俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第四話

エルフとの交渉 終

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 解毒薬は思った以上に早く用意された。エルフたちの薬理技術は、確かに本物だ。これで、少しでもヨンクの子どもたちを救える。

 だが、帰り際に、ルティアが静かに俺を引き止めた。

「待ってくれ。もう一つ、頼みがある」

 振り返ると、彼女の隣には、一人の若いエルフの女が立っていた。

 銀白の髪、切れ長の瞳。ルティアに似た印象を受けるが、まだ年若く、表情にはどこか不安げなものがあった。

「……こいつは、ミュリナ。次期族長候補だ」
「……次期、族長?」
「ああ。だが、この子には外の世界を見せてやりたい。閉じた里で育っただけの娘に、真の選択をさせるためにもな」

 ルティアはゆっくりと歩み寄り、小声で続けた。

「それに、エルフの出生率は極端に低い。……外の血を入れることで、新しい命の可能性が広がるかもしれない。……できれば、あの子が外で男を見つけて、子を孕んで戻ってきてくれれば……それが、私の望みだ」

 まっすぐな言葉だった。

 純粋な願い。けれど、あまりに重い頼み。

「その条件を、解毒薬と引き換えにしたいというのか?」
「強制はしない。だが、解毒薬は今後も必要になるだろう? 連合と我らが良好な関係を築く足掛かりとしても……どうか、この子を外に連れていってくれないか?」

 俺は無言でミュリナに目を向けた。

 少女はうつむきながらも、真っすぐな目でこちらを見返してきた。

 何かを求めている。何かに怯えながらも、外を見たいと願っている。

「……ティオ。お前はどう思う?」

 隣で、いつもなら飄々としているティオが、珍しく真面目な顔でミュリナを見つめていた。

「……別に構わないさ。俺が面倒を見るのもありだな」
「……本気か?」
「まぁ、俺だって外の世界が普通だなんて思っちゃいない。でも、こういうヤツが来ることで、きっと俺たちにも何かが変わる。そう思ってるだけさ」

 ティオらしい返答だった。軽そうに見えて、ちゃんと仲間のことを考えている。

「……わかった。あくまで保護者として、ヨンクへ連れて帰る。生活はティオの世話に任せる。それでいいか?」

 ルティアは静かに頷いた。

「礼を言う。あの子には生きる選択を知ってほしいだけなんだ。……私もかつて、知らずに生きていた。お前のような男と話せたからこそ、今、こうして道を繋ごうとしている」
「ミュリナ……お前は、行けるか?」

 少女は短く、しかしはっきりと頷いた。

「はい。……私、行ってみたいです。……自分の意志で、生きてみたい」

 その言葉に、俺は少しだけ、ノーラの面影を重ねた。

 ならば、守る価値はある。

「準備をしろ。すぐに発つ」

 エルフの森を後にする俺たちの隊列に、銀髪の少女が一人、加わった。

 それが、また新たな波紋となるとは、このときは、まだ知らなかった。
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