俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第五話

温かいスープ

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 静かな夜が、ようやく訪れていた。

 ヨンクの街にはまだ焦げた匂いが残っているが、それでも空気には安堵が混じっている。命が繋がった証だ。今この時だけは、誰もが少しだけ深く息ができている。

 俺は、ノーラを抱いて屋敷へ戻った。

 ほとんどの建物は焼け、崩れ、影も形もない中で、奇跡的に、屋敷だけは焼け残っていた。

 すべてが壊れたわけじゃない。

 それが、どれほど心の支えになったか、言葉にするのも難しい。

 ノーラをベッドに寝かせてやれたことも喜ばしい。

 体力を限界まで削り、多くの民を癒して、溶岩の中にいた俺を癒してくれたんだ。当然のことだ。魔力を使い果たした彼女が回復するには眠らなければならない。

 彼女が、また目を覚ましてくれるまで。

 俺は自分にできることをする。屋敷も全てが無事ではない。

 片付けられる瓦礫を集めて、風が夜の空気を運び、部屋に戻ってくる頃にはカーテンがゆらりと揺れる。

 星が見える。焦げ跡の奥に、ちゃんと夜空があった。

「……エルド様……?」

 その声に、俺は肩を揺らした。

 ベッドの上、ノーラが静かに目を開けた。

「ノーラ……」
「……よかった……目を覚ましてくれて」

 俺は体を起こしたノーラを抱きしめた。

「すまない。不甲斐ない夫で」
「何を言われるのですか?! エルド様は誰よりも戦っておられました」
「それでもだ。お前に守られ、支えられていることを実感した。民のためだけでなく、俺のためにも無理をさせて倒れさせてしまった」

 ノーラは微笑んで、俺の背中に腕を回した。

「無事で……よかった……エルド様」

 その言葉が、何よりも心に沁みた。

 そして俺は、彼女に言った。

「……食事は食べられるか?」

 ノーラは少し目を丸くして、笑った。

「はい……できれば、一緒に」

 それが俺の願いでもあった。

 焼け焦げたキッチンの隅に、運良く残った食器と保存食を見つけて、簡単なスープを作った。干し肉と少しの根菜を煮込んだだけのもの。だが、温かい匂いは確かに日常を取り戻していた。

 二人で、テーブルに向かう。

 壁の一部は崩れ、窓枠にはひびが入っていた。

 けれど、この小さな食卓はまだ壊れていなかった。

「……こんなふうに、二人で食事ができるなんて……信じられませんね」

 ノーラは、スープをすくいながら呟いた。

「信じられなくても、今は現実だ。ノーラがここにいる。それで十分だ」

 彼女が目を伏せ、そっと頷いた。

 スープの香りが、ゆっくりと部屋に満ちていく。

「エルド様……私、思ってたんです。きっとまた、壊れるんじゃないかって。せっかく得た日常も、幸せも、全部奪われるんじゃないかって……でも、違いましたね」

 彼女の目には、涙が浮かんでいた。

「確かに、街は壊れた。命も、失ったものもある。でも……それでも、生きている。ノーラも、俺も、ヨンクの民も」
「……はい」
「だから、もう逃げないでいい。奪われても、何度でも取り返してやる。俺たちが作ってきたものは、何度でも積み直せばいい」
「ええ……」

 小さく笑うその顔は、誰よりも強かった。

 そして、何よりも美しかった。

 焦げ跡の中、崩れた窓の外に広がる夜空の下。

 二人で食べた、たった一杯のスープが、何よりも暖かかった。

 誰に誇る必要もない。

 今、ノーラと一緒にいる。それだけで、俺の心は満たされていた。
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