辺境伯令嬢はもう一度恋をする

紅子

文字の大きさ
16 / 24
カリストロ辺境伯領編

友達

しおりを挟む
あれから毎日、第3王子のゼクスが朝から話しかけてくる。会話に困っている私を助けてくれるのは、いつもセグリア公爵令嬢のシャンテーヌだ。私を睨みつつ第3王子に笑顔を振りまくという神業を見せてくれる彼女を私は好ましく思っている。昼休みも授業後も彼女が張り付いてくれるお蔭で、第3王子から距離を取ることが出来て、クラスの子達とも交流が出来るのだから。サルベニア辺境伯の次男ランゼットも同じクラスだけど、あちらはどうやらお目当てのお相手がこの学園に居るようで今のところ接触はない。



「ライレーネ様は、今月の末にある剣術大会はご覧になりますの?」

私にも友達が出来た。ラビアーヌ・ランゼル公爵令嬢とヒナリス・タラント侯爵令嬢とは、とてもいい関係を築けていると思う。

「ええ。領主の娘として初めての公務ですから婚約者と共に出席いたしますわ」

カリストロ辺境伯領では、学園に入学してから公務や執務やお茶会、夜会への参加が始まる。これは、この領地独特の決まり事だ。他者との関わりが本格的に始まり、だけだった今までの生活にこうが入り込んでくるのが学園であり、自分の立場を弁えることを叩き込まれる場所だからだ。それまでは、大いに遊んで大いに学ぶ期間なのだ。

「まあ、それは楽しみ、と言ってもいいのかしら?ご婚約者はアレンチュア公爵家のご令息でラインハルト様でしたわよね?」

「ええ。本当はわたくしも出場してみたかったのですけど、父様にもハルトにも止められてしまいましたわ」

「それは・・・・無謀では?」

そうだよね。ラビアーヌとヒナリスの驚いた顔の理由は分かる。なんせ、父様もお祖父様も絶句してたからね。ハルトは全く違う理由で止めた。私がハルトと渡り合える程度には強いことは誰も知らない。

「姫様は、お強いのですか?」

「どうでしょう?身を守る程度には、でしょうか?お祖父様にも呆れられましたわ」

ちょっとションボリとして誤魔化しておく。

「そもそも何故、剣術大会に出場しようとお思いに?」

え?楽しそう!って思ちゃったからなんだけど、どうしよう?

「・・・・楽しそうだった、から?それに、魔法を使っては駄目なんて知らなかったんですもの。いつも決勝戦を拝見していたのですけど、魔法なしであのように戦えるのですね」

上手い言い訳が見つからず、ボソッと本当のことを呟いた。

「姫様は不思議な魔法の使い方をなさいますものね。確かに魔法ありなら出場なさっても良さそうですわよね?」

「あ、魔法大会!そちらなら出場できるかしら?」

そっちなら、許してもらえそうじゃない?

「どうでしょう?」

ラビアーヌが困った顔でヒナリスに助けを求めた。

「わたくしはお兄様が出場なさるので、毎年見に行ってますけど、姫様がお出になるのは難しいと思いますわ。とても過激ですもの」

確かに。魔方陣を駆使する魔法大会は、剣術大会よりも人気が高く、そして、とても危険なのだ。無理だ。過保護な父様やお祖父様だけでなく、ハルトからも許可がおりるとは思えない。

「そういえばここ最近の優勝者は、ラインハルト様ですわね」

そうなんだよね。魔法省に勤めるハルトは毎年魔法大会に出場して、優勝している。

「グッ。ハルトにはまだ勝てません」

魔方陣を研究して魔道具を開発しているハルトに勝てるわけがない。寝食を忘れて、ああでもないこうでもないと推論を立てて地道にコツコツと実験と検証を繰り返すハルトに総ちゃんが重なる。総ちゃんも放っておくとコンビニ弁当に研究所泊まりで、不健康まっしぐらだったぁ、と懐かしくなって、ふと笑ってしまった。







「なら、私とペアで出る?」

ラビアーヌとヒナリスと魔法大会の話をした帰り、ハルトにダメもとで出場したいとお願いしてみた、その答えがこれだった。

「いいの?」

「レーネの実力がバレても構わないなら」

そうだ。それがあった。箱入り娘の私がハルトの足を引っ張ることもなく連携なんてしちゃったら、間違いなく後から追求される。

「まだ、ダメ。せめて、中央の学園に入るまでは死守したい」

「だよね。大会は諦めよう。その代わり、視察の前に街を見て回ろうか?」

「!」

ハルトの思いがけない誘いに私は胸を弾ませ、コクコクと頷いた。そんな私の頭にポンポンと軽く手を弾ませるハルトの仕草は擽ったくて、顔が赤くなってしまった。

「ふふ。こういうところ、さつきは変わらないね」

懐かしそうに言うハルトは、とても優しい顔をしている。

「そうだけど!」

認めるけど、慣れないだけで、嫌なわけじゃない。もう一度ハルトはポンポンとすると、笑って私の肩を抱き寄せた。私は。ハルトの背中に手を回してぎゅっと抱きついた。








そして、何だかんだとスキップすることもなく1年を終えた。ラビアーヌとヒナリス以外にも昼食を一緒に食べたり、帰りにちょっとだけ寄り道したりする友達も出来た。その婚約者も一緒に行くこともある。もちろん、ハルトは毎回それに付き合わされて、護衛をしてくれる。貴族街のショッピングくらいなら父様も何も言ってはこない。さて。

