白き聖杖亭へようこそ!

餅蔵

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赤き竜と白き死神の物語

叡智の塔 7

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side:Siro



「先ずは私について話すとしよう」


 グレアが自分自身の生い立ち、そしてなぜここに監禁されるに至ったのかを話してくれた。

 内容は次の通りだ。


 魔都ウェンドラントはその昔、前司長による純潔至上主義の政治でエルフィン以外の種族を都市から排斥しており、ハルスエルフィンに至っては見つかれば処刑という徹底ぶりだった。

 だが、その司長本人が気まぐれで娶ったプレインの女性と子を成した。それがグレアだった。

 すぐさまその妊婦ごと処刑することが決まったが、まだ腹の中に居る時から彼は類い稀な力を持っており、妊婦の首を落とすはずだった断頭台の刃は妊婦の肌に触れた瞬間に灰となり崩れる。

 その後もあの手この手で妊婦を処刑しようとするも、同様に妊婦には傷一つつけることができなかったという。


 このプレインの女性は非常に気立が良く、優しい者であったため、侍女や執事たちはそんな彼女に協力的でグレアを無事に出産することができた。

 生まれたばかりのグレアの命を狙って、司長の差金で刺客たちが送り込まれたり暗殺が企てられたりしたものの、これもグレアに危害を加える前に全ては彼の圧倒的な力の前になす術なく終わる。

 このままでは忌々しき我が禁じ子に自分の地位や権力、全てを奪われてしまうと恐れた司長は、グレアの母であるプレインの女性を人質に取り、町外れの廃塔へとグレアを監禁した。


「母は善き人だった……だが愚かだった。あの男と一緒にならなければ苦難の中死ぬこともなかったし俺のような忌み子を産むこともなかった」

「でも、大切にしてくれたんですね、あなたの事を」

「ああ、私も母を愛していたよ……そういえば敬語は必要ない。私は今のウェンドラントでは平民だ。丁寧にする必要もない」

「その割にエラソーだけどよ」

「……」


 グレアがぎろりとレオンを睨むが、すぐに興味を無くしたように視線を逸らして話を続けた。


 国中の有能な魔導士たちが集められ、まだ子供だったグレアが閉じ込められた塔は彼らの魔術によって外界から隠蔽され、中からは出られないように強力な術がかけられた。

 食事も与えられず、この塔にあるのはただ禁書としてここに封じられていた本たちだけだった。

 幼いグレアは一人でこの塔に封じられていた禁書を全て読み解き、魔術を身につけ、生きるためにこの塔そのものを一つの生態系に変えた。

 魔族が迷宮を作り出すのと非常に似たもので、塔の中の空間を歪めて生き物が住めるような環境にし、衣食住を完全に自分一人だけで整えたのだという。


「んなことが出来んのかよ……」

「方法は大昔に研究されていてある程度確立されていたと聞いたことがありますが、実践した人は居ないと思いますぅ。普通の魔導士じゃ元素枯渇じゃ済まないと思いますし、膨大な時間がかかりますからねぇ」

「ヴァイスさんみたい」

「「「え??」」」

「白き聖杖亭もヴァイスさんが中の空間をいじっているよ」


 僕が突然冒険者の宿の長の名前を出したものでレオン達は怪訝な顔をしたが、事実、あの宿の中の空間はこじんまりとした外観に比べて2階の宿泊できる部屋の数は明らかに多い。

 なんなら宿泊状況に応じて増えたり減ったりもしているのだが、普段寝泊まりしているはずの冒険者にとっては見慣れた光景すぎて誰も気にしていなかったらしい。


「フン……ますます白き聖杖亭とやらに興味を持ったぞ」

「じゃあ一緒に来てくれるんだね」

「いいだろう。私の渾身の一撃を無傷で打ち破ったのだから、私より優れた力を持っていることを証明したということだ。前司長が死んで復讐の矛先も失せた。ここで朽ち果てるぐらいならば私の力を上手く使ってくれる所に身を寄せる方が幾分か良いだろうしな」

「シロが良いってんなら良いけどよ……いきなり攻撃してきた奴だぜ?信用できるのか?」


 レオンの言い分も尤もで、グレアは先ほどまでの高圧的な態度はなりを潜めて静かに頭を下げた。

 レオンもアイリスもソフィアも目を丸くしている。


「外がどうなっているか知る術がなく、前司長がまた私を始末しに寄越した刺客かと思ってな……立ち入れぬように仕掛けた術を解いて入ってくるなど、それなりの手練と見て先手を打たせてもらった。すまない」

「まァ……いいけどよ」

「実際、シロが上にいって暫くしたらすぐあの影の犬は居なくなってたしね」

「仲間が増えるのは嬉しいですぅ!……けど私はエルフィンですけど抵抗ないですかぁ?」


 不安げにソフィアが言うのも、グレアの経歴を聞けば無理はないだろう。が、当の本人は別段気にした様子もなく「外の国に出ているエルフィンということは貴様も謂わば似たような扱いを受けたのではないのか」と逆に問うた。

 ソフィアは少し俯いて頷く。


「私は今でこそ問題なくこの国に立ち入ることができますが、それまでは反逆者としてウェンドラントに帰ることは許されていませんでしたぁ。国を出るエルフィンも徹底的に排除の方向でしたからねぇ」


 シルフェストの平和さと比べて、ウェンドラントの状況は相当に窮屈なものだったようだ。

 さて、和解も済んだ所だが僕にはまだ話すべきことがあった。


「ついでと言ってはなんだけど、みんなに話しておきたいことがあるんだよね」


 全員の視線を受けて少し緊張するが、いずれは伝えるべきことと自分を奮い立たせて僕は立ち上がった。



8に続く



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