俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第四話

エルフとの交渉 1

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《side エルド・カレヴィ》

 森の空気は、静かだった。

 ヨンクの荒野とはまるで違う。湿度と光が程よく調和し、草木のざわめきすらも整った音を奏でている。

 ここはエルフの領地、《リュエルの森》。

 その奥深く、千年樹の囲う地に彼女たちは住まう。

 エルフには女性しか存在しない。

「お、おいエルド様……! 本当にここなのか……?」

 今回、従者として連れてきたティオが、緊張と興奮で混ざったような顔をして俺に問う。

 彼の目は、森の奥に佇む白銀の髪をしたエルフたちを見ていた。

 長身で、細く、陶器のような肌。翡翠のような瞳に、風のような佇まい。

 その全員が女性であり、若いティオには刺激が強いようだ。

「……綺麗すぎるだろ、これ……」
「気にするな。見た目など関係のないことだ。ノーラの方が美しい」
「は? どんだけ嫁さんが好きなんだよ!」

 俺は一瞥もくれず、正面を見据えて進んだ。

 あの中に解毒薬を作るための技術と素材がある。

 それだけが重要だ。

 何人いようと、どれほど美しかろうと、俺の目に映るのはただ一人。ノーラだけだ。

 ヨンクの民を蝕む毒の正体がまだ見えぬ中、エルフの秘術だけが唯一、解毒の可能性を残していた。

「……戦鬼が、よく来たものだな」

 正面の大樹の影から、穏やかだが威圧感ある声が降りてきた。

 姿を現したのは、長衣を身に纏った一人のエルフ。

 だが、その瞳は若々しく、計り知れぬ年を感じさせる風格を宿していた。

「リュエルの森へようこそ、ヨンクの王よ」
「エルフの民よ。願いがあって参った。薬が必要なのだ。魔物から発生した毒に苦しむ子どもたちがいる。俺は、そのために来た。頼む。助けてほしい」

 俺は素直に現状を伝えて、エルフの民に願いを申した。

「薬なら、渡そう。ただし、“条件”はある」

 予想通りだ。

 俺は足を止め、エルフの長老と真っ直ぐ目を合わせた。

「話を聞こう。だが、時間はかけられない。民の命がかかってる」

 エルフたちの視線が、一斉にこちらに向く。

 敵だった者たちが、今や連合の一角にいる。

 だがその溝が、今も完全には埋まっていないことを、彼女たちの瞳が教えてくれる。

「私たちは、かつて魔王軍と戦った。だが今は連合の民として、共にあることを選んだ。ただし、我らの技術を預けるには対価を、示してもらわねばならない」
「何を望む」
「あなたの真意だ」

 森の風が、一層強くなった。

 エルフの冷たい視線を浴びながらも、俺は構わず進み出た。

 街全体から、向けられる弓と矢。

 たとえどんな条件があろうとも。

 ノーラと、ヨンクの民を守るためなら、俺は、何だってやる。

「どんな真意を問う? どんな真意であろうと聞こう」
「ならば問う。貴殿は何者だ?」

 それはあまりにも漠然としていて、答えることが難しい問いかけだった。
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