66 / 71
ランディと
しおりを挟む建国祭からひと月ほど過ぎた。
初夏の陽射しが庭の草花を輝かせている。
フェリシアはラムズ公爵邸に居を移し、毎日を過ごしていた。
あれから、ランフォード大公、ネイハム、そしてランフォード公爵家と共謀し、様々な恩恵を受けようとしていた貴族たちは全て捉えられた。
皇帝陛下は傷も癒え、もうすぐ裁判が行われる。
ラティーシャは、フェリシア殺害を命じたこと、フェリシアの財産を奪ったことなどの罪状が確定したが、元々は母テルシェの立てた計画だったこともあり、ラムズ公爵家の問題として公爵に任された。
公爵の裁定は、死罪ではなかったが、最北部の城……そこに生涯幽閉となった。
一方テルシェの実家ダイアス伯爵家は、娘テルシェの皇后毒殺、先代のラムズ公爵夫人アイラの毒殺が明るみに出、窮地に立たされた。
何より伯爵令嬢だった頃の皇后毒殺の罪は重く、また伯爵家の別邸からはラムズ家の緑の館から無断で運ばれた美術品などがあり、言い逃れは出来なかった。
テルシェ以前の毒薬を入手したと思われる者たちは、すでに亡くなっていることもあり、不問となったが、領地は没収、ダイアス家は取り潰しとなった。
テルシェは、投獄されていた。
死罪は免れない。
ただ、皇宮で倒れてから彼女は意識がなかった。かろうじて息をしているのみ。自分が置かれているのが牢の中とも知らず、横たわっている。
刑が執行されるその時も、おそらくそのままの状態なのだろう。
玉座の間にある扉は、今は元の大きさに戻り石の輝きも消えたという。
大公一派が捉えられ、混乱を極めた国政だが、新しい人事なども次第に整い、進む方向が見えてきた。
ずっと働きづくめだったフェリの父や兄も、ようやく座ってお茶を飲む時間が取れるようになったらしい。
フェリはアラベラ先生やエドニに助けられ、公爵令嬢としての生活を学んでいるところだ。
勉強は……。
わりと大丈夫だった。
ずっとひとりで暮らしていた頃、図書室の本を読めるだけ読んでいたのが良かったらしい。
少し難しかったのは数学だったが、これは新しい先生が来て教えてくれている。先生は、親切で勉強は楽しかった。
ピアノはアラベラ先生のおかげで楽しく練習している。
ダンスは今はアビと。
実はアビは……いや、妖精は素晴らしくダンスが上手だった。そしてフェリも、これは自分でもとても上手になったと思う。
一番大変なのは、礼儀作法だろうか。
これがなかなかだ。いちばん疲れる。
「ふーっ」
そう言ってフェリは、靴を脱ぎ捨て、長椅子に横になった。
ここはお気に入りのサンルームの中だ。今は新しい侍女たちは下がってもらい、アビと二人きりだ。
「フェリ、ドレスがシワになるう」
アビが文句を言った。
「大丈夫、これはあんまりシワにならない生地で作ってもらったから」
「髪もさっききれいにしたのにい」
「ごめーん」
前とは比べ物にならない贅沢な暮らしなのだが、フェリはまだ慣れない。
勉強するのは嫌いじゃないし、エドニとおしゃべりするのも楽しい。
でも、なんだか心細い気持ちになるのは、ランディともグリッグとも中々会えないからだと思う。
ランディは混乱が続く皇宮の中で、寝る間もないほどの大忙しらしい。皇帝陛下がまだ大事を取られているのでなおさらだ。
それでもその中で何度かフェリの所へ会いに来てくれた。
猫の姿になって抜け出したらしい。
そしてグリッグはずっと姿が見えない。
あのとき、大広間で甲冑の中から聞こえた声は、間違いなくグリッグだったが、顔は見えなかった。
グリッグの顔を最後に見たのは……。
建国祭の夜にダンスを踊ったあのときだ。母、エイディーンと一緒に妖精の国に帰ってしまったのだろうか。
「会いたいな……」
フェリは小さく呟いた。
アビが優しくフェリの髪を撫でてくれる。
「お父さ……様には絶対言えないけど、ロイから貰ったような男物の服が楽だったな」
アビはふふふと笑った。
「だいたい、公爵令嬢は走っちゃいけないなんて……、ねえ」
少々窮屈な気もするが、でも毎日美味しいものが食べられるし。
前とは比べ物にならないほど幸せだ……。
そう思ったそのとき。
「走りたかったら走ればいいさ」
急に声がかかり、フェリは飛び起きた。
10
あなたにおすすめの小説
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる