俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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プロローグ

ヨンクの戦場

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「――エルド様、来ます!」

 せっかくの歓迎会を抜け出さなければいけなかったことが本当に悔やまれる。

 アルヴィの声が闇に響いた。
 
 俺は一歩前へ出ると、肩に担いだ大剣を地に振り下ろした。

 ズン、と大地が鳴る。

 視界の先、黒く蠢く気配がこちらへ向かってきていた。
 魔物の群れ。だが、あれはただの魔物だ。

 かつて魔王に従い。暴れ回ったただの獣。

 普通の魔物は、食用の肉としても重宝される。

 魔力が豊富で、歯応えもいい。

 獣のような咆哮をあげながら、牙も爪も、時に触手で襲ってくる。

 魔法を放ち、牽制をするが、だが俺は、一歩も退かない。

「アルヴィ。後ろを任せる」
「はい!」

 俺は、この地で生まれた。

 ヨンクで生まれた最初の子供だった。

 当時のヨンクはまだ国というより、砦に近かった。
 戦場の最前線。どれだけ耐えられるかもわからない、ただの壁のような存在。

 それでも、そこには暮らしがあった。
 命があった。

 父は斧を振るう戦士で、母は傷を癒やす魔法使いだった。

 強く、優しく。そして、俺の誇りだった。

 俺も、あんなふうになりたいと、心から思っていた。

 けれど。

 俺が十歳のとき、世界は変わった。

 壁の警戒網をすり抜けて、異形の魔物が襲ってきた。

 異形の魔物は、この世の理を歪めて生まれた、災厄そのものだ。

 砦の半分が崩れ、家が燃え、土が血で濡れた。

 そして、目の前で。父は喉を裂かれ、母は内臓を貫かれた。

 助けたかった。
 泣き叫んだ。

 でも、十歳の俺には、何もできなかった。

 ただ、母の血に濡れた手を握りしめ、二人が異形の魔物を討伐してくれたからこそ俺は生き残ることができた。

 焼けた空を見上げながら、俺はただ、一つの願いを口にした。

「俺が、みんなを守るよ」

 両親が守りたかったものを俺が守る。

 もうこれ以上、奪われたくない。

 両親も、砦も、仲間も破壊されて。

 ドワーフのハッサム爺さんが家の作り方を教えてくれた。
 武器を与えてくれた。防具をくれた。

 オーガ族のオン婆が鬼人族の戦い方や、肉体強化を教えてくれた。

 魔女たちが魔法を、ホビットが服を。オークが食事をくれた。

 俺はみんなに支えられてここまで大きくなれた。

 だから、俺は剣を取る。
 血を吐くほど訓練して、殺されるかもしれない戦場で立ち続けた。

 強くなりたかった。

 両親のような優しさを貫けるほどに。

 あの夜の俺のように、何もできず立ち尽くす者を、もう生み出さないために。

「うおおおおおッ!!」

 咆哮とともに魔物が跳びかかってくる。

 俺は、それを迎え撃つ。

 大剣を振り抜く。

 轟音。

 風が裂け、肉が裂け、闇が引き裂かれた。

 魔物の群れが、爆ぜるように散っていく。

 血を浴びながら、息を吐く。
 背後にアルヴィの気配を感じる。

 人々を背負って立つ。

 この瞬間が、一番俺が“今”を生きていると感じる時だ。

 誰かに見られようが、見られまいが関係ない。

 これは、俺の原点であり、生き方だ。

 守るために剣を握る。

 ただそれだけのために――俺は、戦場に立ち続ける。

「エルド様、敵を殲滅しました」
「ああ、ご苦労さん。あとはいつも通り肉の血抜きを行って、国中に肉を配るぞ」
「はい!」

 我が国は全員が戦士だ。

 誰一人として、戦えないものはいない。

 だが、他所からきたノーラは戦えるのだろうか? いつか、この現状を見て逃げ出したいと思うかもしれない。

 それは仕方のないことだ。

 このヨンクに平和などないのだから……。
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