「2年生は、スキップしたい」

「理由は?」

ハルトが真面目な顔でこちらを見てくる。

「第3王子が鬱陶しいから。1年の時はシャンテーヌ様がいたから被害も抑えられてたんだけど、今年は中央の学園に通うって聞いたの。父親に呼び戻されたらしいよ」

「なるほどね」

ハルトはその理由も見当がついているようだ。

「それに、友達も出来たし、スキップしても特別な講義には出るんだから、交流がなくなるわけでもないし」

「2年からは専門科目が入ってくるけど、何を取るつもり?」

「えっと。領地経営科、淑女科、魔法科の3つ」

他には、侍女科、執事科、騎士科、医療科、教師科がある。ハルトは少し考えた後、頷いてくれた。

「高位貴族なら領地経営科と淑女科はみんなスキップして普通科に専念するし、魔法科は問題なくスキップ出来るね。全員共通の普通科の授業は言わずもがな。後は、領地経営科と淑女科の特別講義と魔法科の実習でいいんじゃない」

やったぁ!ハルトのお墨付きが出たところで、父様も同意してくれた。出来るならかまわないと。もちろん、危なげなくスキップできた。ラビアーヌとヒナリスも領地経営科と淑女科はスキップして、普通科に専念するようだ。意外と普通科はスキップが難しい。まあ、あの魔方陣を理解しろというのはなかなか酷だろう。そんな訳で、2年生は第3王子とも殆ど接触のないまま平和に過ぎていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語

みん
恋愛
【モブ】シリーズ② “巻き込まれ召喚のモブの私だけ還れなかった件について”の続編になります。 5年程前、3人の聖女召喚に巻き込まれて異世界へやって来たハル。その3年後、3人の聖女達は元の世界(日本)に還ったけど、ハルだけ還れずそのまま異世界で暮らす事に。 それから色々あった2年。規格外なチートな魔法使いのハルは、一度は日本に還ったけど、自分の意思で再び、聖女の1人─ミヤ─と一緒に異世界へと戻って来た。そんな2人と異世界の人達との物語です。 なろうさんでも投稿していますが、なろうさんでは閑話は省いて投稿しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

辺境令嬢ですが契約結婚なのに、うっかり溺愛されちゃいました

星井ゆの花
恋愛
「契約結婚しませんか、僕と?」 「はいっ喜んで!」  天然ピンク髪の辺境令嬢マリッサ・アンジュールは、前世の記憶を持つ異世界転生者。ある日マリッサ同様、前世の記憶持ちのイケメン公爵ジュリアス・クラインから契約結婚を持ちかけられちゃいます。  契約に応じてお金をもらえる気楽な結婚と思いきや、公爵様はマリッサに本気で惚れているようで……気がついたら目一杯溺愛されてるんですけどぉ〜!  * この作品は小説家になろうさんにも投稿しています。  * 1話あたりの文字数は、1000文字から1800文字に調整済みです。  * 2020年4月30日、全13話で作品完結です。ありがとうございました!

転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。 しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。 前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は なんとかして前世の約束を果たしたい ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい その一心で……? ◇ 感想への返信などは行いません。すみません。

前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 異世界の伯爵令嬢として生まれたフィオーレ・アメリア。美しい容姿と温かな家族に恵まれ、何不自由なく過ごしていた。しかし、十歳のある日——彼女は突然、前世の記憶を取り戻す。 「私……交通事故で亡くなったはず……。」 前世では地味な容姿と控えめな性格のため、人付き合いを苦手とし、恋愛を経験することなく人生を終えた。しかし、今世では違う。ここでは幸せな人生を歩むために、彼女は決意する。 幼い頃から勉学に励み、運動にも力を入れるフィオーレ。社交界デビューを目指し、誰からも称賛される女性へと成長していく。そして迎えた初めての舞踏会——。 煌めく広間の中、彼女は一人の男に視線を奪われる。 漆黒の短髪、深いネイビーの瞳。凛とした立ち姿と鋭い眼差し——騎士団長、レオナード・ヴェルシウス。 その瞬間、世界が静止したように思えた。 彼の瞳もまた、フィオーレを捉えて離さない。 まるで、お互いが何かに気付いたかのように——。 これは運命なのか、それとも偶然か。 孤独な前世とは違い、今度こそ本当の愛を掴むことができるのか。 騎士団長との恋、社交界での人間関係、そして自ら切り開く未来——フィオーレの物語が、今始まる。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

処理中です...