俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第二話

一災 鉄眼のゴウラ 1

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 朝靄の中、ヨンクの門前には、既に戦支度を整えた仲間たちが並んでいた。

 鎧の隙間から立ちのぼる緊張。

 各々が言葉少なに、だが目だけは前を見据えている。

 その背を見て、俺もまた腰の剣を一つ確かめ、ゆっくりと振り返った。

 ノーラがいた。

 袖口をぎゅっと握りしめ、けれど目を逸らさずに俺を見ている。

「……行ってきます。なるべく早く、戻るよ」

 口にすると、彼女はほんの少し、表情を緩めた。

「お帰りを、お待ちしております」

 その声に、胸の奥があたたかくなった。だが同時に、戦に向かうという現実が、それを凍らせる。

 俺は軽く頷き、踵を返して仲間たちの先頭に立った。

「出るぞ。目標は第五区旧マギラ鉱山跡地。異形の存在確認のための進軍だ」
「「了解!」」

 振り返らないと決めた。

 誰よりも大切なものがあるからこそ、守りに行く。

 数時間後、霧の谷を抜けると、かつて栄えた鉱山跡地が姿を現す。

 木々はねじれ、土は乾ききり、まるで死んだような空間。空気そのものが異様に重い。

 そして、そこに“それ”はいた。

 人型に近い、だが、あまりにも異質な存在。

 風が止んだ。

 鉱山跡地の空気は重く、霧は沈黙の帳のようにあたりを覆っていた。

 黒鉄のような殻に包まれた巨躯。節くれだった両腕は地面を擦り、背中からは硬質の刃のような棘がいくつも突き出ている。

 なにより異様だったのは、顔の中心に縦一列に並ぶ六つの紅い眼。

 魔物とは全く違う濃密な空気が充満している。

「アルヴィ。退路の確保を。バルト、援護しろ」
「はい!」
「承知」

 今回の遠征は少数精鋭だ。

 俺がいない間に、ヨンクが襲われてもいけない。

 ガルドとティオに守護を任せてきた。

 だが、直感が告げている。あれは、まったく別の“何か”だ。

 だが、その正体を確かめる間もなく、異形がわずかに口元を動かした。

「……我は、鉄眼のゴウラ」

 低く、響くような声だった。

 聞き間違いではない。言葉を、喋った。

 前回、両親が戦った異形は話をしなかった。

 奴らも進化を遂げている?

「喋った……? お前……言葉が……わかるのか?」

 異形はゆっくりとこちらを見据える。六つの眼が不気味に収束し、俺だけを見つめていた。

「哀れだな、人間。我らを獣と同じく見ていたか。言葉も、思考も、意志も持たぬと?」

 その声音には、確かに“知性”があった。

 それは俺の知るどの魔物とも違う。

「なぜ、名乗る……? なぜ、話す?」
「理解の証明だ。そして、殺すべき相手には礼を尽くす。それが、己の流儀」

 異形が、名乗り、礼を語る。

 まるで、武人のような口ぶりだった。

「俺は……お前たちはただの化け物だと、そう思っていた」
「そうであれと、お前たちが願ったのだ。己らを“理解できないもの”として忌み、排除し、恐れ続けた」

 鉄眼のゴウラの声には、憤りも嘲笑もなかった。ただ、静かな事実のように淡々としていた。

「己は、人類に滅びを与える者。戦いにこそ喜びを感じる……貴殿は強者か?」

 ゴウラの背にある棘が、ぶん、と音を立てて風を裂いた。

 剣を抜くように、その身に“殺意”が宿る。

「……俺は『第四戦区防衛管轄領地・北西前線拠点兼農業振興指定区』の国主。エルド・カレヴィ」
「己を前に引かぬ強者よ。戦え。剣をもって、言葉をもって、心をもって。滅びを否定する覚悟を見せてみよ」

 その瞬間、ゴウラの六つの眼が赤く輝いた。

 地面が爆ぜ、岩が弾け、黒き巨体が空を裂いて突っ込んでくる。

 俺は剣を振るった。

 知らなかった。異形がここまで話す存在だとは。

 だが、今知った。それでも、俺の答えは変わらない。

「俺は、引かない!」

 刃と刃、意思と意思が、鉱山跡地の空に衝突した。
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