お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。

イコ

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第五章

不穏な手紙

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 ディフェ王国からの使者が到着し、私の手元に届けられた手紙。
 
 新たな王になったアイス王からの直接な手紙であり、王国の正式な封蝋が押された、重要な書簡として届けられた。

 最初は、祝辞を送った返礼かと思ったが、あまりに違う内容に驚かされることになった。

 そこに記されていたのは、アイス・ミルディ・ディフェ王からの申し出だった。

『エルトール公爵フライ・エルトール殿へ。

 王国は、新たな同盟関係を築くために、我が妹を貴公の許嫁としたい。

 王国と貴公の領地が結びつくことは、双方にとって大きな利益となると確信している。

 王家の血を継ぐ妹を貴公に預けることで、王国と帝国との有効な関係の橋渡しになってもらいたい。

 また公爵領との絆をさらに深めたい。

 是非とも、前向きな返答を願う』

 私は手紙を読み終え、静かに息を吐いた。

「……なるほどね。また厄介なことをいっているな」

 王国がこのタイミングで、私に縁談を持ちかける意味。それを考えずにはいられなかった。

 ◇

 まず、アイスが王座に着いた今、国内の安定化を図るのは当然のことだろう。

 だが、それは彼の人望からすれば、ブライド皇帝よりもスムーズに進むと考えられる。

 そして、その次にやるべきことは、「外部の敵」との関係を調整することだ。

 王国にとって、最大の敵となりうるのはブライド皇帝率いる帝国。
 アイス王が王位に就いた時点で、戦争の幕開けは避けられない。

 その状況下で、王国は「頼れる味方」を求めるはずだ。

 そこで、私の名前が挙がっていたということか……。

 王国と帝国の境界線に位置する、エルトール公爵領。
 今は、セシリアを妻として迎えるための準備をしているので、エルトール公爵家に、公国が助力する話を聞きつけたのか?

 軍備を整え、要塞化を進め、食糧備蓄を万全にしている土として、これまでの準備もしられているだろう。

 さらに、私はブライド皇帝とも、表向きは友好的な関係を築いている。

 私がどちらの陣営につくかで、戦争の行方は大きく変わると判断されたのかもしれないな。

「フライ様、どうされるのですか?」

 エリザベートが不安そうな顔を私に向けてくる。

 もし、私が帝国に味方すれば、王国の防衛線は一気に崩れるだろう。
 逆に、私が王国側につけば、帝国の進軍は大きく制限される。

 だからこそ、アイスはここで先手を打ってきた。

「妹を嫁がせる」という名目で、私を王国陣営に引き込もうとしているのだ。

 しかし、これだけではない。

 もう一つ、重要な意味がある。

「王家の血を継ぐ妹を貴公に預ける」という文言。

 これは、単なる同盟の証ではない。

 つまり、アイス王の義理の弟として、仕えよといっているようものだ。 

 これは、私が王国の未来に深く関与する可能性を示している。
 ただの「同盟者」ではなく、完璧な主従関係の優劣をつけようとしている。

 そして、これを断れば、敵対者として考えるのだろう。

 仮に私が妹君を妻に迎えても、アイス王と敵対すれば、「裏切った義理の弟を討つ大義あり」という名目で大義名分を得られる。

 逆に、私が王国側につけば、将来的にエルトール公爵領を足がかりに帝国に襲撃を仕掛けられる。

 王国は、いずれにせよ損をしない策を打ってきたのだ。

 ◇

 問題は、ブライド皇帝がこれをどう見るか、ということだ。

 帝国と王国の間で均衡を保っていた私が、王国と縁を結べばどうなるか? ブライドがそれを「反逆」と見なす可能性もある。

 いや、むしろ彼は、それを「利用」しようとするだろう。

 「フライ・エルトールは王国と結びついた」と周囲に思わせ、帝国貴族たちの目を王国へ向けさせる。

 そして、その隙に帝国は王国へ侵攻する。

 アイス王は、私を味方に引き込もうとしながら、ブライド皇帝は、私を利用して王国を攻める口実にしようとする。

 ……やれやれ、本当に面倒なことになったな。

 ◇

 私は、封を閉じた手紙を机の上に置いた。

 エリザベートやアイリーンに相談すれば、彼女たちはおそらく「受けるべきではない」と言うだろう。

 セシリアに話せば、「王国の未来を考えるなら、関わらない方がいい」と助言するかもしれない。

 だが……。

「まぁ、どうするかは、僕次第ってことだね」

 私は軽く肩をすくめた。

 帝国と王国の狭間で、どう立ち回るのか。
 この縁談をどう利用するのか。

 決めるのは、私だ。

「さて……どうしたものかな」

 私はワイングラスを傾けて、夜空を見上げた。

 ブライドとアイス、二人の王の策略に挟まれる形になった私は、この戦争が本格的に始まる前に、答えを出さなければならなかった。
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