俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第四話

襲撃者

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《side ノーラ・フィアステラ》

 神聖教会の奥、術者しか入れぬ祈祷の間。

 天井のステンドグラスから差し込む光が、淡く揺れる聖水の泉に反射していた。

 私は静かに両手を組み、祈りを捧げる。

 聖なる光よ、どうか病を癒す力を。

 掌に神聖魔力を込め、聖水の源に触れる。魔力が水に浸透し、光の粒がふわりと浮かび上がった。

 冷たく澄んだ水が、聖なる魔法陣の中心でわずかに震え、浄化の気配を放っていく。

 一瓶、二瓶……慎重に、時間をかけて作る。

 そして五本目を終えたとき。

「……これで、ヨンクの子どもたちは救える……」

 安堵に膝が緩みそうになるのを、必死にこらえる。

 聖水の素材費、祈祷室使用料、正式な儀式のための寄進。必要なお布施もすべて納めた。

 これで、もう誰にも咎められる理由はないはずだった――のに。

 ガチャァン!

 祈祷室の扉が、何かに打ち破られた音が響いた。

「ノーラ・フィアステラ殿! 王命により拘束する!」

 甲冑に身を包んだ兵たちが、聖堂の回廊を踏み鳴らしてなだれ込んでくる。

 第一王子、セディアス殿下の紋章を掲げた軍勢。

「なっ……!」
「奥様! 下がってください!」

 バルトがすぐに私の前に立ちはだかり、抜刀する。

「この聖水は守らなければいけません!」
「アルヴィ」
「はっ!」
「聖水を先にヨンクに届けなさい」

 バルトは五本の聖水をアルヴィに渡して、先に脱出をさせました。

 アカネが別の場所で待機しているので、そちらと合流してくれれば。

「ノーラ様は、私と共に必ず逃してみせます」
「ありがとうございます。バルトさん」
「この場に正当な裁定なしに踏み入るなど、王国騎士の風上にも置けんぞ!」
「王命は絶対だ。連行に従わなければ、力をもって排除する!」

 バルトが、部屋に押し入ろうとする兵たちの剣が向けられ、剣を交差する。

 聖堂の奥、煌めいていた祈りの空間が、一瞬にして戦場と化してしまう。

 私は動けなかった。

 五本の聖水はまだ、魔力の浄化を終えたばかり。倒れれば砕けるかもしれない。守らねばならない。けれど、恐怖が、膝をすくませた。

 アルヴィが届けてくれるまで、安全に逃げる時間を稼がなければいけません。

 どうして……どうして、こんな……ことに。

「止まれ!」

 凛とした、しかしどこか優しげな男の声が、石の回廊に響いた。

 兵たちが一斉に振り返る。

 そこに現れたのは、淡金の髪に白銀の装束を纏った、優雅な青年。

「第二王子……ジルベルト様!?」

 驚きに声が漏れる。

 彼はゆっくりと歩みながら、笑みを浮かべた。

「……ノーラ嬢。どうか私に同行していただけますか? 兄上の命令が、すべてではありません」
「あなたが、どうして……?」
「そこのバルト殿、貴方は護衛を。私はノーラ嬢を無事に神聖教会からお連れします」
「何のつもりですか? 第二王子様!」

 兵の一人が叫ぶが、ジルベルト殿下はそれに微笑みで返した。

「聖堂で武力行使など、王族として恥ずかしいとは思わぬか? せめて“神の目”に見られている間は、騎士らしくあってほしいですね」

 兵士たちが動きを止めた隙に、ジルベルト殿下が私の手を取った。

「さあ、ノーラ嬢」

 この手をとっても良いのか? 私にはわからない。ですが、このまま戦いになればバルトが死ぬかもしれない。

「……わかりました!」

 震える足で立ち上がり、私はジルベルト殿下と共にその場を離れた。

 外の回廊へ、光の道が導く。
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