忘れられた姫と猫皇子

kotori

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公爵邸 3

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 ランドルは廊下の奥に見覚えのある部屋の扉を見つけた。
 
 前にその部屋に来たのはたしか、ラティーシャに呼ばれてのことだった。私的な応接間だった。
 と、侍女たちがやってきてその部屋を開けた。ぱたぱたと何人かが出入りして何かの準備をしている。
 ランドルはするりとその部屋へ入り込んだ。

 部屋の中は、なんだか気に入らない香りがした。香を焚いたのだろう。甘ったるい香りを嗅いだら、あの時のことが思い出された。
 
 そうだ。
 あの時もこの香が焚かれていた。

 ラティーシャは気分が悪いと言って、ランドルの腕を引っ張ったり、横になりたいともたれかかってきたりしたのだった。
 なので、ランドルは気分が悪いのはこの香のせいではないかと言って、侍女を呼んでやったのだ。
 
 と、扉が開いて、ラティーシャ本人が入ってきた。

 久しぶりに見るラティーシャはドレスの裾を慎重に広げて、長椅子にふわりと座った。
 その姿はなんだか飾り立てた孔雀のようだった。
 そして彼女からもこの部屋に焚きしめてあるのと同じような、甘ったるい匂いがした。

 付き添っている侍女が、座ったラティーシャに手鏡を差し出す。それを受け取って、ラティーシャはじっくりと自分の顔を眺めた。

「ダメね。やっぱりイヤリングは珊瑚にしましょう。このブローチとちょっと合わないかと思ったけれど、やはりあっちの方がいいかもしれない」
「かしこまりました」
 それを聞いて別な侍女が部屋を出ていく。
「次のドレスはもっと胸元が開いたものにしようかしら」
「それがよろしいかと……」
 ランドルは部屋の隅の飾り棚の下にひっそりとうずくまった。


 
 
 隣のドレスルームの扉がバタンと開き、フェリは硬直した。
 グリッグはまた鳥になって天井近くに潜み、全ての引き出しと箱の蓋が閉じていく。
 フェリが壁際にくっつくのと同時に、女の人が入ってきた。
 フェリのすぐ目の前を通り過ぎ、フェリのすぐ隣の引き出しを開けると青ざめて呟いた。
「珊瑚のイヤリングって、どれだろう。どうしよう。間違えたら鞭で打たれる……」

 その瞬間、パッとフェリの頭に記憶が浮かんだ。
 
 私のネックレスを盗ったでしょ!
 
 そう言ってラティーシャがフェリに鞭を振り上げた……。
 
 引き出しをガタンと閉めた音に、フェリがハッとすると、女の人は涙ぐみながら、イヤリングを革のトレーに載せて部屋を出ていった。
 と、人に戻ったグリッグがまた引き出しを開け始めた。
「誰も来ないと思ったら来たなあ」
 呑気にそんなことを言っているが、フェリはドキドキした。
「急がないと……。こ、こんなにたくさん……」
 まったく軽く考えていた。まさかこんなに物が多いとは……。フェリが焦っていると、グリッグが部屋を見回しあっさりと言った。

「アビ、ここにはないね。どう?」
 アビは部屋の中をくるくる回りながら
「そうだねえー。ないねー」
 と答えた。

 えっ、もう分かるの?
 フェリが驚いていると、アビはそのままフェリのそばまでやって来て、
「でも、あれはちょっと、エイデイーン様がある」

 ん?
 フェリは、アビが指した方を見た。

「エイデイーン様がある、って変だろ」
 そう言いながらグリッグが持ち上げたのは小さな宝石箱だった。

「これ、フェリのだし!」
 アビが尖った声を上げた。

「え……」
 そうだっけ?
 確かにその金に真珠が散りばめられた宝石箱には、フェリの頭文字Fを象ったカメオが嵌め込まれていた。
 そして開けると、中にはたくさんのジュエリー……。
 所々にルビーの入った細い金鎖や小さなブローチ。宝石を繋げた紐などいかにも子供が持つような可愛い物が輝いていた。

「これ、私知ってる。これもこれも……それからこれも。みーんなフェリのお父さんがフェリにくれた物よ」
 アビは、ジュエリーの上を飛び回ってグリッグに教えた。
 公爵はフェリの瞳の色を覚えていたのだろうか、それはエメラルドや金のアクセサリーが多かった。

「全然……覚えてない」
「フェリは小さかったからね」
 アビが優しくそう言ってくれる。
「あ、でも……」
 フェリはエメラルドのブレスレットだけ手に取った。
「でもこれは……、去年のお誕生日に貰った物のような気がする。よくは覚えてない、けど……」
「そっか」

「ねね、これもほら、これもエイデイーン様あるでしょ?」
「だなあ」
「?」

 意味がわからないフェリにグリッグが説明してくれた。

「おそらくエイデイーン様が選んだか、持ってた物だな。魔力は無いけど……そう、残り香みたいなものがある」
「……そうなの……」
 残り香……。
 じゃあ魔力は無い、のか。
 ランディを元に戻すお手伝いは無理か……。
 フェリはがっかりした。

「持って帰ろう、フェリ」
 アビがそう言って金鎖を引っ張る。グリッグがそれを止めた。
「今日は置いていく」
「えー」
 アビが怒って、グルグル回り出した。それをグリッグは片手を挙げてサッととめると
「でも絶対取り返す」
 そう言ってフェリの頭を撫でた。
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