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第1章
休めない
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次に俺が意識を取り戻したのは、見慣れた拠点の寝台の上だった。窓から差し込む柔らかな日差しが、部屋を暖かく照らしている。体の節々の痛みは残っているものの、魔力も体力も、かなり回復しているのを感じた。
「レント! よかった、気がついたんだね!」
傍らで心配そうに付き添っていたプルが、俺の覚醒に気づいて嬉しそうな声を上げる。その小さな体で、俺の頬にすり寄ってきた。
『主よ、ご無事で何よりです』
部屋の隅で静かに体を休めていたリンドからも、安堵のテレパシーが届く。彼の翼の傷も、プルの回復魔法と自身の治癒力でかなり癒えているようだった。覚醒した彼の回復力は、以前とは比較にならない。
「ああ…俺は、どれくらい眠っていたんだ?」
「丸一日くらいかな? プル、ずっとヒールしてたんだよ!」
『主の消耗は激しかった。だが、よくぞあの『氷刃』を打ち破られました』
プルとリンドに介抱されながら、俺はゆっくりと体を起こした。窓の外に広がるのは、穏やかな春の陽気に包まれた古代遺跡群の景色。激戦の爪痕は生々しく残っているものの、騎士団の脅威が去った後の、どこか清浄な空気が流れている。八王子周辺の丘陵地帯の春を思わせるような、穏やかな日差しだった。
体力が戻ると、俺たちは戦後処理に取り掛かった。塔の屋上や周辺に散乱していた騎士団の武具を回収する。氷刃が遺した冷気を纏う剣は、主を失ったためか、今はただの質の良い長剣に戻っていたが、何かの手掛かりになるかもしれないと思い、【収納∞】に保管した。他にめぼしい情報はなかったが、回収した装備は後でボルガン親方に鑑定してもらおう。
そして、地下に監禁していたゼノの元へ向かった。彼は俺たちの勝利を知り、完全に意気消沈していた。もはや抵抗する気力もないようだ。
「……ゼノ、お前をどうするか……」
俺が呟くと、タイミングを見計らったかのように、エルミナが静かに現れた。彼女はゼノを一瞥し、そして俺に向き直る。
「その者の処遇は、私に任せよ。あるいは、この聖域の『糧』となってもらうやもしれぬがな」
エルミナの言葉には、有無を言わせぬ響きがあった。ゼノは恐怖に顔を引きつらせている。俺は頷き、ゼノの身柄をエルミナに引き渡した。彼がどうなるかは分からないが、少なくともこれ以上、俺たちの邪魔をすることはなくなるだろう。
「レントよ。よくぞ氷刃を退けた。だが、奴の最期の言葉、聞き届けたか?」
「はい。『アルヴィンは止められん』と……」
「うむ。勇者アルヴィン…いや、もはや勇者の名には値せぬ者じゃが、奴は『星霜の結晶』の力を取り込み、人ならざる道へと足を踏み入れた。そして、間もなくこの聖域に現れるだろう。おそらくは、氷刃以上の力を持ってな」
エルミナは、中央神殿の封印の状態にも言及した。リンドの覚醒が良い影響を与えたものの、根本的な不安定さは解消されておらず、アルヴィンがその力を狙えば、容易に破綻する危険性があると。
「つまり、俺たちがアルヴィンを止めなければ、この遺跡も、そして世界も危ない、ということですね」
「左様。そして、それを成せるのは、古き竜の力を正しく継承したリンドと、その主であるそなた…特異なスキルを持つ者だけじゃろう」
エルミナの瞳が、俺を真っ直ぐに見据える。それは、単なる期待ではなく、世界の命運を託すかのような、重い眼差しだった。
逃げるという選択肢は、もはや俺の中にはなかった。
「分かりました。俺たちは、アルヴィンをここで迎え撃ちます。リンドの力、プルの力、俺の力、そして…エルミナさん、あなたの力も貸してください」
俺は頭を下げた。
エルミナは静かに頷いた。
「当然じゃ。この聖域と、古き竜の意志を守るため、私も最後の力を振るおう。アルヴィンを迎え撃つための準備を急ぐぞ。奴が来る前に、リンドの覚醒をさらに促し、そなた自身も、そのスキルの真価を引き出す必要がある」
エルミナの本格的な協力の申し出は心強かった。俺たちは、彼女の指導のもと、最終決戦に向けた最後の準備を開始した。遺跡に眠る古代の知識、リンドのさらなる力の解放、そして俺自身の【収納∞】スキルの限界を超えた応用。やるべきことは山積みだ。
「アルヴィン、氷刃……そして世界の危機。やるべきことは多い。だが、俺たちには仲間がいる。そして、この遺跡にはまだ力が眠っているはずだ」
俺は、隣で力強く頷くリンドと、決意に満ちた表情のプルを見た。そして、静かに俺たちを見守るエルミナにも。
