俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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プロローグ

家を案内してみた

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「……悪い。屋敷は建ったばかりで、まだ家具も何もなくてな」

 汚してしまった彼女のハンカチを受け取って情けないことを伝えた。

 ノーラは「そうなのですね」と静かに頷くだけで、表情を崩さなかった。

 咎めることも、驚くことも、軽んじるような態度も見せない。

 それが、逆に申し訳なく感じてしまう。

「すまんが、少しだけ待っていてくれないか? まずは着替えてくる。さすがにこの格好じゃ、案内もできない」
「……はい。では、どこかお茶を準備できる場所があれば」
「ああ、こっちだ」

 貴族令嬢として育ってきた彼女が、田舎の国主のためにお茶を淹れると言ってくれる。
 その心遣いだけで、何かが報われた気がした。

 先ほどから無表情なのは、彼女も緊張しているからだろうか?

「こっちの小屋で暮らしてる。狭いが、椅子と湯沸かしは台所にある」

 俺は案内して、彼女が中に入ったのを見届けると、土で汚れた服を脱ぎ、多少は見られるシャツに着替るために外で水浴びをして、体を清めた。

 深呼吸を一つして、扉を開ける。

「待たせた」
「いえ、ちょうどお茶を淹れました」
「ああ、いただくよ」

 ノーラはお茶を入れてくれていた。

 食器の洗い物も溜まっていたのに、綺麗に洗われていた。

「美味っ!」
「お茶を淹れるのは得意なんです」

 俺の反応に少しだけ、彼女の口角が上がって微笑んだように見えた。その反応に、俺も何か安堵したような気分になる。

「新しい家を案内するよ」
「はい」

 朝の日差しが、真新しい屋根を照らしていた。

 屋敷はまだ新品の木の香りが強く、どこか落ち着かない。
 けれど、こうして二人並んで立つと、不思議と胸が静かになる。

「ここが……ノーラの、いや。俺たちの家だ。王都の屋敷に比べるあれだが」
「いえ、十分だと思います」
「そうか、よかった」

 玄関の扉を開けると、広めの土間が現れる。

 石張りの床と、左手には木製の靴棚。

 正面には大きな玄関扉と、その上には小さな装飾窓があり、朝の光がやわらかく差し込んでいた。

「田舎だけど、この辺じゃ一番広い家にした」
「はい。とても、温かみがあります」

 ノーラの声が、やわらかく響いた。

 玄関を抜けると、正面には広めのエントランスホール。
 中央に据えられた木の支柱が、梁を支えていて、まだニスの香りが強い。

「こっちがリビングだ」

 右手の扉を開けると、光が差し込む広間が現れる。床は滑らかな板張り。

 壁にはまだ何も飾られていないが、家具が揃えば、暖炉の熱で団欒もできるはずだ。

「その奥に、台所がある。薪のかまどは職人の手作りだ。まだ不便だが、温かい料理は作れる」

 ノーラは小さく頷きながら、静かに指先で木のカウンターをなぞった。

「清らかですね。……大切に、作られたのだと伝わってきます」
「……皆で作ったんだ」
「国主様自ら?」
「ああ、人も時間も足らない場所だからな」

 気恥ずかしくはあるが、ノーラは感心したような顔をしてくれる。

 そして廊下を抜け、左手の扉を開ける。

「ここが洗面所と風呂場だ。風呂は薪を炊くタイプで、少し手間がかかるが、湯はたっぷり入る」
「お風呂……ありがたいです。旅の間は、ほとんど身体を拭くだけでしたから」

 少しだけ照れくさそうに微笑む彼女の表情に、心が温かくなる。

「今日はゆっくりと浸かるといい。階段を上がるぞ」

 二階へと続く木の階段を昇る。新しい木が軋む音が、どこか心地よい。

「二階は五部屋ある。中央が寝室として作ってあるが、急に一緒は……不安だろうから、左右にそれぞれの部屋を用意した」

 寝室が一緒であることに顔を赤くするかと思ったが、反応は薄い。

「お気遣いありがとうございます」

 表情は変わらないが、こちらの意図は伝わっているようだ。

 廊下の左右には木の扉が三つ並び、それぞれの部屋が繋がるように設計されている。

「部屋同士は中からでも外からでも、扉で繋がってる。必要なときは仕切れるし、慣れてきたら、中央の部屋を一緒に使えばいい」

 彼女は黙って、一つ一つの扉に目を向け、軽く頷いた。

「……とても、丁寧に作られているのですね」
「それだけが、俺にできる精一杯だ。あとは、子供が生まれれば、あっ!」

 気が早いかと思ってノーラを見たが、反応はない。

「最後に、各部屋の奥にあるクローゼットだな」

 まだ衣類は入っていないが、ノーラが使う部屋の方は使いやすいよう棚を低くし、引き出しを多めにした。

「これから、君のものが増えていくんだろう……」

 小さく呟いた俺の言葉に、彼女がふと、こちらを見る。

「……増やしても、いいのでしょうか?」
「もちろんだよ。ここは君の家なんだから」


 彼女の家になって、少しでもぬくもりを感じて欲しい。
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