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第2章
北の炭鉱
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リンドの覚醒した翼のおかげで、旅は驚くほど順調に進んでいた。街道を避け、緑深い森を抜け、岩がちな丘陵地帯を越えていく。
新緑が眩しい春の景色が広がっていたが、北へ進むにつれて空気は少しずつひんやりとし、木々の種類も針葉樹が目立つようになってきた。
道中、いくつかの魔物に遭遇したが、今の俺たちの敵ではなかった。
夜は、風を避けられる岩陰などを見つけて野営した。焚き火の暖かさが心地よく、満天の星空の下、プルやリンドと語り合う時間は、束の間の安らぎを与えてくれた。
『それにしても主よ、氷刃が探すという「魔力増幅炉」とは、それほど危険なものなのですか?』
「ああ。エルミナさんの話では、地脈のエネルギーを無理やり吸い上げて増幅する禁断の遺物らしい。もし悪用されれば、この辺り一帯が不毛の地になる可能性もある」
「ぷるる…そんなの絶対ダメだよ!」
『…必ず阻止せねばなりませぬな』
リンドも決意を新たにする。彼の覚醒した力は、あるいはこの世界のバランスを守るためにこそあるのかもしれない。
旅を続けることさらに数日。ついに俺たちの目の前に、目的地である「北の廃坑跡」があるという険しい山々が見えてきた。麓には、かつて鉱山で栄えたであろう小さな村が、今はほとんど廃村となって寂しく佇んでいる。そして、その村を見下ろすようにそびえる山の、中腹あたりに、ぽっかりと口を開けた坑道らしきものがいくつか見えた。
廃坑がある山岳地帯に近づくにつれて、空気中の魔力の流れが明らかに不安定になっていくのを感じた。濃密だが、どこか淀んでいて、不自然な揺らぎがある。
「ぷる…なんだか、空気が重い…気持ち悪い感じ…」
プルが不安そうに呟く。リンドも『…地脈の力が乱れておるのか? それとも…』と警戒を強めている。
俺たちはリンドの隠蔽魔法を使いながら、慎重に廃坑の入り口付近へと接近した。打ち捨てられたトロッコの残骸、錆びついた選鉱所の骨組み、風化した木製の支柱…。予想通り、人の気配はほとんどなく、廃墟特有の物悲しい静寂が漂っていた。
だが、注意深く観察すると、見過ごせない痕跡がいくつか残されていた。地面には、比較的新しい荷馬車の轍(わだち)の跡。焚き火が燃やされたであろう灰の山。そして……岩陰に、微かに残る冷気の残滓。それは、間違いなく氷刃が使う氷魔法の痕跡だった!
「……!」
俺は息を呑んだ。プルも「やっぱり…!」というように体を震わせる。
『間違いない…奴らは、すでにここに来ている…!』
リンドが低い唸り声を上げる。
氷刃、あるいはその先遣隊が、既にこの廃坑内部に入り、活動を開始している可能性が高い。魔力増幅炉は、この廃坑の奥深くに眠っているというのか?
俺たちは、すぐに内部へ突入するのを思いとどまり、まずは周囲の状況を探ることにした。プルの索敵能力と、リンドの魔力感知を最大限に活用し、廃坑内部の気配を探る。
(…内部に複数の気配。人間…いや、一部は魔物か? それとも…? そして、奥深くから、微弱だが、あの「魔力増幅器」に似た…もっと古く、強大なエネルギーの反応を感じる…!)
