DIRECTION

Leoll Bluefield

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7 試合

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飛頼は放課後、基本的に部活に向かう。部活はバスケットボール部に所属している。 
「上白知ってるか?」
一人の生徒が小さな声で話しかけてくる。
「何を?」
「加賀田が転校生に1on1で負けたって」
「は?マジ?その転校生って部活何やってんの?」
「さあ でも何やっても出来るタイプってのは間違いないな その1on1の時も女子がキャーキャー騒ぐんだよ 凄かったぜ?」
「それいつの話だよ」
「結構前だな 昼休みに結構集まってたけど上白いなかったろ?」
「あ~」
飛頼は大和と言う生徒を助けたときの廊下での別の生徒との会話を思い出す。
(見に行くか聞かれたな 加賀田が負けるってこのバスケ部の誰よりも強いってことになるけど……それっていーのか?バスケ部として)
飛頼はバスケットボールを楽しいと思っていたがスターティングメンバーまでの技量も無く、部としてのプライドも強く持ってはいなかった。
(キャプテンの加賀田としてはショックだったろーな)
「でもあいつ全然いつも通りだよな」
飛頼はそう返す。
「ああ あの時も話しかけたら全然平気そうでさ 俺思わず『もっと落ち込むかと思った』って言っちまったんだよ」
「そしたら?」
「あいつ『まあショックと言えば正直な でもここで落ち込んでたらきりない 全国には多分もっと強いやつらがいるんじゃないか?』って笑ってた」
「……」
「上白?」
「あ?ああ……そっか意外と大丈夫そうだな」
「さて そろそろ練習はじまっぞ」
「ああ」
飛頼はその言葉を聞いて、キャプテンの生徒、加賀田と言う生徒を尊敬した。飛頼は知っていた。加賀田は1番強かったがいつも体育館に残って1人でシューティングをしているのを。
(俺が同じ立場ならそこで止まるな この学校で1番の自信があるものを取られちまったら……)
飛頼は練習中も加賀田を見ていたがいつもと変わらなかった。そして練習終わりにわざと皆より遅く帰る振りをして残ってみた。
「よ」
飛頼は加賀田に話しかけてみる。
「おお上白 どうした?打ってくのか?」
「いや たまたま遅くなった」
会話しながらも加賀田が打ち始めたところのゴール下へまわる。
加賀田が打ったボールをパスして渡す。
「何だよ お前も打てよ」
加賀田は笑いながらそう言う。
「打つ気はないけどお前のシュート見て帰ろっかなって思っただけ よく入るな」
「そいつはどーも」
加賀田はそう言ってただ打ち続け、転校生のことは何も話さなかった。
(そして俺だったらここで話を切り出すだろう 転校生に負けたことを 噂になってるかどうか気になるし 話さないと気にしてるって思われそうだから でも何も言わないってことは本当に気にしてないのか?)
「とりあえず俺は先帰るから頑張れよ」
「おうサンキュー」
飛頼は体育館を出てからも少し様子を伺った。加賀田は依然としてシューティングを続ける。
(って 何で俺はそんなに気にしてんだよ 自分の心配事が先だろ ふっ)
そう思い帰ろうとした瞬間加賀田はシューティングから突然ドリブルからのレイアップへと練習を移行する。その動きは素早くしなやかだったが力強さもある。加賀田は何度もそれを繰り返した後コートに身を投げ出すように寝転がる。ボールが遠くへ転がって行き、加賀田は激しい呼吸をしたままずっと上を向いていた。
(そっかもし俺なら周りの目を気にするけど加賀田はそんな次元にいないんだ 負けたならもっと強くなるしかないんだ 言い訳も負け惜しみも言うだけ無駄ってことか)
飛頼は音を立てないように外へ出て行く。
(……だから何で俺が気を使ってんだよ!)
その翌日、飛頼はいつも通り昼休みに学校内を巡っていた。
1年のエリアと2年のエリアは生徒に怪しまれないように速足でまわる飛頼だったが、逆にそれが怪しくなっていた。
「昨日も偉そうだったよな」
「あ~マジうぜ」
2年のエリアで飛頼は二人の生徒が何かを話しているのが気になった。それは部活の後輩だったからだ。
「転校生に負けといてよく平気な顔して部活来るよな」
「来ても大人しくしてろってな」
「マジで」
飛頼は廊下で話す二人に近づいていく。
「あ 上白先輩!こんちわっす」
飛頼に気づき、二人は少し焦る。
「何してるんすか?先輩」
「ちょっとこの階で用事があって」
「へぇ~」
二人の生徒は終始目を合わせながら飛頼と話す。
(この二人か 相変わらず人のことバカにしてんな)
飛頼は特に部活で活躍しているわけでもなく、更にその二人はバスケが得意だったため飛頼への尊敬が全くないのは見てとれた。
(相変わらずナメてんなコイツら でも加賀田のことはどうこう言えねーだろお前ら)
飛頼は内心後輩への物凄い怒りがあったが自分が何を言っても効かないのは分かっていたためその場を去る。
飛頼がいなくなると二人は会話を続ける。
「一瞬焦ったわアイツ何してんだよここで」
「聞かれたか?今の」
