オメガの花魁

花園侑

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7話「彼からの手紙」

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7話「彼からの手紙」

 数日後。あの夜から結局一度も九条はユキの部屋を訪れなかった。
 「やっぱり、オメガだから……?正直、ヒート状態は彼には見られたくなかった。やっぱり、嫌だったよね。嫌われちゃったのかな。もう彼はここには来てくれないだろうな……。」
 ユキの目にはみるみる涙が溜まっていく。そんな時、窓辺に1枚の手紙が置いてあることに気づく。
 「これは……。」
 封をあけ中身を見ると九条からだった。
 「九条さん……。」
 (もう来ません。ってことかな。当たり前だ。僕は色んな男を相手してるんだ。それが彼にとって耐えられなかったんだろう。)
 ユキは内心そう思いながら手紙を開いた。
 『ユキさん。しばらく会いに行けず申し訳ありません。これだけ伝えさせて欲しい。俺はあなたのことが好きです。俺が絶対幸せにする。だから少し待っていて欲しい。必ず迎えにいきます。九条圭司』
「九条さん……。」
 九条と最後に会った夜。ユキは抱いて欲しいと願った。しかし九条は白雪を抱かなかった。

 「九条、さん……。」
 部屋に入った九条はフェロモンにやられそうになる。フェロモンはアルファの本能を刺激しユキを孕ませたいと思ってしまった。
 「ユキ、さん。まさか……!!」
 「今日、ヒートなんだ……。九条さん、お願い、抱いてよ……。」
 むせかえるような甘い香りに耐えながら九条は言った。
 「抱け、ないです……。俺は、あなたがここで苦しんでいるのを誰より見てきた……。俺はあなたを傷つけられない。」
 そして部屋にユキ一人残して立ち去った。

 ユキはあの夜のことをまた思い出してしまう。
 (僕のことをを大切にしてくれていることはわかっている。彼は他の客とは違う、とても誠実な人だから。でもやっぱり……。)
 あの時自分との行為を拒まれてしまったようで苦しかった。でもその九条の行動にユキはここに来てからはじめて自分が大切にされている。商品ではなく一人の人間として接してくれていると気がついた。
 「……っ九条さん。僕もあなたが好きです。絶対来てください。待ってますよ。そして、僕はあなたと番になりたい……!!」
 あの夜からずっと涙を流した。しかし今日の涙は嬉しさのものだ。ユキの涙はぽたぽたとこぼれ落ち、九条からの手紙を濡らした。
 
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