魔力増幅炉は、やはりこの奥にある可能性が高い。そして、氷刃の手の者たちが、すでに内部で何かをしている。
俺はリンドに、上空からの警戒と、いざという時のための待機を指示した。
「リンド、俺とプルで内部の様子を探ってくる。何かあればすぐに合図するから、いつでも動けるようにしておいてくれ」
『承知しました、主よ。ご無理はなさらないでください』
俺はプルを肩に乗せ、廃坑の入り口の一つ――比較的、人の出入りの痕跡が少なく、しかし奥へと深く続いていそうな坑道――を選んだ。【収納∞】から松明とロープを取り出し、『星穿』の柄を握りしめる。
「氷刃め、やはりここにいたか……。魔力増幅炉は、この奥にあるはずだ。奴より先に見つけ出し、その企みを阻止する!」
ひんやりとした、そして淀んだ空気が漂う暗い坑道へ、俺とプルは静かに足を踏み入れた。
新緑が眩しい春の景色が広がっていたが、北へ進むにつれて空気は少しずつひんやりとし、木々の種類も針葉樹が目立つようになってきた。
道中、いくつかの魔物に遭遇したが、今の俺たちの敵ではなかった。
夜は、風を避けられる岩陰などを見つけて野営した。焚き火の暖かさが心地よく、満天の星空の下、プルやリンドと語り合う時間は、束の間の安らぎを与えてくれた。
『それにしても主よ、氷刃が探すという「魔力増幅炉」とは、それほど危険なものなのですか?』
「ああ。エルミナさんの話では、地脈のエネルギーを無理やり吸い上げて増幅する禁断の遺物らしい。もし悪用されれば、この辺り一帯が不毛の地になる可能性もある」
「ぷるる…そんなの絶対ダメだよ!」
『…必ず阻止せねばなりませぬな』
リンドも決意を新たにする。彼の覚醒した力は、あるいはこの世界のバランスを守るためにこそあるのかもしれない。
旅を続けることさらに数日。ついに俺たちの目の前に、目的地である「北の廃坑跡」があるという険しい山々が見えてきた。麓には、かつて鉱山で栄えたであろう小さな村が、今はほとんど廃村となって寂しく佇んでいる。そして、その村を見下ろすようにそびえる山の、中腹あたりに、ぽっかりと口を開けた坑道らしきものがいくつか見えた。
廃坑がある山岳地帯に近づくにつれて、空気中の魔力の流れが明らかに不安定になっていくのを感じた。濃密だが、どこか淀んでいて、不自然な揺らぎがある。
「ぷる…なんだか、空気が重い…気持ち悪い感じ…」
プルが不安そうに呟く。リンドも『…地脈の力が乱れておるのか? それとも…』と警戒を強めている。
俺たちはリンドの隠蔽魔法を使いながら、慎重に廃坑の入り口付近へと接近した。打ち捨てられたトロッコの残骸、錆びついた選鉱所の骨組み、風化した木製の支柱…。予想通り、人の気配はほとんどなく、廃墟特有の物悲しい静寂が漂っていた。
だが、注意深く観察すると、見過ごせない痕跡がいくつか残されていた。地面には、比較的新しい荷馬車の轍(わだち)の跡。焚き火が燃やされたであろう灰の山。そして……岩陰に、微かに残る冷気の残滓。それは、間違いなく氷刃が使う氷魔法の痕跡だった!
「……!」
俺は息を呑んだ。プルも「やっぱり…!」というように体を震わせる。
『間違いない…奴らは、すでにここに来ている…!』
リンドが低い唸り声を上げる。
氷刃、あるいはその先遣隊が、既にこの廃坑内部に入り、活動を開始している可能性が高い。魔力増幅炉は、この廃坑の奥深くに眠っているというのか?
俺たちは、すぐに内部へ突入するのを思いとどまり、まずは周囲の状況を探ることにした。プルの索敵能力と、リンドの魔力感知を最大限に活用し、廃坑内部の気配を探る。
(…内部に複数の気配。人間…いや、一部は魔物か? それとも…? そして、奥深くから、微弱だが、あの「魔力増幅器」に似た…もっと古く、強大なエネルギーの反応を感じる…!)
魔力増幅炉は、やはりこの奥にある可能性が高い。そして、氷刃の手の者たちが、すでに内部で何かをしている。
俺はリンドに、上空からの警戒と、いざという時のための待機を指示した。
「リンド、俺とプルで内部の様子を探ってくる。何かあればすぐに合図するから、いつでも動けるようにしておいてくれ」
『承知しました、主よ。ご無理はなさらないでください』
俺はプルを肩に乗せ、廃坑の入り口の一つ――比較的、人の出入りの痕跡が少なく、しかし奥へと深く続いていそうな坑道――を選んだ。【収納∞】から松明とロープを取り出し、『星穿』の柄を握りしめる。
「氷刃め、やはりここにいたか……。魔力増幅炉は、この奥にあるはずだ。奴より先に見つけ出し、その企みを阻止する!」
ひんやりとした、そして淀んだ空気が漂う暗い坑道へ、俺とプルは静かに足を踏み入れた。
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