忘れられた姫と猫皇子

kotori

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仮面舞踏会 4

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 宮廷楽士ジェイル・ストリンガー男爵は、痛い程の静寂の中、ふと微かな音楽を耳にした。
 
 シェリル・オーティス子爵令嬢は、綺麗な光がスッと目の前を横切るのを見た。
 
 騎士ルース・バレットは、自分の中指位の小さな人が目の前を通り過ぎるのを呆気に取られて見た。
 
 エイブ・ドレイク卿は笑い声を耳にすると同時に、小さなこどもたちが背中の羽で羽ばたきながら輪になるのを見た。
 
 アメリア・デイル伯爵令嬢は、蝶が薔薇の花の車を引くのを見た。
 
 騎士ウォーレス・ローダーは二つの玉座の間に、いつの間にか人の背丈ほどの扉があることに気づいた。
 
 テルシェ・メリル・ラムズ公爵夫人は、自分のマスクが外されそれが蝶のようにどこかへ飛んでいくのを見た。
 
 ランダル・デイル伯爵は足元を何かが通り過ぎるのを感じた。
 
 ラティーシャ・ブロー・ラムズは、何かに突然髪を引っ張られた。
 
 今まさに剣を打ち合わせていた騎士ニールとデリックは、剣の間に不気味な顔があることに気づき飛び退った。
 

 静まり返った広間に、どこからか様々な音が響きだした。

 
 鳥の羽ばたき、笑い声、歌声、ラッパの音、笛の音。
 
 人々は、その音が流れて来る場所を見つめた。

 それは。

 今や玉座と並ぶ程に大きくなった扉だった。
 
 扉が細く開き、きらきらした光がもれ、そこから何かが次々こちらへ入ってくる。
 それは見たことのない、小さな人々、蝶、小鳥……。どれも空を楽しげに飛んでくる。
 
 と、突然扉が音を立てて大きく開いた。
 一瞬のうちに扉は玉座を超え、見上げるほどの大きさになっている。
 大きく開いた扉の向こうから、突風が吹きつけた。
 
 突風と一緒にたくさんの黒い影が飛び込んできた。
 
 人々は声なき悲鳴をあげた。
 
 それは真っ黒い犬だった。
 歯をむき出し唸り声をあげ、自然と左右に別れた人々の間を進んでいく。
 犬たちの爪がカツカツと床に音を立てた。
 
 つんざくような咆哮が響き、次に現れたのは獣たちだった。
 
 羽があるかのように高い場所から飛び降りたライオンは、まるで王者のようにゆっくりと進む。
 素晴らしい毛皮の豹、鋭い角を持った犀、その間を恐げもなく走り回る猿たち。

 所々に馬が混じる。
 
 真っ白い馬、栗毛、漆黒……馬たちはどれも額に美しい宝石を飾っている。
 
 そして雷鳴が鳴り響いた。
 光が大理石の床を走る。
 その光は爆発するように弾けて、次々と漆黒の甲冑を纏った騎士たちとなった。
 
 そして、……一番最後に現れた騎士。
 彼だけは、一人甲冑の上に黒いマントを羽織っていた。
 
 彼がよく通る声で言った。
 
「女王陛下の御成」
 
 それはフェリのよく知った声だった。
    顔が見えなくても分かる。
 ……グリッグ。
 フェリは心の内で呟いた。

 続いて扉より現れたのは……。
 
 漆黒の騎士たちが跪く。
 動物たちも静かにその人を向き、頭を垂れる。
 
 フェリの目に涙が浮かんだ。
 
 
 エイディーンだった。
 
 
 裾をひく黒のドレスに燃えるような金髪が広がる。
 そして手には光る王笏。
 
 それは、建国の祖であるフロレラ皇后の肖像画に描かれた王笏そのものだった。
 
 王笏を持った女性は、ためらうことなく皇后の玉座に腰を下ろした。
 
 高みから広間を見渡す。
 
「建国祭であろう。
 祝いに参った」
 
 そう言った。
 そして薄く笑う。
 美しく、そして肌が泡立つような笑顔だった。
 
「さてこの国の王はどこだ?」
 
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