忘れられた姫と猫皇子

kotori

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ランディと

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 建国祭からひと月ほど過ぎた。
 
 初夏の陽射しが庭の草花を輝かせている。
 フェリシアはラムズ公爵邸に居を移し、毎日を過ごしていた。
 
 あれから、ランフォード大公、ネイハム、そしてランフォード公爵家と共謀し、様々な恩恵を受けようとしていた貴族たちは全て捉えられた。
 皇帝陛下は傷も癒え、もうすぐ裁判が行われる。
 ラティーシャは、フェリシア殺害を命じたこと、フェリシアの財産を奪ったことなどの罪状が確定したが、元々は母テルシェの立てた計画だったこともあり、ラムズ公爵家の問題として公爵に任された。
 公爵の裁定は、死罪ではなかったが、最北部の城……そこに生涯幽閉となった。
 
 一方テルシェの実家ダイアス伯爵家は、娘テルシェの皇后毒殺、先代のラムズ公爵夫人アイラの毒殺が明るみに出、窮地に立たされた。
 何より伯爵令嬢だった頃の皇后毒殺の罪は重く、また伯爵家の別邸からはラムズ家の緑の館から無断で運ばれた美術品などがあり、言い逃れは出来なかった。
 テルシェ以前の毒薬を入手したと思われる者たちは、すでに亡くなっていることもあり、不問となったが、領地は没収、ダイアス家は取り潰しとなった。
 
 テルシェは、投獄されていた。
 死罪は免れない。
 ただ、皇宮で倒れてから彼女は意識がなかった。かろうじて息をしているのみ。自分が置かれているのが牢の中とも知らず、横たわっている。
 刑が執行されるその時も、おそらくそのままの状態なのだろう。
 
 玉座の間にある扉は、今は元の大きさに戻り石の輝きも消えたという。
 
 大公一派が捉えられ、混乱を極めた国政だが、新しい人事なども次第に整い、進む方向が見えてきた。
 ずっと働きづくめだったフェリの父や兄も、ようやく座ってお茶を飲む時間が取れるようになったらしい。
 
 フェリはアラベラ先生やエドニに助けられ、公爵令嬢としての生活を学んでいるところだ。
 勉強は……。
 わりと大丈夫だった。
 ずっとひとりで暮らしていた頃、図書室の本を読めるだけ読んでいたのが良かったらしい。
 少し難しかったのは数学だったが、これは新しい先生が来て教えてくれている。先生は、親切で勉強は楽しかった。
 ピアノはアラベラ先生のおかげで楽しく練習している。
 ダンスは今はアビと。
 実はアビは……いや、妖精は素晴らしくダンスが上手だった。そしてフェリも、これは自分でもとても上手になったと思う。
 一番大変なのは、礼儀作法だろうか。
 これがなかなかだ。いちばん疲れる。
 
「ふーっ」
 そう言ってフェリは、靴を脱ぎ捨て、長椅子に横になった。
 ここはお気に入りのサンルームの中だ。今は新しい侍女たちは下がってもらい、アビと二人きりだ。
「フェリ、ドレスがシワになるう」
 アビが文句を言った。
「大丈夫、これはあんまりシワにならない生地で作ってもらったから」
「髪もさっききれいにしたのにい」
「ごめーん」
 
 前とは比べ物にならない贅沢な暮らしなのだが、フェリはまだ慣れない。
 勉強するのは嫌いじゃないし、エドニとおしゃべりするのも楽しい。
 でも、なんだか心細い気持ちになるのは、ランディともグリッグとも中々会えないからだと思う。
 ランディは混乱が続く皇宮の中で、寝る間もないほどの大忙しらしい。皇帝陛下がまだ大事を取られているのでなおさらだ。
 それでもその中で何度かフェリの所へ会いに来てくれた。
 猫の姿になって抜け出したらしい。
 
 そしてグリッグはずっと姿が見えない。
 あのとき、大広間で甲冑の中から聞こえた声は、間違いなくグリッグだったが、顔は見えなかった。
 グリッグの顔を最後に見たのは……。
 建国祭の夜にダンスを踊ったあのときだ。母、エイディーンと一緒に妖精の国に帰ってしまったのだろうか。
 
「会いたいな……」
 フェリは小さく呟いた。
 アビが優しくフェリの髪を撫でてくれる。
 
「お父さ……様には絶対言えないけど、ロイから貰ったような男物の服が楽だったな」
 アビはふふふと笑った。
「だいたい、公爵令嬢は走っちゃいけないなんて……、ねえ」
 少々窮屈な気もするが、でも毎日美味しいものが食べられるし。
 前とは比べ物にならないほど幸せだ……。
 そう思ったそのとき。

「走りたかったら走ればいいさ」
 急に声がかかり、フェリは飛び起きた。
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