「聞かれてもアイツなら問題ないでしょ」
「確かに ハハッ」
飛頼はその場を去って階段を上る前にその会話を聞いていた。アイデックの力を得てからは全ての感覚が強くなっているため少し気を向ければ向けた方の小さな会話も聞き取れるようになっていた。
(甘く見られてたのは知ってるけど改めて聞こえるとマジでウザいな どーしよっかな)
飛頼は二人の後輩を以前から良くは思っていなかったが加賀田への陰口と自分への態度を見てあることを思いつく。
(部活のときでいーや 楽しませてもらうからな お前ら)
飛頼はそこから体育館へ向かった。
「上白?バスケやんね?」
「お?いーね」
(ナイス!試してみたかったんだ)
と体育館へ来た飛頼は早速ゲームの中へ混ざる。
「人数1人足りなくてさ」
「おいおいバスケ部かよ」
相手のチームの1人が笑いながらそう言った後、そのチームの1人がその生徒に耳打ちする。
「いーって 別に上白じゃん 大したことねーよ」
周りには聞こえなかったが耳打ちが気になって飛頼はしっかりとその言葉を聞いていた。
(お前聞こえてんぞ まあいーや アイツで色々試してみるか)
早速試合に混ざり飛頼はをする。
ディフェンスから始まったが飛頼は敵の視線と初動で動きを読み、自分をバカにしてきた生徒にパスが渡る直前でカットする。すると飛頼の狙い通りその生徒が飛頼のディフェンスになった。
「オッス よろしく 参戦したバスケ部が俺で良かったな」
「は?」
生徒が聞き返した頃には飛頼はその場にはいなかった。その生徒のカバーにまわるディフェンスを次々と追い抜き一気にレイアップを決める。
「フゥ~!流石上白!」
「何か更に上手くなってね?」
「ヘイ!」
仲間から歓声とハイタッチをもらって飛頼はディフェンスにまわる。
(お前の動きなんて見え見えなんだよ)
次は誰もマークせずに適当にディフェンスをする。
(やり過ぎても良くないし怪しまれるからな)
しかしバカにしてきた生徒へボールが渡ると飛頼は容赦なかった。わざとパスだけは許したがシュートとドライブを絶対にさせないようにディフェンスにつく。
(今からお前に出来ることはパスのみだ)
飛頼に完全に動きを読まれている生徒はボールをもらっても何も出来ない。オフェンスにまわったときは普段と変わらない動きをし、ボールがその生徒に渡ると全力でマークすることを繰り返した。
「邪魔だよ どけよ」
遂にその生徒は飛頼に怒りをぶつける。
「いやディフェンスだから」
「何マジでやってんだよバスケ部が 空気読めよ」
「いやどう見てもマジでやってないでしょ」
「は?やってんだろ」
「攻撃ではレイアップ1本しか決めてないし ディフェンスもちゃんとパスさせてんじゃん そっちが勝手にドライブもシュートもして来ないだけで」
そう飛頼が言った瞬間をついてドリブルで攻めてきたが飛頼はそのボールを弾く。高く上がったボールをジャンプで掴んで味方にパスする。
「てめぇ ふざけんな!」
生徒は飛頼めがけて何度も殴りかかるがそれを全て見切る飛頼。そして他の生徒が止めに入る。
「おいおい どうしたんだよ」
「何かあったのか?」
飛んできた質問に相手は答えず飛頼が答える。
「バスケ部がマジでやるなってさ」
「それでキレたのか?何で」
「そもそも上白そんなにマジでやってなかったし」
周りの反応に相手は何も言えず悪態をつく。
「クソッ!」
(教訓になったか?言わなくても良いことは心にしまっておこうね)
飛頼は試合を続けたがその生徒のディフェンスにはまわらなかった。
(相手がバスケ部じゃないとは言え動きが丸分かり これなら放課後も使えそうだな……ん?)
考えながらオフェンスでボールを貰うとさっきのキレた生徒がディフェンスにまわってきた。
(俺マークしてんのかな)
飛頼は味方にパスしてシュートやドライブはしなかった。
ボールが来る度にキレた生徒がマークしてきたが全てパスで終わらせる飛頼。
「来いよ」
キレた生徒が煽るように言ってくる。
「さっきバスケ部がマジでやるなとかキレてなかった?」
「マジでやればいーじゃん」
「どっちだよ」
飛頼はキレた生徒の股にボールをくぐらせ後ろにまわる。キレた生徒は思わず股を閉じて情けない格好になる。
「ハハ」
飛頼は思わず笑いながら再びレイアップを決める。周りの生徒もその姿を見て笑いそうになるのをこらえた。キレた生徒は何も言えずその場に突っ立っていた。
(ヤバい 笑っちゃった)
飛頼は必死に平静を装いゲームに戻る。
(多分こんな場所で使うような力じゃないんだろうけど集中したり本気になると相手の動きが自然と遅く見える そしてより効率的に体が動いてる気がする)
昼休みも終わり、体育館にいた生徒たちも教室に戻る。5時間目を受けながら飛頼はアティスについて考える。
(アイデックの力をこんな使い方してる俺がアティスに成って良いのか?いや こんなことに使わずにアティスに成るべきなのか……まあとにかく水曜日にカフェでアティスがどんな感じなのか分かるからそれまでは練習ついでに色々試してみるか)
飛頼はそう思い珍しく授業に集中した。

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