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第2章
謎の接触者
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酒場で感じた視線と、氷刃に関する不穏な噂。交易都市リューンでの平穏は、早くも終わりを告げようとしていた。宿屋に戻った俺は、プルと共に状況を整理していた。
『主よ、氷刃は生きている可能性が高い。そして、何かを探している…』
「ああ。北の山道での目撃情報…偶然とは思えない。問題は、奴が何を探しているか、そして俺たちのことをどこまで掴んでいるかだ」
「ぷる…あの視線も、気持ち悪かった…」
リューンも安全ではない。長居は無用かもしれないが、このまま立ち去るのは危険だ。最低でも、あの視線の主と、氷刃の目的の手がかりくらいは掴んでおきたい。
翌朝、俺は再び街へ出た。ただし、昨日とは違い、最大限の警戒を払いながら。プルには常に周囲の索敵を頼み、俺自身も気配に神経を集中させる。春の朝の爽やかな日差しが降り注ぐリューンの街だが、俺の心は晴れなかった。
まずは冒険者ギルドへ向かい、北の山道での異常に関する依頼や情報がないか確認したが、公式には何も出ていなかった。ギルドマスターにそれとなく探りを入れてみても、「最近物騒な噂は多いが、確たる証拠がないとなかなか…」と歯切れが悪い。ギルドも何か掴んでいるのかもしれないが、俺のような新参の、しかも曰く付きの冒険者に、易々と情報を渡すつもりはないようだ。
次に商人ギルドや市場を回り、王国との交易状況や、最近変わった品物(特に古代遺物や強力な魔道具など)が流通していないか聞き込みをしたが、こちらも大きな収穫はなかった。ただ、「王国の政情不安で、以前は出回らなかったような武具や美術品が、裏ルートで流れてきている」という気になる噂は耳にした。氷刃が活動資金を得るために、あるいは協力者を得るために、裏社会と接触している可能性も考えられた。
情報収集に行き詰まりを感じ始めた、その時だった。
「……ぷるっ!(レント、また、あの感じ…! 今度は二人! あそこの屋根の上と、向かいの路地の角!)」
プルの警告! 昨日と同じ、監視の視線だ! しかも複数!
(…しつこい奴らだ。だが、好都合だ)
俺は気づかないふりをしつつ、わざと人通りの少ない地区へと足を向けた。そして、入り組んだ路地の角を曲がった瞬間、素早く身を翻し、追ってきたであろう相手を待ち構えた!
しかし、現れたのは予想していた黒服の密偵ではなかった。俺の前に現れたのは、ローブを目深にかぶり、顔を隠した一人の人物だった。その佇まいからは、敵意は感じられない。だが、底の知れない雰囲気があった。
「……驚かせてしまったかな、レント殿」
落ち着いた、それでいてどこか含みのある声で、相手は言った。俺の名前を知っている?
「あなたは……昨日の視線の主か? 何者だ?」
俺は警戒を解かずに問い返す。
「我々は、君の敵ではない。むしろ、目的は同じかもしれん」
「目的?」
「そう。王国にはびこる腐敗、そして…世界に災厄をもたらしかねない、禁忌の力に手を出そうとしている者たち…例えば、『氷刃』のような存在を、我々も追っている」
氷刃を知っている…? それに、王国に対抗するような口ぶり。この人物は一体…?
「…信じろと? あなた方の素性も知らないのに」
「信用は、これから築いていけばいい。今は情報交換と、場合によっては一時的な協力関係を結びたいと考えている。我々は君が『竜使い』であり、氷刃と敵対していることを知っている。そして、君が探しているであろう情報も、いくつか持っている」
相手の言葉は魅力的だった。だが、同時に胡散臭さも感じた。なぜ、俺に接触してきた? 彼らの真の目的は何だ?
俺はしばらく相手の気配を探ったが、敵意や嘘の気配は感じられない。プルも「…悪い人じゃ、なさそうだけど……」と呟いている。
「……いいでしょう。情報交換には応じます。ただし、あなた方の素性と目的を、まずは話してもらいたい」
俺がそう言うと、フードの人物は少しだけ頷いた。
「我々は、特定の組織に属する者ではない。ただ、王国の腐敗と、古代の力の悪用を憂い、それを阻止しようとする者たちの集まり…とだけ言っておこう。そして、我々が得た情報によれば、『氷刃』は失われた力を取り戻し、さらに強大な力を得るために、古代の『魔力増幅炉』と呼ばれる遺物を探している可能性が高い」
「魔力増幅炉……?」
聞いたことのない名前だ。アジトにあったのは「魔力増幅器」だったが、それと関連があるのか?
「ええ。各地に点在すると言われる、地脈のエネルギーを強制的に吸い上げ、増幅させる禁断の装置です。もし彼がそれを見つけ、起動させれば……その力は計り知れない。王国も、あるいは世界そのものが危機に瀕するやもしれません」
氷刃の目的は、やはり古代の遺物…。そして、その危険性は俺の想像以上だった。
「その魔力増幅炉がどこにあるか、心当たりは?」
「いくつか候補地はありますが、確証はありません。だからこそ、君の持つ情報…特に氷刃の痕跡や、彼が関わったかもしれない『鉱山の異変』についての情報が欲しいのです」
俺は少し考えた後、アジトで見た「魔力増幅器」のこと、そして氷刃を一度撃退したことなどを、一部伏せながら話した。フードの人物は、興味深そうに聞き入っていた。
互いの情報を交換し、俺たちはある程度の共通認識を得た。だが、俺はこの接触者のことを完全には信用できなかった。彼らの組織、真の目的、そしてなぜ俺に接触してきたのか。まだ多くの謎が残っている。
「…今日のところは、これくらいにしておこう。もし、何か進展があれば、また接触する。この印を」
フードの人物はそう言うと、小さな紋章が刻まれたコインのようなものを俺に手渡し、人混みの中へと素早く姿を消した。
俺は手の中のコインを見つめた。表面には、見たこともない奇妙な紋章が刻まれている。
「氷刃…魔力増幅炉…王国の侵略…そして、この謎の接触者…。事態は思ったより、ずっと複雑になっているな……」
新たな情報と、新たな疑念。リューンの街で、俺は次なる一手を探る必要に迫られていた。氷刃の動きを阻止することが、今は最優先だろう。あの「魔力増幅炉」とやらの在処を、彼より先に見つけ出すことはできるだろうか…?
