忘れられた姫と猫皇子

kotori

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公爵邸 2

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 ランドルは自分を捕まえようとする侍女たちから逃げて邸の奥へと進んだ。
 
 この邸は昔何度か訪ねたことがあった。
 
 そう、ラティーシャと婚約した時、それからその後何度か晩餐会に呼ばれた時訪れていた。
 訪れたのはほとんど公的な部屋だったが、そういえば一度このあたりにも来たことがある。

 ここから奥は私的な部屋があるはず。

 そう思って、ロングギャラリーになっている廊下を進むと、押し殺したような声が聞こえてきた。
 ちょうどギャラリーの中程にあるアルコーブで男が二人言い争っている。

「何度も言うが、グランデ騎士団の団長はいつからネイハムになったのだ! 私はネイハムが団長なら騎士団から抜ける」
「いい加減にしろ! よく考えてみろ!」
 ランドルがそっと見上げると、見覚えのある顔だった。
 ジェメル子爵の嫡男ニール。それからスコールズ男爵の次男デリックだ。
 二人はランドルのひとつ年下だ。たしか幼馴染と言っていたはずだ。入団したのも一緒だし、仲がいいとばかり思っていたが──。

 デリックは見慣れた青いマントを左肩につけているが、ニールは初めて見る薄紅色のマントをつけている。
 グランデ騎士団の上衣コートは水色と白なので、そのマントは妙に浮いて見えた。

「契約書を見ただろ!」
 ニールが押し殺した声で詰寄る。
「あんなもの! 俺は信じない」
「だからってランドル皇子を待ってるつもりか! 無駄だ! 諦めろ!」
「なぜそう言い切れる!」

 デリックはニールの胸ぐらを掴んだ。

「皇子は必ず帰ってきてくださる! だいたいお前、なぜ殿下は帰らぬと確信を持てるのだ。──まさか、お前──」
 ニールはデリックから目を逸らした。
 デリックはそのままニールの胸をドン、と突いた。ニールがよろめく。

「俺は──、俺は絶対にネイハムの下にはつかない」

 そう言い捨て、デリックはランドルのすぐ側を足音荒く通り過ぎて行った。
 ランドルはひっそりとそれを見送った。

 
 
 
 フェリは誰もいなくなってから戻ってきたグリッグと、邸の奥へ進んだ。
 そしてグリッグに案内されて入り込んだ部屋は……、眩しいばかりの衣裳部屋だった。
 
「すごい部屋……」
 意気込んで入ったフェリは、目を丸くした。

「この邸って一体何人女の人がいるの?」
 するとグリッグが笑い声をあげた。
「フェリ、このドレスはみんなここの娘、お前の姉のだ」
「……え?」
 フェリは目をぱちぱちさせた。
 これ、全部……?

「だって……」

 ドレス、またドレス、それから靴、ガウン、外套……。
「毎日違うのを着るの?」
 それからはっとした。
「もしかしたら、集めるのが好きなの? あっ、だから私のドレスも欲しかったの?」
 グリッグは「ちょっと違う、それよりこっち」とさらに奥の部屋へとフェリを連れていった。

 前の部屋より小さいその部屋は、たくさんの箱とたくさんのチェストがある。いつの間にか人の姿になったグリッグが、
「さあフェリ、ここに見覚えのある物はある?」と言った。
 と、その言葉と同時に全ての引き出しが開き、全ての箱の蓋が開いた。

 中には美しい宝石、アクセサリーが溢れている。
 髪飾り、ブローチ、ペンダント、ブレスレット、指輪、小さなバッグ、傘、手袋……。

 えええっ。

 フェリは心の中で叫んだ。
 わ、わかんないよ! 
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