇雲に力で抵抗するのをやめ、翼の角度、体の向き、尾のしなりを微妙に調整し始めた。風の力を受け流し、時にはその流れを利用して体勢を立て直そうと試みる。
まだ完全ではない。何度も体勢を崩し、風に弄ばれる。だが、その動きは確実に、先ほどまでとは違っていた。彼は、荒ぶる風の中で、自分自身の力と、そして自然の力との調和点を探し始めていたのだ。
「……そうか、こうすれば……風と、一つに……!」
リンドが、風の中で初めて安定した姿勢を保ち、その流れに乗るための第一歩を踏み出した瞬間だった。試練はまだ始まったばかり。だが、確かな光明が見えた気がした。
遺跡の北端に近づくにつれて、風景は一変した。緑豊かな森や苔むした石造りの建物は姿を消し、代わりにゴツゴツとした岩肌が露出した、険しい山岳地帯が広がっていた。そして何より、これまで感じなかった強烈な風が、絶えず吹き付けてくるようになった。その風は、まるで意思を持っているかのように、唸り声を上げて岩の間を吹き抜けていく。
「ぷるる……風が強い……!」
プルが俺の外套にしがみつきながら言う。リンドも、強い風に翼を煽られながらも、険しい岩場を力強く登っていく。彼の本能が、この先にある『何か』を感じ取っているようだった。
やがて、俺たちは目的地の『風哭きの頂』へとたどり着いた。そこは、天に突き出すようにそびえる巨大な岩山の頂上、平らに削られた広大な岩の台地だった。遮るものは何一つなく、四方八方から暴風とも呼べるほどの強烈な風が絶え間なく吹き荒れている。ゴオオオッという風の音は、まるで何かが嘆き、哭いているかのようで、その不気味な響きが頂の名を表していた。
台地の中央には、長年の風によって奇妙な曲線を描くように削られた、巨大な石柱が数本、墓標のように突き立っている。その周囲には、古代の祭壇か儀式場の跡と思われる円形の石組みが残されていた。この場所全体が、尋常ではない風の魔力を帯びているのを肌で感じる。穏やかな春の日差しが降り注いでいるのが、場違いに思えるほどだった。
『ここが……風の試練の場か……』
リンドが、風に耐えながらテレパシーを送ってくる。彼の体は、この場所に満ちる力強い風の魔力に反応し、わずかに共鳴するように震えていた。
俺たちが台座の中央、石柱の間に立つと、まるでスイッチが入ったかのように、周囲の風がさらに勢いを増した! 渦を巻き、唸りを上げ、見えない刃のように鋭さを増していく!
「うわっ!」
「ぷるっ!」
俺とプルは思わず身を伏せる! だが、リンドは巨大な体で風に立ち向かうように、四肢を踏ん張り、翼を広げてバランスを取ろうとする!
ゴオオオオッ! ビュオオオッ!
風は容赦なくリンドを襲う! 竜巻のような突風が彼を吹き飛ばそうとし、真空の刃のような鋭い風が彼の鱗を切り裂こうとする!
「キュアアアッ!」
リンドは炎ブレスを放って突風を相殺しようとするが、風はすぐに勢いを取り戻し、彼の体を翻弄する。覚醒したばかりとはいえ、その力はまだ荒削りで、自然そのものの猛威の前には、力押しだけでは通用しないようだった。翼は風に煽られてバランスを崩し、巨体はよろめき、何度も地面に叩きつけられそうになる。
「リンド! 頑張れ!」
俺は声を張り上げる。この試練はリンド自身のものだ。俺たちが直接手助けすることはできない。できるのは、信じて、励ますことだけ。
「ぷるる! リンド、負けないで!」
プルも必死に声援を送る。
(力だけじゃない……エルミナは言っていた。風そのものとの対峙だと……。風の流れを読むんだ、リンド!)
俺はテレパシーで強く呼びかける。
「風は敵じゃない! 流れだ! 巨大なエネルギーの流れなんだ! それに逆らうな! 感じて、読んで、そして乗るんだ!」
『……流れを、読む……?』
風に翻弄されながらも、リンドは俺の言葉に耳を傾けていた。彼は必死に、荒れ狂う風の中に、法則性や流れの道筋を見出そうと集中し始めた。
その時、プルの索敵能力が何かを捉えた。
「ぷる! リンド、あそこ! 風が一瞬、弱まる場所がある! それと、こっちの流れは、上に向かってる!」
プルは、人間や竜には感知できないような、微細な風の流れの”隙間”や”道”を感じ取っているようだった!
『……! ……そうか……!』
プルの助言と、俺の言葉。それがヒントになったのだろう。リンドの瞳に、新たな気づきの光が宿った。彼は、闇雲に力で抵抗するのをやめ、翼の角度、体の向き、尾のしなりを微妙に調整し始めた。風の力を受け流し、時にはその流れを利用して体勢を立て直そうと試みる。
まだ完全ではない。何度も体勢を崩し、風に弄ばれる。だが、その動きは確実に、先ほどまでとは違っていた。彼は、荒ぶる風の中で、自分自身の力と、そして自然の力との調和点を探し始めていたのだ。
「……そうか、こうすれば……風と、一つに……!」
リンドが、風の中で初めて安定した姿勢を保ち、その流れに乗るための第一歩を踏み出した瞬間だった。試練はまだ始まったばかり。だが、確かな光明が見えた気がした。
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