『主よ、氷刃は生きている可能性が高い。そして、何かを探している…』
「ああ。北の山道での目撃情報…偶然とは思えない。問題は、奴が何を探しているか、そして俺たちのことをどこまで掴んでいるかだ」
「ぷる…あの視線も、気持ち悪かった…」
リューンも安全ではない。長居は無用かもしれないが、このまま立ち去るのは危険だ。最低でも、あの視線の主と、氷刃の目的の手がかりくらいは掴んでおきたい。
翌朝、俺は再び街へ出た。ただし、昨日とは違い、最大限の警戒を払いながら。プルには常に周囲の索敵を頼み、俺自身も気配に神経を集中させる。春の朝の爽やかな日差しが降り注ぐリューンの街だが、俺の心は晴れなかった。
まずは冒険者ギルドへ向かい、北の山道での異常に関する依頼や情報がないか確認したが、公式には何も出ていなかった。ギルドマスターにそれとなく探りを入れてみても、「最近物騒な噂は多いが、確たる証拠がないとなかなか…」と歯切れが悪い。ギルドも何か掴んでいるのかもしれないが、俺のような新参の、しかも曰く付きの冒険者に、易々と情報を渡すつもりはないようだ。
次に商人ギルドや市場を回り、王国との交易状況や、最近変わった品物(特に古代遺物や強力な魔道具など)が流通していないか聞き込みをしたが、こちらも大きな収穫はなかった。ただ、「王国の政情不安で、以前は出回らなかったような武具や美術品が、裏ルートで流れてきている」という気になる噂は耳にした。氷刃が活動資金を得るために、あるいは協力者を得るために、裏社会と接触している可能性も考えられた。
情報収集に行き詰まりを感じ始めた、その時だった。
「……ぷるっ!(レント、また、あの感じ…! 今度は二人! あそこの屋根の上と、向かいの路地の角!)」
プルの警告! 昨日と同じ、監視の視線だ! しかも複数!
(…しつこい奴らだ。だが、好都合だ)
俺は気づかないふりをしつつ、わざと人通りの少ない地区へと足を向けた。そして、入り組んだ路地の角を曲がった瞬間、素早く身を翻し、追ってきたであろう相手を待ち構えた!
しかし、現れたのは予想していた黒服の密偵ではなかった。俺の前に現れたのは、ローブを目深にかぶり、顔を隠した一人の人物だった。その佇まいからは、敵意は感じられない。だが、底の知れない雰囲気があった。
「……驚かせてしまったかな、レント殿」
落ち着いた、それでいてどこか含みのある声で、相手は言った。俺の名前を知っている?
「あなたは……昨日の視線の主か? 何者だ?」
俺は警戒を解かずに問い返す。
「我々は、君の敵ではない。むしろ、目的は同じかもしれん」
「目的?」
「そう。王国にはびこる腐敗、そして…世界に災厄をもたらしかねない、禁忌の力に手を出そうとしている者たち…例えば、『氷刃』のような存在を、我々も追っている」
氷刃を知っている…? それに、王国に対抗するような口ぶり。この人物は一体…?
「…信じろと? あなた方の素性も知らないのに」
「信用は、これから築いていけばいい。今は情報交換と、場合によっては一時的な協力関係を結びたいと考えている。我々は君が『竜使い』であり、氷刃と敵対していることを知っている。そして、君が探しているであろう情報も、いくつか持っている」
相手の言葉は魅力的だった。だが、同時に胡散臭さも感じた。なぜ、俺に接触してきた? 彼らの真の目的は何だ?
俺はしばらく相手の気配を探ったが、敵意や嘘の気配は感じられない。プルも「…悪い人じゃ、なさそうだけど……」と呟いている。
「……いいでしょう。情報交換には応じます。ただし、あなた方の素性と目的を、まずは話してもらいたい」
俺がそう言うと、フードの人物は少しだけ頷いた。
「我々は、特定の組織に属する者ではない。ただ、王国の腐敗と、古代の力の悪用を憂い、それを阻止しようとする者たちの集まり…とだけ言っておこう。そして、我々が得た情報によれば、『氷刃』は失われた力を取り戻し、さらに強大な力を得るために、古代の『魔力増幅炉』と呼ばれる遺物を探している可能性が高い」
「魔力増幅炉……?」
聞いたことのない名前だ。アジトにあったのは「魔力増幅器」だったが、それと関連があるのか?
「ええ。各地に点在すると言われる、地脈のエネルギーを強制的に吸い上げ、増幅させる禁断の装置です。もし彼がそれを見つけ、起動させれば……その力は計り知れない。王国も、あるいは世界そのものが危機に瀕するやもしれません」
氷刃の目的は、やはり古代の遺物…。そして、その危険性は俺の想像以上だった。
「その魔力増幅炉がどこにあるか、心当たりは?」
「いくつか候補地はありますが、確証はありません。だからこそ、君の持つ情報…特に氷刃の痕跡や、彼が関わったかもしれない『鉱山の異変』についての情報が欲しいのです」
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「…今日のところは、これくらいにしておこう。もし、何か進展があれば、また接触する。この印を」
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