忘れられた姫と猫皇子

kotori

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衝撃

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 私が兄を毒殺した。
 そんな話が出回っているのか。
 
 しかし、それを信じてしまう者がいるのならば、それは自分の不徳が招いたことなのかもしれない。
 
 ランドルはそう思った。
 しかしフェリはきっぱりと言い切った。
 
「それは、信じる者が莫迦者なのです」
 
 ランドルは笑ってしまった。
 こんな時なのに、フェリがそう言ってくれるのが、そして目を開けてちゃんとランドルを見てくれるのが、嬉しかった。
 だが、何とかしなくてはならない。父上は信じて下さっていると思うが──。
 もう少しこの身が安定すれば、すぐにでも皇宫へ行くのだが。

 そんな事を思いながら、ランドルはフェリを見ていた。
 フェリは今、リンジーとダンスの練習をしている。
 公爵は、フェリを公爵令嬢として建国祭で披露するらしい。エスコートはリンジーのようだ。

 ランドルはそれが面白くなかった。
 自分がエスコートしたい。
 自分がフェリを披露したい。
 リンジーは兄だし、自分はまだ色々な意味で姿を出せないから仕方ないのだが。
 ランドルはダンスの練習を見ながらもんもんとしていた。
 
 じっと二人を見ていると、リンジーと目が合った。
 リンジーがフェリに尋ねる。
「あれは、フェリの猫?」
 フェリは、え……と言葉を詰まらせた。
「あ、はい。……でも、私の、っていう訳ではなくて、その……」
 顔が赤い。
 ほんとに可愛い。

 ランドルは、思わずフェリに近づいた。
「ランディ」
 フェリがそう名前を呼んでくれる。
「綺麗な猫だな」
 リンジーがそう言うと、フェリは嬉しそうに、
「はい!」
 と答え、いつものようにランドルを抱き上げた。
 あ、これは──。

「まずい」
 
 思わずそう言ったときはもう遅かった。
 ランドルは人の姿に戻っていた。
 
「──どうも、フェリのそばに来ると、コントロールが効かないな」
 そう言ってフェリを抱き寄せる。
「……」
 フェリはランドルの腕の中から、怖々リンジーの方を向いた。
 ランドルもフェリからリンジーへ目を向ける。
 
 リンジーは固まっていた。
 
 ここで明かすつもりはなかったのだが──。どうだろう、ごまかしたりは──。

 三人でしばらく身動きせずにじっとしていると、リンジーが叫んだ。
 
「ラ! ……ラ、…………ランドル……?」
 
 最後は囁くような、震えた声になった。

 仕方ないか。

「──久しぶりだな」
 ランドルはそう答えた。
「い、今までどこに……」
 リンジーはそう言い、まじまじとランドルを見た。

「今、猫だったか?」
「気のせいじゃないか?」
 リンジーは穴のあくほどランドルを眺め、言った。
 
「猫だった」
 
 そして、その目が潤み、リンジーはランドルの肩をガシッと掴んだ。
「生きていたのか。
 無事だった。
 無事だったんだな!」
 と叫ぶ。

「幽霊でも猫でも何でもいい。
 無事だったならいい」
 ランドルもリンジーの肩を掴んだ。
「ああ。この通りだ。
 無事だ」

 ランドルは喜んでくれているリンジーを見て、胸が熱くなった。
 彼は昨日もランドルを信じると言ってくれていた。

「リンジー──。
 ありがとう」
 ランドルはその言葉だけ、押し出すように言った。ふと見ると、フェリが涙を流していた。ハンカチも使わず、手のひらで一生懸命涙を拭っている。
 ランドルはフェリの肩を抱き寄せた。

「ランドル、殿下」
 リンジーが、今度はひどく真剣な目で言った。子供の頃のような口調も直してしまう。

「それで……一体何があったのです?
 誰かが、殿下に何か危害を加えたのですか?」
 ランドルは、それには小さく頷いたが、
「それより、リンジー」
 と返した。
 ランドルも真剣な表情だ。

「お前、フェリシアになんてことをしてたんだ」
 表情が険しくなる。

「え?」
 リンジーは呆けた顔をした。
「自分の妹のことを、何年も放置するとはなんてやつだ」
「え? あ、……いや、それは本当にすまなかった……が……、どうしてランドル、いや、殿下が?」
「妹なのに、気にもしなかったのか?」
「や、それは、病気だからと……」
「なら、余計に気にならないのか」
「か、顔を見られたくないと聞いて……」
「それでも不憫に思わなかったのか」
「でで、殿下?」

 そこでフェリがランドルの袖を引っ張った。
「あ、あの、お兄様はたくさん申し訳ないと言ってくれました」
「フェリはいいから」
「でも」

「ランドル!」
 リンジーは両手を揚げた。敬語が崩れていく。
「本当にすまなかったと思っている。
 言い訳にしかならんが、それでも見舞いの品を届けたりはしていたんだ。ただ、義母経由だったので……」
「どうして直接届けないんだ」
「ランドル! だって考えてみろ、妹ってのはあんなものと思ってたんだ」
 
 あんなもの。
 
 ──ラティーシャ。
 
 ランドルは、少し怒りを沈めた。

「そうだな。──私も、女とは、あんなもの、と思っていたからな」
「しかし、ランドル、まさかお前……」
 リンジーはフェリを見た。

「フェリシアが好きなのか?」
 
 ──好き?
 
 ランドルは驚いた。
 
 フェリが可愛くて可愛くて、見てると幸せで──。
 愛おしくて──。
 
 ──そうか。
 
 ──そうだ。
 私はフェリが好きなんだ。
 
 ランドルは頷いた。

「もちろんだ」
 フェリがひゅっと息を呑むのがわかった。
 フェリの顔を見ようとすると、リンジーに腕を掴まれた。
 
「なんだ」
 
 リンジーは呆気に取られていた。
「あ……いや、……」
 口をぱくぱくさせている。
 そのリンジーに言った。
 
「建国祭だが、二日目は仮面舞踏会にしてくれ」

「……え?」
「私もフェリをエスコートして、一緒に踊るから」
「皇宮に来るのか」
「行く」
「……」
「フェリと踊って、それと、私を斬った者を捕える」
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