追放者として始まった俺の物語は、いつの間にか世界の運命を左右する戦いへと繋がっていた。だが、不思議と恐怖はなかった。かけがえのない仲間たちと共に、必ず未来を切り開いてみせる。
最終決戦の時は、刻一刻と近づいていた。
「レント! よかった、気がついたんだね!」
傍らで心配そうに付き添っていたプルが、俺の覚醒に気づいて嬉しそうな声を上げる。その小さな体で、俺の頬にすり寄ってきた。
『主よ、ご無事で何よりです』
部屋の隅で静かに体を休めていたリンドからも、安堵のテレパシーが届く。彼の翼の傷も、プルの回復魔法と自身の治癒力でかなり癒えているようだった。覚醒した彼の回復力は、以前とは比較にならない。
「ああ…俺は、どれくらい眠っていたんだ?」
「丸一日くらいかな? プル、ずっとヒールしてたんだよ!」
『主の消耗は激しかった。だが、よくぞあの『氷刃』を打ち破られました』
プルとリンドに介抱されながら、俺はゆっくりと体を起こした。窓の外に広がるのは、穏やかな春の陽気に包まれた古代遺跡群の景色。激戦の爪痕は生々しく残っているものの、騎士団の脅威が去った後の、どこか清浄な空気が流れている。八王子周辺の丘陵地帯の春を思わせるような、穏やかな日差しだった。
体力が戻ると、俺たちは戦後処理に取り掛かった。塔の屋上や周辺に散乱していた騎士団の武具を回収する。氷刃が遺した冷気を纏う剣は、主を失ったためか、今はただの質の良い長剣に戻っていたが、何かの手掛かりになるかもしれないと思い、【収納∞】に保管した。他にめぼしい情報はなかったが、回収した装備は後でボルガン親方に鑑定してもらおう。
そして、地下に監禁していたゼノの元へ向かった。彼は俺たちの勝利を知り、完全に意気消沈していた。もはや抵抗する気力もないようだ。
「……ゼノ、お前をどうするか……」
俺が呟くと、タイミングを見計らったかのように、エルミナが静かに現れた。彼女はゼノを一瞥し、そして俺に向き直る。
「その者の処遇は、私に任せよ。あるいは、この聖域の『糧』となってもらうやもしれぬがな」
エルミナの言葉には、有無を言わせぬ響きがあった。ゼノは恐怖に顔を引きつらせている。俺は頷き、ゼノの身柄をエルミナに引き渡した。彼がどうなるかは分からないが、少なくともこれ以上、俺たちの邪魔をすることはなくなるだろう。
「レントよ。よくぞ氷刃を退けた。だが、奴の最期の言葉、聞き届けたか?」
「はい。『アルヴィンは止められん』と……」
「うむ。勇者アルヴィン…いや、もはや勇者の名には値せぬ者じゃが、奴は『星霜の結晶』の力を取り込み、人ならざる道へと足を踏み入れた。そして、間もなくこの聖域に現れるだろう。おそらくは、氷刃以上の力を持ってな」
エルミナは、中央神殿の封印の状態にも言及した。リンドの覚醒が良い影響を与えたものの、根本的な不安定さは解消されておらず、アルヴィンがその力を狙えば、容易に破綻する危険性があると。
「つまり、俺たちがアルヴィンを止めなければ、この遺跡も、そして世界も危ない、ということですね」
「左様。そして、それを成せるのは、古き竜の力を正しく継承したリンドと、その主であるそなた…特異なスキルを持つ者だけじゃろう」
エルミナの瞳が、俺を真っ直ぐに見据える。それは、単なる期待ではなく、世界の命運を託すかのような、重い眼差しだった。
逃げるという選択肢は、もはや俺の中にはなかった。
「分かりました。俺たちは、アルヴィンをここで迎え撃ちます。リンドの力、プルの力、俺の力、そして…エルミナさん、あなたの力も貸してください」
俺は頭を下げた。
エルミナは静かに頷いた。
「当然じゃ。この聖域と、古き竜の意志を守るため、私も最後の力を振るおう。アルヴィンを迎え撃つための準備を急ぐぞ。奴が来る前に、リンドの覚醒をさらに促し、そなた自身も、そのスキルの真価を引き出す必要がある」
エルミナの本格的な協力の申し出は心強かった。俺たちは、彼女の指導のもと、最終決戦に向けた最後の準備を開始した。遺跡に眠る古代の知識、リンドのさらなる力の解放、そして俺自身の【収納∞】スキルの限界を超えた応用。やるべきことは山積みだ。
「アルヴィン、氷刃……そして世界の危機。やるべきことは多い。だが、俺たちには仲間がいる。そして、この遺跡にはまだ力が眠っているはずだ」
俺は、隣で力強く頷くリンドと、決意に満ちた表情のプルを見た。そして、静かに俺たちを見守るエルミナにも。
追放者として始まった俺の物語は、いつの間にか世界の運命を左右する戦いへと繋がっていた。だが、不思議と恐怖はなかった。かけがえのない仲間たちと共に、必ず未来を切り開いてみせる。
最終決戦の時は、刻一刻と近づいていた。
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