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猫皇子 2
しおりを挟むそれからもランドルは何度か目を開け、また閉じ──。
次第に目を開けている時間が長くなってきた。
そして、目を覚ますと、たいてい子供がこっちを見ていた。
今も目の前にいるこの子供。
緑の目をして金色の髪をした子供──これが自分を助けてくれたというフェリシア──らしい。
この子が母親である妖精の女王に頼んで、自分を助けてくれた──。
グリッグ──いつかの男はそう言っていた。
妖精──。
まさか、そんなものが本当に存在して、しかも自分が関わることになるとは驚きだが、今の自分を見る限り信じるしかなかった。
そして、このフェリシアだが──。
ランドルは思い出した。
西宮──ランドルの住まう宮──に何度も潜り込んでいた子供だ。
今は女子の身なりをしているが、あのときはいつも少年の格好だった。
初めは、どこかから偶然入り込んだのかと思った。
西宮には、ランドルを団長とするグランデ騎士団が常駐している。すぐさま、騎士たちに子供をつまみ出すよう命じたが、彼らはその子供を捕えることができなかった。
怖がって逃げ出したのかと思いその日は諦めたが、なんとこのフェリシアは、別な日にも現れたのだ。
そして驚くべきことに、その日も騎士たちはフェリシアを捕まえることが出来ずに終わった。
いくら宮の庭が広いといっても、おかしい。
ランドルは騎士たちに、この庭にネズミ一匹侵入させるな、と厳しく命じた。
だが──。
だが、この子供──フェリシアは気づけば入り込んでいるのだ。
何度かランドル自身も庭を探索した。しかし、少し前に間違いなくその姿を見たと思った場所は、いくら探しても誰もいなかった。
フェリシアがよほどすばしこいのか。それとも、もしかすると騎士たちがいい加減な仕事をしていたのか。
今となってはわからない。
なんせ、あの──ランドルを襲った覆面の男たちの何人かは、グランデ騎士団の者だったのだから。
とにかく、フェリシアは間違いなくあのときの子供だった。
そして、てっきりそこらの小作人の子かと思っていたら、なんとリンジー・サムエル・ラムズの妹だという。
意外な正体にランドルは驚いた。
リンジーといえば、皇帝の側近ラムズ公爵の長男で、グランデ騎士団の副団長だ。そしてランドルの学友でもあった。
なぜその妹がここに?
全く知らなかったが、彼に妹は二人いたのか。
一人は知っていたが──何せ上の妹ラティーシャはランドルの許嫁だった──この子は知らなかった。
──いや。
──随分前の記憶が浮かんできた。
そうだ、リンジーと聞いて思い出した。
一度会ったことがあるかもしれない。
昔、リンジーの誕生パーティーに来ていた子供が、この子ではなかっただろうか。
あのとき、ランドルをみて聖堂の絵だとか言ってた子供だ。
あの子がそうだというのなら──。
結びつかなくても仕方がない。
あの時の小さな令嬢と、男のなりをして庭を飛び回っている子供が同じ者だと、誰が思うだろうか。
「なんてきれい……」
すぐ側でフェリシアがそう言うのが聞こえた。
そちらを見ると、フェリシアの顔がすぐ目の前にあった。
記憶を辿ってみると、目の前のフェリシアの顔は、間違いなく庭に入り込んでいた子供であり、また、どこかあの小さな令嬢の面影を残してもいた。
「撫でてやりなよ」
隣でグリッグがフェリシアにそんなことを言っている。
「だめだよ」
フェリシアはなぜか顔を赤らめた。
「お、ラ、ランドル皇子にそんな畏れ多い」
「畏れ多い? なんだそれ、猫だろ? 猫」
「え、でも……」
「頭とか耳の付け根とか、撫でると喜ぶぞ」
「ええっ、そ、そんなこと……」
「いいからいいから」
グリッグがフェリシアの手を引っ張る。その手が自分に触れる直前、ランドルはひらりとかごから飛び出した。
「あっ! ほら! 皇子がっ!」
後ろでフェリシアの声が聞こえたが、そのまま館の中を散歩することにした。
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