忘れられた姫と猫皇子

kotori

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フェリの誕生日 2

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 チャービーと一緒にフェリは部屋ではなく、半地下の厨房へと向かった。
 戸棚を開けて雑穀の袋を取り出す。
 チャービーたちには、小皿に雑穀を少し入れてあげ、自分の分は鍋に入れると、水と塩と一緒に自在鉤にぶら下げ火にかけた。
 別の袋から豆も少し取って加えた。その隣に置いてある玉ねぎは……。
 
「もう最後の一個か。これはまだ取っておこう」
 そう呟く。
 でもタンポポがあるし! 
 そう思うと少し嬉しい。でも……。
 でも、もう塩も残りわずか。
 薪はまだ少しある。
 レオンはそろそろ食材を足してくれるだろうか。そういえばもう、お茶の葉もこれで最後だ。

 フェリは迷ったが、今日はお誕生日だもの、と思い直し最後の茶葉でお茶も飲むことにした。
 自分で乾燥させたハーブならまだある。でも、あれはどうも今ひとつだからな……。やり方が下手なのかな……。
 そう思う。
 塩とお茶の葉と、あと、ベーコンとかあるといいな……。それと……。

 そこでフェリは考えるのをやめた。

 今ある幸せ。

 この前本で読んだ言葉だ。

 毎日ポリッジかカチカチのパンしかなくても、持ってきてもらえるだけ、住む所があるだけ、それで充分。幸せだ。
 それにさっき黒苺を見つけたし。
 それからもうすぐ、フェリのキッチンガーデンに新しい玉ねぎができるだろうし。そうだ、それからそろそろイチジクがなるはずだ。

 ほら。中々いい事が続く。

 フェリは公爵の娘……といっても、母は側室。それも出自のわからない上、今は行方しれずなのだから。ありがたく思わなければならない。


「寝る所があるだけでもありがたく思いなさい!」


 ステラの口癖だ。
 ステラは一応フェリの家庭教師だ……。
 といっても、何かを教えてもらった記憶はないけれど

 そして、レオンはこの館の執事だ。
 フェリを怒鳴るときのステラやレオンの目は、とことん冷たく突き刺さる。
 その目で見られると、いつもフェリは自分が泥まみれの汚い犬の子供になったような気がするのだった。

 ……でもまあ……。
 泥だらけの子犬だって、洗えばちょっとは見られるものだし……。
 フェリはそう考えることにする。

 犬というか……、ヤギ、とか……いたらいいのにな。
 牛では大きすぎるよね。
 鶏ならこっそり飼えるかな。

 チャービーがフェリの膝に飛び乗ってきた。
 フェリはその頭を撫でる。
 滑らかな手触りに思わず頬が緩む。

 ウサギを撫でながらポリッジを食べ、洗って塩を振ったタンポポサラダを食べ、お茶を飲みながらフェリは妄想を続ける。

 卵……。
 ウサギは卵……産まないよねえ。
 卵かあ。
 毎朝卵があったら嬉しいな……。
 鶏飼えたらいいのになー。

 ほんとのことを言えば、もういっそここを出て働きに行きたい。農場とか牧場とかに行けたらいいなあ、と思う。

 でも、今フェリには……それよりやりたいことがあるのだ。

 フェリは天井近くの窓から降り注ぐ、キラキラした光をぼんやり眺めた。

 ……とにかく。

 とにかく今日はいい天気だ。出かけなくちゃ。

 まだ膝に乗ってるチャービーと足元に絡まるほかのチャービーを廊下へ出してやる。
「お外へおかえり。お前たちのお母さんが待ってるかもよ」
 でも三匹はなかなかフェリから離れない。
 フェリに続いて階段を登ろうとする。
 フェリが笑い声をあげようとしたとき、上から足音が聞こえた。

 誰かが階段を降りてくる。

 フェリはドキッとして近くの部屋に飛び込んだ。
 二匹のチャービーは一目散に走り去る。
 一匹だけ残ったチャービーをフェリは抱き上げ、ギュッと抱きしめた。
 足音が部屋の前を通り過ぎていく。
 扉を少しだけ開けて見ると、ステラが足早に通り過ぎるのが見えた。

 やっぱり。

 フェリはその後ろ姿を見送った。
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